消されていくガザ
https://tanakanews.com/240225gaza.htm
イスラエルが3月後半に、ガザ最南部のラファに対する本格的な空爆や地上侵攻を開始する見通しになってきた。
イスラエルは、イスラム世界が断食月(ラマダン)入りする3月10日までにハマスが人質全員(150人ほど)を解放しない場合、ラファ攻撃を開始すると宣言している。
イスラエルはすでに散発的にラファ周辺を空爆している。
ハマスは少しずつしか人質を解放しておらず、3月10日までの全員解放はなさそうなので、イスラエルは3月15-25日ぐらいにラファを本格侵攻する可能性が高い。
(Israel Sets Timeline To Start Of Rafah Offensive, Issues Hamas An Ultimatum)
最南部のエジプト国境に面するラファと、その隣のハンユニスには150万人以上の避難民を含め、200万人以上のガザ市民のほとんどがいる。
超過密状態だ。
10月からイスラエルに攻撃され続けているガザは、廃墟にされた北部を中心に、大半の地域が破壊されて居住不能になり、ガザ市民の大半が避難民として最南部に逃げてきている。
イスラエルは、超過密なラファを空爆するといっている。
市民は逃げ場がなく、大量の死者が出る。
(Israeli Airstrike Hits Rafah, Claiming Lives and Sparking Outrage)
ラファは、すぐとなりがエジプトだ。
エジプト政府がラファの国境検問所を開けてくれれば、ガザ市民はエジプトに避難して生き延びられる。
ガザにはもう逃げ場がないので、エジプトが唯一の避難先だ。
だが、エジプトはラファの開放を拒否している。
エジプトは、ガザに救援物資を入れることに積極的だが、ガザから市民が入国してくることは許さない。
支援物資で食いつなげるようにしてやるからエジプトに入ってくるなという姿勢だ。
イスラエルは逆に、ガザ市民をエジプトに追い出すことに積極的なので、ガザに支援物資を入れたがるエジプトや欧米の動きを検問強化などで邪魔している。
(Israel Further Limits Aid Into Gaza, Leading to More Starving Children)
ラファを開けると、ガザ市民の大半がエジプトに移動する。
イスラエルは市民がガザに戻ることを拒否するので、ガザ市民は永久にエジプトに住むことになる。
ガザはイスラエルに奪われたままになり、パレスチナ国家の建設が難しくなる。
エジプト政府は、ガザ市民の入国を許せばイスラエルの思う壺で、「アラブの大義」であるパレスチナ国家建設を何より(ガザ市民の命よりも)重要と考えてラファ開放を拒否している。
悪いのはイスラエルだが、イスラエルを非難している間にガザ市民がどんどん殺されていく。
エジプトだけでなく、国連や国際社会も、パレスチナ国家建設を非常に重視してきた。
イスラエルはずっと前からガザ市民をエジプトに(西岸市民をヨルダンに)追いやろうとしてきたが、国際社会はパレスチナ国家建設を理由にそれを許さず、パレスチナ人をガザと西岸に閉じ込めてきた。
(イスラエルでなく米覇権を潰すガザ戦争)
エジプト(やその背後の米サウジ)がラファを開放しない理由はもう一つある。
それは、200万人のガザ市民がエジプトに引っ越すと、ガザ市民の多くは熱烈なハマス支持なので、エジプトでハマス=ムスリム同胞団の政治力が急増し、軍事政権が倒され、クーデター前にあったムスリム同胞団の政権が復活してしまう。
アラブの春が再燃し、連動してヨルダンも王政が転覆されてハマス化していく。
同胞団は、アラブ諸国(イスラム世界)全体をイスラム主義の政権に転換して統合することを目標にしてきた。
同胞団が武装し、米国に操られつつテロをやるとアルカイダになる。
ハマスは同胞団のパレスチナ支部だ。
(ずっと続くガザ戦争)
同胞団は、共産主義や民族主義の代わりにイスラム主義を使った反植民地・反支配運動の国際組織なので、米欧や、数年前まで米傀儡だったサウジ王政などは同胞団を敵視してきた。
反米反サウジだったイランはハマスを支援し、米欧はハマスをテロ組織とみなしている。
イスラエルは、パレスチナ国家を作らせたくないので、米国の敵であるハマスをこっそり強化し、パレスチナ人がハマスを支持するように仕向け、テロリストであるハマスを支持しているパレスチナ人は全員テロリストだという理屈を使ってガザや西岸で弾圧を繰り返してきた。
(イスラエルの虐殺戦略)
米国はそれを黙認してきた。
そのイスラエルの策略を猛烈に強めたのが今回のガザ戦争だ。
イスラエルは「ハマスを完全に潰すまでガザを攻撃する」と言いつつ、ハマスを弱めず市街の破壊だけ徹底にやる戦術をこっそり続けている。
ガザ市民を皆殺しにされたくなければ、エジプトがラファを開けて市民のエジプト流入を許すしかないぞ、とイスラエルは加圧し続けている。
イスラエルはこの加圧が脅しでないことを示すため、ガザをどんどん破壊して市民を大量殺害している。
(Israeli Military Says Hamas Will Not Be Defeated in Gaza Offensive)
ハマスはイスラエルと戦いつつ、自分たちがエジプトに追い出されてエジプトの政権を取っていく流れをイスラエルが作ってくれていることを自覚している。
ハマス(同胞団)は、パレスチナを失うが、代わりにエジプトとヨルダンを得る。
アラブの大義は失われるが、本音では不満でないだろう。
イスラエルは、ガザ開戦後、パレスチナ国家の創設を全否定し続けている。
ネタニヤフ首相が提案したパレスチナ全否定を、議会は圧倒的多数で可決した(120定数のうち99賛成)。
アラブ系と労働党だけが反対した。
イスラエルは二度とパレスチナ国家を認めず、途中まで作られた国家体制を破壊し続ける。
(Israeli Knesset Overwhelmingly Backs Netanyahu’s Rejection of a Palestinian State)
(Netanyahu Defiant After Biden Phone Call, Rejects Push For Palestinian State)
以前(1995ラビン暗殺後)のイスラエルは、パレスチナ国家の建設をしぶしぶ認めていた。
それは当時まだ強い覇権国だった米国が、パレスチナ国家建設を求めていたからだ。
米国はその後、911テロ事件以後の稚拙で過激なテロ戦争や中東政権転覆策などによって覇権を浪費していったが、それを推進した象徴的な勢力は、米中枢に巣食ったシオニスト(イスラエル建国運動家)のネオコンだった。
イスラエルにとって米覇権の強さが唯一の後ろ盾なのに、ネオコンは過激で稚拙な中東戦略を意図的にやって米覇権をわざと自滅させ、米覇権を弱めて露中イランなど非米側の勢力を強化して世界を多極化した。
だから私は従来、彼らを「親イスラエルのふりをした反イスラエルの勢力」とか「隠れ多極主義者」と呼んできた。
(ロシアの中東覇権を好むイスラエル)
だがもしかすると、ネオコンは真のイスラエル支持者として、米国の覇権を自滅させ、世界を多極化したのかもしれない。
なぜなら、ヨルダン川から地中海までのイスラエル建国予定地の中にパレスチナ国家を創設してイスラエルの弱体化を画策した張本人は、米国と、その黒幕(前覇権国)である英国だったからだ(米国は、英国の傀儡としてパレスチナ国家建設を求め続けた)。
米英覇権が20年かけて自滅したところで、イスラエルがハマスとこっそり組んでガザ戦争を起こし、パレスチナ国家の消滅に向けて全力で動き出した昨秋以来、パレスチナ国家建設を本気で守ろうとしている強い勢力は全くいない。
(The EU’s flagging credibility in the Middle East)
米国はイスラエルの傀儡を演じ、安保理でのガザ停戦案に対して拒否権を発動し続けている。
米国の傀儡であるEUも、米国の言いなりでイスラエルを非難しない。
イランとサウジは中国の仲裁で仲直りしたのだから、巨大産油国である両国が組んでOPEC+も巻き込み、イスラエルとその親密諸国に対する石油輸出を止めれば、1970年代の中東戦争時の石油危機の時のような政治力を発揮できる。
だが、イランもサウジもそんなことはせず、口で非難するだけで、イスラエルがガザ市民を殺し続けるのを黙認している。
サウジは、ガザ戦争が終わったらイスラエルと国交正常化する構想を捨てずに表明し続けている。
(Blistering Saudi Statement Slams Door On Normalization With Israel)
サウジは、パレスチナ国家の確立をイスラエルと国交正常化する条件としている。
確立できないならイスラエルと和解しないという意図にもとれるが、その場合、今後パレスチナ国家が確立する可能性はほぼゼロなのだから、和解構想自体を表明する必要がない。
和解構想を表明し続けていること自体、サウジが、パレスチナ国家が作られなくてもイスラエルと和解する可能性があることを示している。
米国は覇権隆盛時にイスラエルを加圧してパレスチナ国家を認めさせたが、今後の多極型世界でそんな強力な国はない。
今後の中東を率いるサウジ(やイランやトルコ)は、パレスチナ国家をあきらめてイスラエルと和解していくしかない。
('Hallucination' or realpolitik? Netanyahu's long shot at Israel-Saudi normalization)
イランは、イスラエル潰しよりも、自国傘下のハマスがエジプトやヨルダンの政権を取っていくことの方を重視しているようだ。
イスラエルは、シリアなどでイラン系の勢力を空爆して殺害・攻撃しているが、イランは通りいっぺんの口頭非難をするだけだ。
トルコのエルドアンも、口ではイスラエルを強く非難するが、トルコからイスラエルへの石油供給を止めていない。
トルコの与党(エルドアン政権)は(隠れ)ムスリム同胞団で、イスラエルがハマスにエジプトやヨルダンの政権を取らせてくれることの方を重視している観がある。
(China's 'Shock' Statement: Palestinians Have Right To Use 'Armed Force' Against Israel)
ロシアや中国は中立だ。
ロシアは親イスラエル、中国は親アラブで役割分担している。
印度は反イスラムの一環で親イスラエル。
ブラジルや南アフリカはイスラエル敵視だが戦争を止める力がない(だから気楽に非難できる)。
BRICSは親イスラエルと反イスラエルで分裂してるから弱体化すると、米国側マスコミが書くが、非米側は米国側のように思想信条で敵味方を固定せず、もっと現実的で柔軟だ。
むしろG7など米国側の方が、思想信条で敵味方を決めて自滅している。
(Weighing the political fallout from Lula's Nazi comment)
米英が覇権喪失してみると、残りの諸国(非米側)は、イスラエルがパレスチナ問題を丸ごと軍事的に潰すことにあまり反対していない。
こういう状況を事前に踏まえた上で、イスラエルはガザ戦争を始めたのだろう。
最近、トルコとカタール、UAEがイスラエルとハマスの仲裁に動き続けている。
トルコとカタールはハマスと親しく、UAEはイスラエルと国交がある。
仲裁内容は人質解放の話だけでない。
エジプトにラファを開けさせることもおそらく議題になっている。
(Turkey’s Erdogan receives red-carpet reception in Egypt, calls Sisi 'brother')
エジプトは最近、ラファに接するエジプト国内の土地を使って、5万人を収容できる難民キャンプを整地した。
キャンプは逃亡防止の高い壁に囲まれている。
イスラエルがラファ空爆を本格化し、ガザ市民をエジプトに避難させないと殺されてしまう事態になったら、エジプト政府はラファ国境を少し開けて5万人以内のガザ市民を受け入れる予定にしたのだろう。
キャンプ整地工事が発覚するのと同時期に、トルコのエルドアン大統領がエジプトを訪問し、シシ大統領と話をしている。
(Egypt Building Walled Camp in Sinai Desert to Absorb Palestinian Refugees from Gaza)
問題は、ラファからエジプトに避難する人数が5万人をはるかに超えそうなことだ。
イスラエルが本格空爆したら、ラファ周辺にいる150万人のほとんどが、エジプト側に逃げないと殺される状態になる。
国際社会からエジプトに、ラファ国境を開けろという圧力・叫びが強まる。
エジプト当局がラファを少し開け始めたら、イスラエルはここぞとばかりに空爆を激化し、ラファを人道的なパニック状態に陥れ、できるだけ多くのガザ市民をエジプトに追い出そうとする。
(Egypt builds mysterious wall near Gaza – media)
5万人のエジプト側キャンプはすぐに満杯の超過密になり、数十万人が入りきれない状態になる。
エジプト当局は、流入したガザ市民を難民キャンプに閉じ込めるのでなく、キャンプ外のエジプト(シナイ半島)での生活を許すしかなくなる。
イスラエルは、ラファ周辺も含めてガザ全域の市街を破壊し続け、市民がガザに戻ってこれないようにする。
イスラエルは今後のラファ本格攻撃で市民を全員エジプトに追い出し、ガザを消してしまうことを目標にしている。
(Egypt Erects 8-Square-Mile Walled Enclosure In Sinai Desert For Rafah Refugee Spillover)
パレスチナ人だったガザ市民は、もうパレスチナ(ガザ)に戻れなくなり、パレスチナ人でなくエジプト人(アラブ人)になっていく。
パレスチナのもう一つの地域であるヨルダン川西岸でも、イスラエル入植者がパレスチナ人の村を焼き、抵抗する人々を殺しまくる極悪な民族浄化の殺戮が拡大している。
この民族浄化も、誰も止めることができない。
イスラエルは、西岸のパレスチナ人をヨルダンに追い出し、ガザ消滅と合わせ、パレスチナの存在を消そうとしている。
(Starving Gaza: Egypt and Israel's Rafah weapon)
米国は、イスラエルの動きを傍観・擁護するだけだ。
米政府の上層部はネオコン系に乗っ取られている。
たとえばガザ仲裁に努力するふりをしつつ何の成果も生まないブリンケン国務長官は、ユダヤ人でシオニストのネオコン系だ。
彼らは、イスラエルがパレスチナを消していくことを許すだけでなく、イスラエルがパレスチナ人を大量虐殺しても米国や国連、国際社会が何も対応できない状況を作っている。
その流れは、戦争を止める国連安保理の機能や、米英が覇権維持のためにやっていた人権外交の構図を破壊している。
国連安保理の機能は、破壊されることによって、中露など非米諸国が、国連改革という名の国連の非米化・欧米の政治力を縮小させることをやりやすくする。
(War On UN - West Retaliates Against ICJ Order By Defunding Humanitarian Mission For Palestine)
巨大な殺戮と破壊を伴ってパレスチナはなくなっていく。
誰も止められない。