2007年6月、米国で出版された
『LEGACY of ASHES The History of the CIA(灰の遺産 CIAの歴史)』
ティム・ウィナー著。
【ウィナー氏はニューヨーク・タイムズの現役記者。過去には国防総省に関する一連のレポートでピューリッツアー賞を受賞している。
彼は二十年という歳月を費やして世界最大の情報機関であるCIA(米中央情報局)を取材した。
秘密指定を解除された機密文書や二百人を超す外交関係者のオーラル・ヒストリー、三百人以上の関係者へのインタビューをもとに書き上げたのが同書である。】
本書は、自民党が結党以来、どのようにして外交政策を決定してきたのか、そして、そのスタートラインには岸信介とアメリカとの間に“闇の取引”があったことを明らかにしている。
大多数の国民、とくに自民党員や自民党支持者は、岸信介という従米政治家を日米安保条約を仕上げた「勇気ある政治家」だとほめたたえてきた。
しかし、岸信介の「裏切り」の真相、日本にとってきわめて重大な歴史の真実が、ウィナー氏によって明らかにされた。
一文から引用する。
〈米国がリクルートした中で最も有力な二人のエージェントは、日本政府をコントロールするというCIAの任務遂行に協力した、そのうちの一人、岸信介はCIAの助けを借りて日本の首相となり、与党の総裁になった。〉
もう一人は児玉誉士夫である。
〈岸は日本の外交政策を米国の希望に沿うように変えると約束した。
そして米国は、在日米軍基地を維持することができ、日本においては極めて微妙な問題をはらんでいたが、そこに核兵器を貯蔵することができた。
その見返りとして岸信介が求めたのは、米国からの秘密裏の政治的支援だった〉
「秘密裏の政治的支援」とは、ずばりCIAからの巨額のカネだと、ウィナー氏は著書で断定している。
岸信介は首相に就任する以前から、CIAを含む米国人脈を築きあげ、その人脈を通じて米国側に自らの政権構想への理解を求めていた。
その構想には、保守派を合同して自由民主党を結成することや、安保改定の計画までもがすでに含まれていた。
同時に岸信介は日本政界についてのさまざまな情報をCIAに提供した。
その見返りとして岸がCIAに求めたのが、政界工作資金だったのだ。
岸信介はCIAのエージェントであった。
そして岸信介は首相の座につくや、〈CIAと協力して新安保条約を練り直すことを約束した〉交渉相手は、マッカーサー元帥の甥、ダグラス・マッカーサー二世だった。
岸信介は新任の駐日米国大使のマッカーサー二世にこう語った。
「もし自分の権力基盤を固めることに米国が協力すれば、新安全保障条約は可決されるだろうし、高まる左翼の潮流を食い止めることができる」
と。
岸信介がCIAに求めたのは、断続的に支払われる裏金ではなく、永続的な支援財源だった。
「日本が共産党の手に落ちれば、どうして他のアジア諸国がそれに追随しないでいられるだろうか」
と、岸信介に説得された、とマッカーサー二世は振り返った。
《58年5月の日本の総選挙前、アイゼンハワー大統領は岸信介に資金援助することを決定した。
アイゼンハワー大統領自身が安全保障条約のために日本に対する政治的支援を決断したが、それはすなわち、岸信介に対して米国が資金援助することを意味した。
そのような資金が、四人の歴代大続領のもとで少なくとも十五年のあいだ流れ、冷戦期の日本で一党支配を強化することに貢献した。
自民党が権力の座を維持するために必要なカネはアメリカから供給されていた。
アリゾナ大学のマイケル・シャラー教授は、こう語った。
ここには、きわめて重大なことが記されている。
最高権力者の岸信介そのものがCIAの指示で動いていたのである。
権力の魔力にとりつかれた狂気的政治家はきわめて危険な存在である。