小樽市総合博物館本館(北海道小樽市)で屋外展示されている電気機関車2両の変圧器に、有害な高濃度ポリ塩化ビフェニール(PCB)が含まれるとして、市が2両の解体の方針を決め、関係者から惜しむ声が広がっています。
ともに旧国鉄時代から道内で活躍し、うち1両はJR北海道が「準鉄道記念物」に指定しています。
車両全体が保存されているのは全国でも数例というそうです。
同館は、変圧器だけを取り出して処理することは難しいとし、8月にも解体される予定です。
同館によると、4月の専門業者による調査で、同館の屋外敷地に静態保存している電気機関車「ED75」と「ED76」の変圧器に、PCBが含まれていることが判明しました。
処理するには一定の作業スペースが必要だが、2両の周囲には重機などを設置する広さの確保が難しいというそうです。
8月にも今の展示場所で解体し、変圧器も処分する予定です。
一部の部品は解体後、屋内での保存展示を計画しています。
北海道にゆかりのある歴史的な鉄道車両を展示している小樽市総合博物館では、1968年8月の函館本線・小樽~滝川間の電化に備えて登場した交流電気機関車のED75形501号機(ED75 501)とEF76形509号機(ED76 509)の2機が相当します。
このうちED75 501は1963年の常磐線の平(現在のいわき)電化を機に誕生したED75形電気機関車をベースに、北海道向けに耐寒耐雪仕様とした試作的な車両で、北海道初の国鉄電気機関車として1966年に登場。
ED75形は暖房に使用する蒸気発生装置(SG)を持たなかったため、電化後は岩見沢~旭川間で貨物列車専用で運用されました。
理由は誘導障害の問題と、北海道の客車列車は蒸気暖房を使用するからです。
1986年に廃車となり、同館の前身に当たる北海道鉄道記念館が引き取り、2010年にJR北海道の準鉄道記念物に選ばれました。
ED76 509はED75 501の量産車的な位置づけで1968~1969年に登場したED76形500番台501~522のうちの1両で、北海道三笠市の三笠鉄道村幌内ゾーンには僚機のED76 505が展示されています。
ED76形500番台は蒸気暖房装置を搭載、道内電化後の主力電気機関車として、1994年まで現役で使われていました。
1989年に青函トンネル用にED76 514を改造したED76 551は2000年まで存続しました。
もともとED76形は1965年に九州地区向けの交流電気機関車として登場したが、北海道用の500番台は外観や性能が大きく異なります。
外観上の違いは、北海道用の500番台は前面貫通型(九州用は非貫通型)、側面の鎧窓は7枚(九州用は6枚)、パンタグラフは下枠交差型(九州用は一部がひし形)です。
1953年から1972年に国内で製造されたトランスには、絶縁性が高いとされているPCBと呼ばれる油が使われていたものがあるとされています。
しかし、PCBは毒性が強く、1968年に発生したカネミ油症事件では工場の熱媒体として使用されていたPCBが製造していた食用油に混入し大規模な食中毒を起こしたことで社会問題化しました。
1972年には当時の通商産業省が行政指導として、PCBの製造中止や回収などの措置を採り、1974年には製造、輸入、新規使用が原則禁止されました。
PCBは国際条約で2028年まで、日本では法律で2027年3月までに廃棄処分することが決められています。
PCB使用の疑いがある交流電気機関車の解体は急速に進んでおり、最近では2022年1月に宮城県利府町の森郷児童遊園で保存されていた国鉄交流電気機関車の元祖的な存在であるED91形電気機関車が解体されました。
また、京都鉄道博物館で保存されているトワイライトエクスプレスの電源車のカニ24形も、6月中に展示が終了することになりました。
車両の移動に必要な部品の調達が困難になったのが理由です。
前身の交通科学博物館の時代にも旧型の食堂車のマシ29形がナシ20形との入れ替えのために撤去、解体されました。
交通科学博物館の閉館が決まった時、京都鉄道博物館への移設の対象からD51形蒸気機関車、DD13形ディーゼル機関車、DF50形ディーゼル機関車、サンフランシスコのケーブルカーが外れました。
その後、D51形、DD13形、DF50形は津山まなびの鉄道館(岡山県津山市)へ、サンフランシスコのケーブルカーは大阪工業大学へそれぞれ移されました。
青梅鉄道公園(東京都青梅市)でも今後リニューアルが予定されており、その際展示車両の入れ替えが計画されています。
リニア・鉄道館で保存の車両の中でも、クロ381形が解体されました。
解体されたクロ381形はサロ381形を先頭車に改造したパノラマスタイルの先頭車でした。
2009年に閉館した佐久間レールパーク(静岡県浜松市)では、リニア・鉄道館への移設の対象から外れたED62形電気機関車、クモヤ12形電車、クヤ165形電車、クモエ21形電車、オハフ33形客車、ソ80形貨車が解体されました。
佐久間レールパークのある浜松市天竜区は地理上気温の変化が大きく、特に冬は車両の痛みが激しく休館せざるを得ず、これがリニア・鉄道館への移転のきっかけとなりました。
2020年3月に閉鎖された加悦SL広場(京都府与謝野町)でも、まだ移設先が決まっていない車両があり、移設先が決まらなければ解体される心配があります。
保存車両の維持には費用と手間が掛かります。
企業や自治体、ボランティアによって大切に保存されている車両も多くありますが、一方では放置され朽ち果てている車両も全国で見られます。
活躍した車両をなるべく後世に残してほしい、と願う鉄道ファンの気持ちはみな同じです。
しかし車両を管理する側は、やはりどこかで折り合いはつけなければなりません。
鉄道自体が斜陽化していると言われて久しい中、鉄道車両自体の保存についても問われているのかもしれません。