チンピラ国家アメリカの相手で大変なフィリピン 7 | きなこのブログ

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フィリピンの対米自立
https://tanakanews.com/161005philippines.htm
 
フィリピンで6月末に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、これまで事実上の「宗主国」だった米国との軍事主導の同盟関係を疎遠にするとともに、米国のライバルである中国やロシアに接近する動きを続けている。
 
ドテルテは、米比の同盟関係の象徴だった合同軍事演習(10月4-12日)は今年が最後だと宣言する一方、米国でなく中露から兵器を買うと表明している。
 
ドテルテは、フィリピン南部のミンダナオ島の主要都市ダバオの市長を22年にわたって続けてきた。
 
ドテルテは市長時代から全国的に有名だったが、その理由は外交でなく、麻薬など犯罪組織の取り締まりに超法規的な政策をやったからだ(思想的には親中国的な左翼)。
 
ミンダナオはイスラム教徒が多く、キリスト教が主流派の中央政府との対立、蜂起と弾圧が大昔から続き、麻薬など犯罪組織もはびこってきた。
 
当局側に財政などの力がなく、麻薬や犯罪の取り締まりが追いつかない中で、ドテルテは、各地の地元の武装した自警団が犯罪組織の関係者を殺して良いと奨励し続けてきた。
 
この超法規的な殺人の奨励によって、ドテルテは90年代から欧米の人権団体に非難されている。
 
だが、当局が組織犯罪を取り締まれない状態に苦労させられているフィリピン国民の間ではドテルテの人気が高く、その人気で彼は大統領に当選した。
 
ドテルテの超法規的な犯罪取り締まり政策は、法律的に間違っているかもしれないが、人々に支持され「民主的」であり、政治的には正しい。
 
フィリピンは先代のアキノ政権時代、ASEANの中で最も強く南シナ海紛争で中国と対立してきた。
 
2010年からのアキノの時代は、米国が11年に中国包囲網(アジア重視)の宣言を行い、南シナ海紛争に介入して中国敵視を強めた時期だ。
 
アキノ政権はそれに乗るかたちで、冷戦後のフィリピンの対米自立の傾向を逆流させ、冷戦後いったん撤退させた米軍の再駐留を認め、軍事安保の対米従属を強めた。
 
ドテルテは、アキノが強めた対米従属・中国敵視を再び転換・逆流させ、対米自立・反米姿勢強化・対中国融和の道を歩み出している。
 
▼フィリピンの転換にこっそり安堵するASEAN
 
ドテルテは、大統領選挙の期間中、当選したら対米従属をやめて自立した外交戦略をやると繰り返し宣言していた。
 
米国による内政干渉には腹が立つとも表明し、それが有権者からの支持増加につながった。
 
6月30日の大統領就任と同時に、南シナ海の領土問題で中国との敵対をやめて話し合いを進める方針を打ち出した。
 
中国と和解し、南シナ海の海底油田などを中比の共同開発にすることで、経済利得を得ようとしている。
 
7月12日に国連海洋法条約に基づく南シナ海紛争に関する国際裁定が出て、フィリピンの圧勝・中国の敗北だった。
 
世の中では、フィリピンがこの勝訴に乗って米国と組んで国際的に中国批判を強め、中国に譲歩を迫るという見方が強かったが、ドテルテは正反対に、ラモス元大統領に交渉役を頼み、中国と2国間交渉で和解することを模索した。
 
米国や、アキノ時代のフィリピンは、ASEANを団結させ、中国をASEANとの多国間交渉に引っ張り込もうとしていた。
 
対照的に中国は、ASEANと対等になってしまう多国間交渉を拒否し、中国が優位に立てる、各国との個別の2国間交渉を望んだ。
 
ドテルテは、紛争をASEANに持ち込むことをやめ、中国が好む2国間交渉で進める方針を表明している。
 
ドテルテは、南シナ海の自国の領海外の海域でフィリピン軍が警備活動をすることをやめ、米比海軍合同の警備からも離脱するとともに、南シナ海での米比合同軍事演習を今年で最後にすると発表した。
 
これらも、中国が嫌がることをやらないことにしたドテルテの姿勢が感じられる。
 
ドテルテの反米姿勢が世界的に有名になったのは、9月初めのラオスでのASEAN拡大サミットだ。
 
ドテルテとオバマの初の米比首脳会談が予定され、オバマはドテルテの、犯罪組織員の殺害を国民に奨励する超法規政策を批判するつもりだった。
 
この件で記者に尋ねられたドテルテは、内政干渉だ、植民地時代に米国がフィリピンでやった殺戮を逆に問題にしてやると激怒し、俺に喧嘩を売るオバマは馬鹿野郎だと言い放った。
 
ドテルテは、全体会議での演説の時も、米国が植民地時代に無数のフィリピン人を殺害したと、当時の写真を見せながら批判した。
 
オバマはドテルテとの公式会談を取りやめた。
 
国際マスコミは「人殺しを容認する米国敵視の危険人物」ドテルテを批判的に描いた。
 
すでに書いたように、フィリピンの超法規殺人は犯罪取締政策として長い歴史がある。
 
その事情も勘案せず人権侵害と騒ぐ米国務省や国際マスコミの方が、内政干渉や意図的な頓珍漢をやっている。
 
ドテルテは、このASEAN会議以降、米国と喧嘩する一方で、他の東南アジア諸国とは良い関係を維持している。
 
米中両方と協調したいASEAN内で、これまでフィリピンは南シナ海紛争で最も中国に敵対的な国だったので、大統領がドテルテに代わって一気に対中協調に転じたことに、他の諸国はむしろ安堵している。
 
米比は同盟が強固なほど中国敵視も強まるので、ドテルテの反米姿勢もASEANを危険にしない。
 
フィリピン同様、島嶼的な地域の多様性に基づく治安の不安定を抱えるインドネシアの麻薬取り締まりの長官(Budi Waseso)は、フィリピン型の超法規的な取り締まり政策を自国でも検討したいと表明した。
 
「もちろん法律や国際基準には従います」と弁解しつつ。
 
ドテルテはその後、アキノ前大統領が14年に米国の再駐留を認めた米比協定(EDCA)を放棄するかもしれないと表明した。
 
EDCAの協定文書にはアキノの署名がないので協定に効力がなく、口約束にすぎないことが発覚したからだという。
 
ミンダナオに駐留する、イスラム勢力と戦う米軍特殊部隊に撤退を求める発言も放った。
 
特殊部隊はすでに昨年から撤退に入っているが、米軍部隊はイスラム勢力との敵対を扇動するばかりで事態を悪化させ続けてきたので、早くすべて出て行ってほしいとドテルテは批判した。
 
彼はまた
 
「米国はわれわれに敬意を払わず、内政干渉ばかりしてくる」
 
「そのことをロシアのメドベージェフ首相に話したら、全くそのとおりだ、それが米国の本質だと同意してくれた」
 
「米国は中東にも介入し、テロを逆に増してしまう大失敗をしたのに謝罪も反省もしていない」
 
「米国が良い関係を持ってくれないので、米国のライバルである中露と良い関係を結びたい」
 
といった趣旨の発言を繰り返している。
 
ドテルテは10月下旬に財界人たちを引き連れて訪中する。
 
▼フィリピンの大富豪支配を終わらせる
 
ドテルテは、米国との同盟を切るような発言を繰り返しつつも、発言で表明したことを公式に米国に伝えていない、と米政府は言っている。
 
だから米政府は「フィリピンとの同盟関係が変わることはない」と言っている。
 
ドテルテの発言は、あとから希釈や謝罪めいた釈明が側近や本人から出されることも多い。
 
ミンダナオの米軍部隊に撤退を求めつつも、フィリピン全体からの米軍撤退は求めていない(比軍はASEANで最も弱い国軍)。
 
これらを考えると、ドテルテは、米国との軍事安保関係をすべて早急に切りたいのでなく、米国との安保関係を維持しつつ、従来の対米従属を離脱して自立的な外交を増やすことがどこまでできるか、観測気球を揚げ続ける意味で、米国批判や軍事関係の切断を表明して見せているのでないかと感じられる。
 
どのくらい対米従属を離脱したら、どのくらい中国がフィリピンに経済支援してくれるかも、同時に測定しようとしているのでないか。
 
ドテルテが対米従属からの離脱を試みるもうひとつの理由は、国内政治だ。
 
フィリピンの政治経済は、アキノ前大統領の一族など、いくつかの大金持ちの家族たちに支配されている。
 
フィリピンの対米従属を支えてきた彼らは、米国の上層部と結託して相互に儲けつつ、権力を独占してきた。
 
ドテルテは支配家族たちの代理人でない。
 
ドテルテは、支配層に妨害されつつ大統領になった(だからドテルテはフィリピンのトランプと呼ばれる)。
 
大統領選挙で、支配層の持ち物であるいくつかの比マスコミはドテルテを批判的に報じ続け、大統領になってしばらくの間、ドテルテとそれらのマスコミの関係が悪かった(その後マスコミは権力を握ったドテルテに擦り寄ってきた)
 
ドテルテが、国内の既存の支配層が持っていた隠然独裁的な権力を破壊し、彼なりの「真の民主化」を進めていく方法として、対米従属からの離脱や、中露との協調強化がある。
 
対米従属を国策に掲げる限り、ドテルテよりアキノ家など既存の支配層の方が米国とのパイプがはるかに太く、ドテルテはそのパイプに頼らざるを得ないので、権力構造が従来と変わらない。
 
だが逆に、対米自立して中露などに接近すると、その新たな体制の主導役は、新規開拓を手がけたドテルテ自身になり、既存の支配層の権力を枯渇させられる。
 
かつて日本の鳩山(小沢)政権は、対米自立と対中国接近をやることで、日本の権力を戦後一貫して隠然と握り続ける官僚機構から権力を剥奪しようとした。
 
それは1年で失敗に終わったが、ドテルテはそれと似たようなことをやり始め、今のところ既存の支配層に対して勝っている。
 
日本の官僚機構は、フィリピンの既存支配層よりはるかに巧妙で、米国支配の悪い部分をうまく隠蔽し、日本人の多くは対米従属が一番良い国策であると信じ込んでいる。
 
フィリピンでは支配構造がもっと露骨に見えるので、米国をまっすぐ批判するドテルテが国民の支持を集め、成功している。
 
ドテルテの戦略の背景に「多極化」の傾向がある。
 
米国の単独覇権体制が崩れ、中露の台頭が進んで世界が多極型に転換しているため、対米従属をやめて中露との関係を強化することが、世界的に合理的な国際戦略になりつつある。
 
米単独覇権体制は戦後70年も(先代の英国覇権も含めると200年も)続いてきたので、世界の多くの国の支配層が、対米従属の国策を基盤にして権力を維持している。
 
だから、たとえ合理的な戦略でも、対米自立・多極化対応は、多くの国の支配層にとって、やりたくないことであり続けている。
 
だが、ドテルテの場合は逆に、対米自立・多極化対応することが、自分の権力強化にもなっている。
 
ドテルテは、対米自立・多極化対応の観測気球的な発言をガンガンやって測定した後、実際に動き出すつもりだろう。
 
米政府は、ドテルテが売ってくる喧嘩を買わないようにしている。
 
国務省も国防総省も、米比関係は問題ないと言い続けている。
 
米政府がドテルテの喧嘩を買って米比関係が悪化すると、ドテルテは中露との結束を強めつつ対米自立によって自らの権力を強化し、米国にとって便利だったフィリピンの既存支配層が無力化されてしまうばかりだ。
 
トルコのエルドアン大統領も最近、やらせ的な部分があるクーデター騒ぎを機に米国から急に距離を置き、米国批判を繰り返している。
 
トルコも冷戦開始後ずっと対米従属的な国策を続け、既存のエリート層(世俗派)がそれを権力基盤にしていた。
 
00年から権力を握ったイスラム主義のエルドアンは、世俗派エリート層を追い出しつつ権力を強化し、最近はその仕上げの時期にある。
 
エルドアンも、ドテルテと同様、米国との関係を意図的に悪化させることで、対米従属に依拠していた既存の支配層を無力化し、自らの権力を強化しつつ、自国の権力構造を転換しようとしている。
 
フィリピンは対米自立に動き出しているが、日本は今後も動きそうにない。
 
ドテルテから見ると、日本は米国と一蓮托生で敵視すべき相手かと思いきや、そうでない。
 
ドテルテは日本に友好的だ。
 
欧州や豪州にはドテルテを批判する勢力がいるが、日本はそれもない。
 
ドテルテは、米国への依存を減らす穴埋めとして、中露だけでなく日本との関係強化を考えているようだ。
 
ドテルテは日本の対米従属を問題にしていない。
 
日本はフィリピンに対し、中国敵視を念頭に、南シナ海で中国と対立するための軍艦類をいろいろ支援している。
 
ドテルテのフィリピンは中国と対立する軍事行動をやめており、軍事支援は日本側にとって無意味になっているが、それも無視されている。
 
日本がフィリピンに軍事・経済支援し続けるのは、米国が日本に対し、米国の分も日本がフィリピンに軍事・経済支援し、フィリピンが日本を通じて米国の間接覇権下にいるようにしてくれと要請しているからだろう。
 
米国の覇権が衰退する中で日本がフィリピンを支援し続け、フィリピンが日本にとって戦後初めての海外の影響圏になっていくのでないかというのが、以前の「日豪亜同盟」の時に感じられたことだった。
 
しかし、ドテルテが対米自立を強めつつ中露に接近していくと、もはやフィリピンは日本の影響圏でなくなり、中国の影響圏に入る可能性が増していく。
 
米国の覇権が低下する中で、日本が中国に対抗してフィリピンへの影響力を伸ばそうとすると、それは日本の対米自立を促進することにもなる。