鉄道車両保存施設の「加悦(かや)SL広場」(京都府与謝野町)が2020年3月末での閉園を検討しているそうです。
同園は明治~昭和時代中期の鉄道車両を保存し、中には重要文化財になっている機関車もあります。
地方の鉄道保存施設としては大規模で状態も悪くなかったが、同園の苦境は地方での鉄道保存の難しさを浮き彫りにしています。
丹後ちりめんの機屋が出資して加悦鉄道が誕生したのは1925(大正14)年です。
1939(昭和14)年には大江山でニッケル鉱石が発見され、戦時中は鉱石の輸送も担いました。
加悦SL広場は1977年に加悦鉄道加悦駅に開園、同線の機関車や客車を保存しました。
加悦鉄道は1985年に廃線になるが、1996年に同線旧大江山鉱山駅跡に移転し、加悦鉄道で使われた車両を中心に現在までに27両を保存展示しています。
保存車両の中には1873年に製造された日本で2番目に古い蒸気機関車で、国の重要文化財指定を受けている「加悦鉄道2号機」(旧国鉄160号)や、長野電鉄から加悦鉄道に来た4号機関車や国鉄から譲り受けた1261号機関車などの機関車・客車・貨車など、歴史ある車両があります。
また「加悦鉄道キハ101号」は、車輪が2軸4輪の「ボギー台車」と、1軸2輪の車輪を1両に装備した珍しい「片ボギー」というタイプの気動車で、鉄道ファンの間では国内現存唯一の片ボギー車両として知られています。
キハ08形気動車は珍しい客車改造の気動車で、3両しか改造されませんでした。
旧国鉄の車両のように全国で活躍した、といった知名度には欠けるものの、このような稀少性の高い車両も保存されています。
また、大宮交通公園(京都市)で保存されていた蒸気機関車や、2003年に閉園した宝塚ファミリーランド(兵庫県宝塚市)で保存されていたアメリカ・ポーター製の蒸気機関車や京都市電も引き取って保存していました。
これらは単に線路上に保存してあるだけでなく、一部は走行できる「動態保存」で保存されています。
現在は加悦鉄道の後身で、海外から鉱石を運ぶ宮津海陸運輸(京都府宮津市)が車両を管理、地元のNPO法人加悦鉄道保存会が協力しています。
展示車両は定期的にメンテナンスがなされ、車両の他にも給水塔・信号機などの鉄道施設が残されています。
閉園検討のニュースは鉄道ファンにとって「寝耳に水」だったようです。
閉園検討の理由については、運営企業の宮津海陸運輸に「広場」の車両整備担当の社員が1人しかおらず、車両の老朽化も進んでいるためと報じられていました。
宮津海陸運輸の社員に加悦鉄道保存会も協力する形でメンテナンスをしてきたが、機関車の腐食は広範囲に及んでおり、手が回らないというそうです。
27両と数が多く、錆の進行や木製部分の劣化が激しくなっていました。
特に腐食が進んだ木製部分で来園客がけがをすることを危惧している状況です。
それでも車両については「貴重な文化財なので、このまま朽ちていくよりは残せる方法を色々検討し、残していきたい」と語りました。
展示車両の劣化と人手不足は、いずれも加悦SL広場に限らず、地方の鉄道保存に共通する課題のようです。
2018年12月には滋賀県彦根市の彦根駅で不定期公開されていた近江鉄道の「近江鉄道ミュージアム」が展示車両老朽化により閉館となり、保存していた同社の電気機関車の多くが解体されました。
加悦SL広場の他にも、地方には廃線・廃駅を活用した鉄道保存施設が数多くあります。
昭和50年代(1975年~)以降に地方で国鉄・私鉄ともにローカル線の廃線が進んだことも背景にあります。
しかし、保存車両も錆びや塗装の剥離から保護するためにメンテナンスが必要であり、そこに費用と人材が不可欠です。
施設ができた頃、熱心に保存に携わった人材が引退すれば、後継者不足に直面します。
地方では後継者になりうる人物・団体も容易には見つからないのが実情です。
既に昭和40~50年代に廃車後各地に保存された蒸気機関車が、状態の劣化で解体されるケースは多発しています。
加悦SL広場の閉館は決定事項ではないが、人手不足と地方の衰退は、鉄道趣味の分野も無縁ではないようです。
前出の近江鉄道での保存車両のうち、「ED31形4号機」はびわこ学院大学(滋賀県東近江市)の学生らのクラウドファンディング(CF)により解体を免れ、八日市市内の酒造会社で保存されました。
そして、ED31形のもう1両残った3号機も、東芝インフラシステムズ(神奈川県川崎市)で保存が決まり、搬出されました。
ED31形を製造(機械部分は石川島造船所=現IHI=が担当)したのが、東芝の前身となる芝浦製作所で、里帰りという形になりました。
東芝の博物館「東芝未来科学館」(川崎市)のホームページの「1号機ものがたり」というコーナーでは、ED31形を「日本初の40トン直流電気機関車」と紹介しており、「民間企業初」という記述もあります。
同機が同社の歴史の中で大切な「製品」であることが分かります。
このような有志の善意に頼らなければ、地方では次世代への鉄道遺産の継承は困難ではないでしょうか。
本州のJR三社や大手私鉄が運営する鉄道博物館は活況を呈しているものの、地方では苦境にあえぐ鉄道遺産もあり、後者をいかに継承していくかは観光・産業史の視点からも無視できない課題となるかもしれません。
追記です。
「加悦SL広場」が2020年3月31日限りで閉鎖されることが決まりました。
宮津海陸運輸が2月17日に発表しました。