ウクライナ危機の終わり
https://tanakanews.com/150730ukraine.htm
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ウクライナ危機は、米国が、ロシア敵視策の一環として扇動して起こしたものだ。
昨年初め、ビクトリア・ヌーランド国務次官補ら米国の外交官たちが、親露的だった当時のヤヌコビッチ政権を倒す極右勢力の政治運動を加勢してウクライナの政権を親露から反露に転換した。
反露新政権がウクライナ東部のロシア系国民を抑圧し始めたので、ロシア系住民はウクライナからの分離独立を要求して内戦になったが、米国はそれをロシアのせいにした。
ウクライナの反露政権が、セバストポリ軍港のロシアへの貸与をやめると表明し、ロシアがもともと自国領だったセバストポリを含むクリミア自治州の分離独立・回収に動くと、米国はそれをロシアの侵略行為と非難し、欧州を巻き込んでロシア制裁を開始した。
米国は最初から、ウクライナの政権を親露から反露に転覆すれば、ロシアがクリミアを回収し、米国がロシアを非難する格好の口実になると考えていたのだろう。
今年初め、露独仏の努力でウクライナ東部の停戦協定(ミンスク2)が締結された後も、米国は、停戦違反を繰り返すウクライナの反露的なポロシェンコ政権を支援し続けている。
米国は、NATOや、欧州の対米従属状態など、自国の覇権体制を守るため、ウクライナの内戦を起こしてロシア敵視を強化し、米国が欧州を引き連れてロシアと恒久対立する新冷戦体制を作ろうとしており、危機はまだまだ続くというのが、これまで多い分析だった。
ところが今、米国は突然、ウクライナの内戦を急いで終わらせようとする動きを始めている。
7月16日、米国の圧力を受けて、ウクライナのポロシェンコ大統領が、東部地域に自治を与える憲法改定の法案を議会に提出した。
同日、米国からヌーランド国務次官補がウクライナ議会に乗り込み、議会の3分の2の賛成が必要な憲法改定の法案が間違いなく可決されるよう、圧力をかけた。
これまでウクライナ危機をさんざん扇動してきたヌーランドが(おそらくオバマの命を受け)危機を沈静化する憲法改定をしろとウクライナに圧力をかけるのは皮肉だ。
圧力の効果で、東部の親露派を敵視して自治付与の憲法改定に反対してきた議員たちもしぶしぶ賛成し、法案は288対57で可決され、憲法裁判所の判断を経て正式決定することになった。
東部に自治を与える憲法改定は、ミンスク2の停戦協定に盛り込まれた、ウクライナにとっての義務だった。
ロシアは以前からウクライナに憲法改定を求めてきたが、ウクライナは拒否していた。
憲法で東部に自治が与えられれば、内戦は終結し、ロシアとウクライナの対立も下火になり、ウクライナ危機が解決に向けて大きく動く。
これは、ロシアが切望し、米ウクライナが拒否してきた展開だ。
米国がウクライナ問題で急にロシアに譲歩するようになったのは、
米国がイラン核問題やシリア内戦、
ISISなどの中東の諸問題でロシアに頼らねばならなくなったため、
中東諸問題の解決の主導役をロシアにやってもらう代わりに、
ウクライナ問題で米国がロシアに譲歩することにしたからだ、
と解説されている。
だからイラン核問題が解決された直後のタイミングで、米国がウクライナに自治付与の憲法改定をやらせたのだという。
米欧は、中東の問題解決をロシアにお願いするため、ウクライナを見捨てたとも評されている。
しかし、イランやシリアの問題解決との交換という筋書きは、よく考えるとおかしい。
ロシアは、米国が何も譲歩しなくても、独自の国益に沿ってイランやシリアの問題解決を進めていたからだ。
米国はロシアに譲歩する必要などなかった。
米国がウクライナ問題でロシアに譲歩した理由の一つは、イラン核合意の締結にロシアの協力が必要で、イランと核協約を結ぶ前に、米露が交換条件について談合していたと報じられている。
しかし、イラン核合意は少し前まで、米国よりロシアが推進を希望し、米国はむしろ推進を邪魔する方だった。
ロシアは、米欧に制裁されたイランが最も頼りにしてきた国だ。
米国がロシアに譲歩したのは、ロシアがイランをけしかけてISISを潰す戦いをやらせてほしいから、とも言われているが、ロシアは米国に頼まれなくても、ISISと戦うイランを支援してきた。
米国は、ロシアがシリアのアサド政権と反政府派を交渉させ、シリア内戦を終わらせてほしい。
その際、アサド大統領をやめさせてほしいので、米国はウクライナ問題で譲歩したという説もある。
ロシアはずっとアサドを支援してきたが、最近、米国に頼まれ、プーチンらロシア高官がアサドを見放すような言動をしているとも報じられている。
しかし、今のシリアには、アサド政権以外に、シリアの国家としての統合を維持できる勢力がない。
アサドを辞めさせたら、シリアはリビアのように国家崩壊し恒久内戦化する。
サウジやトルコは「(親イランである)アサドを辞めさせるなら、ロシアと一緒にシリア内戦終結に協力しても良い」と言っているので、ロシアはアサドを見放すかのようなそぶりを見せているが、実のところロシアはアサドを辞めさせるつもりなどない。
米国はまた、ロシアがシリア内戦の終結を主導する際、サウジアラビアなどアラブ諸国とイランの間を取り持ってほしい、とも要請している。
これまた、米国に頼まれなくてもロシアがやろうとしてきたことだ。
米国のロシア敵視は、今や「ふりだけ」だ。
米国は、中東とウクライナの両方で、ロシアを有利にし、強化している。
米国によって強化されたロシアやイランは、米国の単独覇権体制を崩し、多極型の覇権構造に転換する動きを強めている。
今思うと、米国の隠然としたロシア強化策の始まりは今年5月、ケリー国務長官が2年ぶりにロシアを訪問してプーチンに会った時からだった。
この時、ウクライナ問題で米国とロシアが直接交渉する連絡ルートが初めて作られた。
ウクライナ危機の当初から、ロシアは危機の黒幕である米国と直接交渉することを切望したが、米国はずっと拒否してきた。
それが5月に大転換し、米露が直接ウクライナ危機について話し始めた。
米国のヌーランド国務次官補と、ロシアのカラシン外務次官が双方の交渉担当となった。
ウクライナ危機を起こした張本人であるヌーランドが、危機を収拾する担当者もやるという皮肉な事態の始まりだった。
これ以来、中東とウクライナの両方の問題について、米露間の連絡が密になった。
最近では6月25日と7月15日に、オバマとプーチンが長時間、電話で話をしている。
7月のイラン協約後、米国が中東の諸問題でロシアに頼る傾向がさらに強まっているが、米露双方は「新世界秩序」とも言うべきこの新たな事態を、なるべく目立たないよう運営している。
たとえば、米国がウクライナに圧力をかけて東部に自治を認める憲法改定をやらせたことは、ロシアにとって大喜びのはずだが、
ロシア側は「東部の勢力と相談して自治を与えるのがミンスク2の合意だったが、ウクライナ政府は東部に相談せず憲法を改定しており、合意違反でけしからん」と怒る演技をしている。
米国中枢で軍産複合体がクーデター的な戦略乗っ取りをやらない限り、
ウクライナ危機は今後もう再燃せず、
下火になるだろう
(報道だけで、対立が激化しているかのような幻影が流布し続けるかもしれないが)。
911やイラク侵攻あたりから続いてきた多極化のプロセスは、山場を迎えつつある感じだ。