女優、声優、歌手として1950年代から長く活動した曽我町子さんは、なにより特撮界隈で広くその名を知られています。
それというのも、「レインボーマン」「電子戦隊デンジマン」をはじめとする数々の特撮番組で30年以上にわたり、いわゆる「悪の女王」役として出演し続けてきたからです。
さらには「恐竜戦隊ジュウレンジャー」の「魔女バンドーラ」役は海外でも大きな人気を博しました。
そのように、今でこそ「特撮の女王」として知られる曽我町子さんですが、特撮番組に出演する以前は「オバQの」と名前の前に付けられるほど、1965年放送開始のテレビアニメ「オバケのQ太郎」（原作：藤子不二雄）第1作目（TBS）で演じた「Q太郎」役の「声の人」という印象が強かったといいます。
同アニメは原作人気も相まって高視聴率を獲得したといい、一方で曽我さんはその「オバQ」のイメージからなかなか抜け出すことができなかったそうです。
曽我さんがオバQを演じたのは1作目だけでした。
2作目は制作は同じ東京ムービー（現在のトムス・エンタテインメント）だったが、放送局がTBSから日テレに変わったため、曽我さんはオバQ役に起用されませんでした。
TBS版のオバQはモノクロ作品であるため、日本で白黒テレビの放送が廃止された1977年10月以降は、懐かしのアニメ特集でまれに取り上げられることはあるが再放送されておらず、ビデオもDVDも発売されていません。
曽我さんはオバQで人気が絶頂期を迎えたのを機に、「オバQ」以外の方向性を模索する目的で1970年代初頭に芸能活動を休止してイタリアに留学、 3年近くにわたってイタリア、シリア、アフガニスタンなどヨーロッパから中東を渡り歩く生活を過ごしました。
転機になったのは、1972年にテレビ放送が開始された、いわゆる特撮ヒーローものである「愛の戦士レインボーマン」（NET（日本教育テレビ、現在のテレビ朝日））の「ゴッドイグアナ」役でした。
塩沢ときさん（故人）演じる敵キャラの、アマゾンの魔女「イグアナ」が大好評で、一度レインボーマンに倒され退場したものの、サイボーグになって復活する予定だったところ、塩沢さん側の都合でそのプランは頓挫してしまい、そこで急遽、イグアナの母親としてゴッドイグアナが誕生します。
なお、曽我さんの実年齢は塩沢さんよりひと回りほど若く、とても母親には見えないわけですが、「実際は老女だけど人の生き血を吸うことで若さを保っている」という設定のキャラクターでした。
なお、「レインボーマン」は曽我さんの出演作品の中で唯一の東宝制作です。
曽我さんは舞台役者の出身だったため、それまでテレビドラマの仕事などでは演技がオーバー気味になってしまっていたそうです。
そうしたなかで受けたゴッドイグアナ役について曽我さんは、「好きなようにやれるなって。リアルにしたらちっとも面白くないからね、自分の芝居をやりやすいのは子ども番組だったんです。これが私の生きる道だって感じましたね」とのことで、そこから「悪の世界」にすっかりはまり込んだ、と、かつてインタビューに答えて語っています（安藤幹夫「東映スーパー戦隊大全 バトルフィーバーJ・デンジマン・サンバルカンの世界」双葉社、2003年）。
曽我さんがゴッドイグアナの次に演じた役は、1976年に放送された「5年3組魔法組」（NET）の「魔女ベルバラ」です。
仲良し5人組に7つの魔法道具を授けてくれる人のいい魔女で、ときどき子どもたちにいたずらをして困らせる、という役どころでした。
そのようなベルバラのイメージを戦隊シリーズに移植したのが、「電子戦隊デンジマン」（1980～81年、テレビ朝日）の「へドリアン女王」です。
へドリアン女王は、頭の上と左右に伸びた角が特徴的な、極悪ながらもユーモアがあって憎めない悪役です。
それ以降、曽我さんの演じる「悪の女王」という役どころには、「悪」と共に「憎めない」という魅力が加わりました。
宇宙の星々をヘドロの海と一酸化炭素とで充満させて滅ぼす「ベーダー一族」を率いるヘドリアン女王は、妖魔術を使ってデンジマンたちを苦しめます。
最終回、ベーダー一族は全滅し、へドリアン女王は宇宙の果てに消え去りました。
しかし、へドリアン女王は1981年放送開始の次作「太陽戦隊サンバルカン」（テレビ朝日）でまさかの復活を果たします。
第5話にて、冷凍保存から蘇って機械帝国ブラックマグマに加入するのです。
長いスーパー戦隊の歴史のなかでも、同じキャラクターが2作連続でレギュラー出演した例は、後にも先にもありません。（2021年放送「機界戦隊ゼンカイジャー」および2022年「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」で駒木根葵汰さんが五色田介人役にて2作連続で出演しましたが、同姓同名の別人という設定でした）
それほどヘドリアン女王には、人気やインパクトがあったということなのでしょう。
また1987年に曽我さんは「光戦隊マスクマン」（テレビ朝日）にて、地底帝国チューブの司令「バラバ」の母「ララバ」として、第30話にゲスト出演しています。
さらに「スーパー戦隊」シリーズのみならず「メタルヒーロー」シリーズにも、「宇宙刑事ギャバン」「宇宙刑事シャリバン」（テレビ朝日）でのゲスト出演のほか、「女王パンドラ（「時空戦士スピルバン」）」「妖忍クモ御前（「世界忍者戦ジライヤ」）」役でレギュラー出演しました。
このように曽我さんは数多くの魔女、悪の女王を演じているのに、見た目も演技もどれひとつ同じものはなく演じ分けていることに驚きを隠せません。
コスチュームやメイクも曽我さん自身がアイデアを出し、ときには自前の衣装で撮影に臨んだとか。
1992年放送の「恐竜戦隊ジュウレンジャー」（テレビ朝日）における「魔女バンドーラ」役では、マンネリ化を防ぐため、呪文を自分で考えて、脚本家と何度も相談したという逸話も聞かれます。
その情熱が身を結んだのか、「ジュウレンジャー」の海外ローカライズ版である「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」（1993年）のドラマパート部分は、通常だと海外の俳優が演じるところを、曽我さんのバンドーラは「リタ・レパルサ」というキャラクター名でそのまま使用されました。
魔女リタは「パワーレンジャー」シリーズ一番の人気敵キャラとなり、曽我さんが亡くなった後もほかの女優に引き継がれています。
特撮番組最後の出演は2005～06年にかけ放送された「魔法戦隊マジレンジャー」（テレビ朝日）の「大天空聖者マジエル」役で、正義側の役どころでした。
この役は当初、男優の岡田真澄さん（故人）が演じる予定だったが、岡田真澄さんが体調不良のため出演を辞退、竹本昇監督の推薦によりその代役として曽我さんに依頼されたものでした。
しかし、実際には曽我さんもこの時すでに病魔と闘いながらの撮影でした。
その番組終了から約3か月後の2006年5月7日、曽我さんはすい臓がんのため68歳で亡くなりました。
曽我さんが亡くなった時、テレビ朝日以外のどの民放も彼女がオバQの声優だったという、よく知られた事例ばかりで紹介され、彼女が「特撮の女王」と呼ばれていたことには一切触れられていませんでした。
一方、「つながるテレビ@ヒューマン」（NHK）の中で「特撮の女王」として曽我さんの死去を取り上げ、曽我さんが演じた「電子戦隊デンジマン」のヘドリアン女王などのスチール写真を展示、「デンジマン」の主題歌も流れました
死後発売されたPlayStation2用ゲームソフト「宇宙刑事魂」（バンダイナムコゲームス）が遺作で、役どころは「暗黒銀河女王」という、「悪の女王」です。
曽我さんが演じた、極悪ながらも、どこか愛嬌がある魔女や女王のキャラクターたちは、曽我さんの情熱と努力の上に作り上げられたのだと痛感させられます。
曽我さん亡き後も、この素晴らしいキャラクターの数々は視聴者の心に末永く残っていくことでしょう。
曽我さんは特撮作品の魔女役が十八番であるだけに、それに対しては格別の愛着を持ち、自身が経営していたアンティークグッズの店「ステラ」では、演じてきた各魔女役にインスピレーションを受けた香水を自ら調合して、その役にちなんだ商品名で客に販売していました。
「TVチャンピオン」（テレビ東京）にも自分の演じた役柄に関するクイズの出題者としてゲスト出演したことがあり、勝ち抜いた挑戦者のためにサイン色紙を用意する、敗退した挑戦者とも対面し言葉を交わすなど、演じた役もファンも大事にしました。
声優の沢城みゆきさんは曽我町子さんに強い憧れを持っていました。
沢城みゆきさんは特撮ファンであるので、もちろんオバQの声優としてではなく、特撮の悪役に憧れていたのです。
沢城みゆきさんが「Go!プリンセスプリキュア」（朝日放送）に出演した時、曽我町子さんへの憧れから悪役での出演を希望していたが、年齢も若いことからプリキュア役のオーディションを受けており、 最初の役の悪の王女トワイライト／ブラックプリンセスでプリキュアの敵役として出演したことには、一時的ではあるが「長年の夢がかなった」と語っていました。
トワイライト／ブラックプリンセスの正体はホープキングダムの王女、カナタ王子の妹トワで、絶望の魔女ディスピアにより心の迷いにつけこまれていたが、プリキュアとの戦いで悪の洗脳が解け、炎のプリンセス・キュアスカーレットへと覚醒しました。
また、「Go!プリンセスプリキュア」と同時期に放送されたスーパー戦隊シリーズ「手裏剣戦隊ニンニンジャー」（テレビ朝日）にも、女怪人フタクチオンナの声で出演していました。
現在放送中のスーパー戦隊シリーズ「王様戦隊キングオージャー」（テレビ朝日）にも、敵の女怪人ヒルビルの声で出演しています。