放送倫理水準向上などを目的に1951年に設立された、日本民間放送連盟(民放連)。
歴代の会長は各民放テレビキー局の最高幹部が務めるというこの組織が5月20日、「青少年に見てもらいたい番組」を発表しました。
各局がそれぞれ“推薦”する“いかにも”な番組がラインナップされているのだが、そもそも「青少年に見てもらいたい番組」とは何なのか。
この発表にはどういった目的があるのか。
民放キー局関係者はこう言います。
「これは毎年春と秋の番組改編期に、民放連会員の局がそれぞれリストアップしているものです。もともとは98年、放送団体が青少年と放送をめぐる問題について調査研究・検討を行なった結果、“青少年の問題行動に対して放送が直接の影響を与えるものではないとしても、公共の電波を預かる放送事業者として、何らかの“青少年のための番組向上策と自主規制”を行う必要がある”と結論づけたうえ、放送と視聴者との信頼関係を強めるためとして、より“目に見える形”の対応を打ち出すことを決定。 それを受ける形で、民放連が“青少年の知識や理解力を高め、情操を豊かにする番組を少なくとも週3時間放送する”と申し合わせ、99年以来続いています。今年は在京テレビ局が選んだ番組は計30番組、それ以外の135社の選定番組は計985番組でした」
そんな「青少年に見てもらいたい番組」とは――。
「青少年に見てもらいたい番組」在京テレビ局5社の選定番組
【TBS】
「東大王」
「報道特集」
「がっちりマンデー!!」
「サンデーモーニング」
「世界遺産」
【日本テレビ】
「クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?」
「それいけ!アンパンマン」
「嗚呼!!みんなの動物園」
「所さんの目がテン!」
「ザ!鉄腕!DASH!!」
【テレビ朝日】
「クイズプレゼンバラエティーQさま!!」
「林修の今知りたいでしょ!」
「ドラえもん」
「日本のチカラ」
「題名のない音楽会」
「人生の楽園」
「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」
【フジテレビ】
「今夜はナゾトレ」
「ボクらの時代」
「ちびまる子ちゃん」
「サスティな!」
「GO!GO!チャギントン」
「サザエさん」
【テレビ東京】
「YOUは何しに日本へ?」
「ナゼそこ?」
「ガイアの夜明け」
「新美の巨人たち」
「日曜ビッグバラエティ」
「家、ついて行ってイイですか?」
「正解の無いクイズ」
これら実際、在京テレビ局が選定した30番組のラインナップを眺めてみると、クイズ系や教養系、子ども向けアニメが中心で、おおむね「なるほど」感はあるものの、青少年を強く意識して制作している番組とは思えません。
事実、X(旧ツイッター)には
《青少年に見てもらいたい番組=青少年が見ていない番組》
《希望を述べただけですよね?》
などとツッコミが上がるほか、そもそもとして
《放送局の側からこうやって出すものではない》
という冷静な意見も。
TBSの日曜日朝の報道番組「サンデーモーニング」などは、出演者の顔ぶれからも高齢者向けの番組だと思われており、その一方で「それいけ!アンパンマン」「GO!GO!チャギントン」は幼児向け。
青少年のためにつくられているとはやはり考えづらいです。
また、「「東大王」「今夜はナゾトレ」「正解の無いクイズ」関西では見られない」という声も。
「東大王」「今夜はナゾトレ」は全国ネットだが関西では非放送、「正解の無いクイズ」もテレビ東京系列の中でテレビ大阪だけ非放送、それだけでなくその他の関西の独立UHF局でも放送していません。
「GO!GO!チャギントン」は地上波で放送する局が少なくなっており、放送はBSフジが主体となっています。
この一連の番組のラインナップに関して、元テレビ朝日社員でテレビプロデューサーの鎮目博道氏が、“局の事情”を明かしてくれました。
■「青少年に見てほしい番組」リストに抱く違和感の正体
「青少年に見てもらいたい番組」リストを見たという前出の鎮目氏だが、大きな疑問を感じたというそうです。
「“青少年に見てもらいたい”と言いつつ、お年寄りが喜ぶ番組ばかりですよね」(鎮目氏)と違和感の正体を指摘します。
「クイズ番組は『東大王』や『小学5年生より賢いの?』は、タイトルこそ青少年っぽい言葉が入っているものもあるものの、クイズ番組を脳トレよろしく好んで見るのはお年寄りばかり。『題名のない音楽会』や『世界遺産』といった教養系長寿番組も多く入っていますが、昔からの視聴層がそのまま上にスライドしているので、見ているのは中高年以上。『YOUは何しに日本へ?』もお年寄りが好きな番組です」(鎮目氏)
なお、TBSだけがリストの中に報道系番組を入れているうえ、「サンデーモーニング」と「報道特集」と2つもの番組を選定しています。
Xでは、特にこの2番組について
《どう考えても、今の青少年の価値観にも合ってないし、時代遅れだろw》
《子供に見せたいとは思わない》
と疑問を呈する声が多かったが、鎮目氏も「この2番組はどう考えても最初からシニア層がメインターゲットでしょう」と言います。
「結局、子どもたちに見てほしいというよりも、子どもが見ても親からクレームから来ないものがリストアップされているように見えます。結果的に毒気がなく、ハラハラすることもない、お年寄りが好む番組が勢ぞろいしてしまったということですね。お年寄りは心臓に悪い番組は見ないので」(鎮目氏)
子どもたちが「テレビばかり見ているとバカになるよ」と大人から散々脅されたのは、1980年代半ば頃までのことです。
当時の娯楽はテレビがメインだったうえに、“ヤンチャ”あふれる番組は魅力的で、放っておくと子どもがテレビから離れなかったため、親がなんとかして子どもをテレビから引き剥がそうと口にした言葉です。
「子どもが面白がるものは、いつの時代もちょっとヤンチャな番組です。80年代、90年代といわゆるテレビが元気な頃、同時に番組の“俗悪さ”を強調する声もあったので、そんな番組ばかりではありませんよ、お勉強になる番組もつくってるんですよというアピールとして、民放連が始めたのが『青少年に見てもらいたい番組』という流れでしょう」(鎮目氏)
■民放連会長になると……
80年代、90年代と違って、子どもにとっての娯楽と言えばテレビではなくなった昨今。
今やテレビは見ないという子どもも多くなってきています。
そんななか、「青少年に見てもらいたい番組」を発表してまで、子どもたちへとアピールをする民放連は、いったいどういう団体なのか。
「民放としての公共アピール、簡単にいえば“建前を言う係”です。会長は基本的に持ち回りで、在京テレビ局の最高幹部までいった人。現在は作家・遠藤周作さんの長男で、元フジテレビ社長の遠藤龍之介さんです。 業界の建前を代表しなきゃいけないので、会長になった人は、もともといた局を少しシャキッとさせなきゃいけないような雰囲気が漂います。歴代を振り返ると、民放連の会長になったとたんに、その会長の古巣である局で俗悪系の番組が終わることがあり、局内では“会長の建前のために終わるのでは”なんていう噂がまことしやかに流れがちです」(鎮目氏)
視聴者の声に耳を傾けることは大事だろうが、「怒られないこと」を意識し続けた結果、「問題はないけど誰も面白いと思わない番組が増えちゃった」と鎮目氏は指摘します。
「青少年に見てもらいたい番組」の選定が始まった25年前には考えられないほど、生活のなかでテレビの立ち位置が変わった今、そろそろ、その意義を考え直してもいいのではないでしょうか。