宮本輝著『流転の海』シリーズを読みました。
9作ある大河小説ですが、素晴らしい作品です。
終戦から2年経った昭和22年から物語は始まります。50歳になった松坂熊吾は無理だと諦めていた子宝に恵まれます。その妻房江と息子伸仁の3人の人生が描かれているのですが、ほんとに凄い。
ストーリーが凄いとか、壮絶とか、ハラハラするとかワクワクするとかではないんです。凄いとしか言いようがない。圧倒的な描写力と筆力で松坂熊吾の生きた世界に引き込みます。この作品を読む時はいつも、小説を読むというより、あの家族に会いに行くという感覚で本を開きます。
男の半生を描きながら、時代を描き、人間の業を描き、最も大切な事を伝えてくれる小説。読めて良かったというのが率直な感想です。
読み終えた後に、あとがき等で知ったのですが、この小説は作者宮本輝氏の父をモデルとして執筆されたとの事です。という事は伸ちゃんは筆者自身だったのか、この話はフィクションではなかったのかと思うと更に愛着が湧いてきます。勿論、小説的な味付けやエピソードは盛り込まれていると思いますが、実在した家族だったのかと思うともう一度読み返したくなります。
もっと驚いたのはこの小説がスタートしたのは1981年だという事。最終巻の9巻目『野の花』が出版されたのが2018年なので37年間をかけて完結しているという事です。凄すぎます。
私は何も知らないで、Amazonでなんとなく注文したのがきっかけで読み始めましたから、『流転の海』に関しての知識はゼロでした。むしろ、それで良かったのかもしれません。
読み終わってしまったら、流転の海ロスというか松坂熊吾ロスというか、あの家族に会いに行けないと思うと残念ですが、良い小説に出会えて良かったなと思いますね。色々なことを教えてくれる本です。
ゴールデンウイークに是非オススメです。