白蓮事件100周年にて
柳原燁子。伯爵家に生まれ15歳で最初の結婚をするも離婚、2度目の結婚相手は九州の炭鉱王伊藤傳衛門だったが伯爵令嬢の燁子は九州男児を煮詰めて佃煮にしたような傳衛門に付いていけず飯塚の本宅ではなく別府の別荘に逗留し短歌を詠むことで自分を慰めていた。あるとき改造に発表した「指鬘外道(しまんげどう)」が評判を呼び一冊の本として出版することが決まる。打ち合わせのためひとりの男が別府の別荘を訪れた。男は宮崎龍介といった。ふたりは恋に堕ちる。
運動家の男と華族出身の既婚女性の恋は許されるものではなかった。それでも燁子は決心する。燁子は上京の際に出奔し新聞へ夫への絶縁状が公開された。いわゆる白蓮事件である。
ということで今年は白蓮事件からちょうど100年だそうだ。その白蓮さんのお孫さんを囲むイベントに誘われたので参加してきた。誘ってくれたのは女神である。女神、白蓮となると、あの男が出てくるのではないか。そんな懸念を抱きつつ会場の目白庭園へ向かう。
由緒ありそうだな、オイ
しっとりと秋っぽい
曇り空がいい感じ!
風情ありあり
素晴らしいお庭を拝見し、イベント会場(?)の赤鳥庵へ上がる。赤鳥庵というのは近所に住んでいた鈴木三重吉が創刊した子供雑誌「赤い鳥」から名付けられている。会場の和室には白蓮関連の書籍がいくつか展示されており
そして床の間には
白蓮ファンにはすぐに分ると思うが白蓮さん直筆の軸が掛けてあった。おいおいマジかよ!モノホンのお宝じゃねーか!しかし隣には不似合いなノボリが。
ノボリといえばこの男。
チャーリー坂本である。そう、この度のイベントはチャーリー坂本主催なのである。なんか心配。そんなマダムの心配をよそにチャーリーは「どうですか、このノボリ!自腹切って作りました!」などと胸を張って語るのであった。ますます心配。
※チャーリー坂本:ギター一本で世間を流れるスィング歌謡の最後の砦。白蓮ファンで大正ロマン愛好家。胡散臭さは否めない。詳細は以下をどうぞ。
我々が心配するなか、白蓮さんのお孫さんである宮崎黄石(おうせき)さんをお迎えしてイベントが始まった!司会進行はチャーリーとプロモーターの林嬢である。冒頭、チャーリーから白蓮さんの簡単な紹介があった。
暴走するチャーリー
ところがチャーリーは白蓮さんを愛しすぎるあまり暴走しすぎて林嬢から「長すぎる」とストップが入り、黄石さんからは「ヤナギハラではなくヤナギワラです」と物言いがついた。我々参加者は笑っていいのか憐れんでいいのか悩んだ。
白蓮のお孫さん、黄石さん
参加者には白蓮さんの略歴と家系図、林嬢の選んだいくつかの短歌、何葉かの写真をコピーした資料が配られた。
ついでに冷たいお茶と茶菓も配られた。茶菓は別府かるかん堂さんの「白蓮」。もちろん白蓮さんをイメージしたものだ。餡子を挟んだプチブッセは上品で和洋折衷のかほりがする。
イベントはチャーリーの問いかけに黄石さんが応じ、そこに林嬢が良い湯加減の合いの手を入れるという形で進む。白蓮さんについてはwikiに詳細が記載されているので興味ある方はそっちを読んでいただくことにして、当日記憶に残ったことを列挙する。
・世間で出回っているこちらの写真の子供が黄石さん。白蓮さんが指さしている先に鶏がいたとのこと。
・wikiにも紹介されているこちらの写真、女の子は白蓮さんと龍介の娘の蕗苳さん。黄石さんのお母さまである。いまだにご存命とのこと。ますますのご長寿をお祈りしまくる。
・黄石さんの覚えている白蓮さんは、平和活動家として全国を講演して回っていた白蓮さんとのこと。白蓮さんは必ず土産を持って帰った。
・晩年の白蓮さんは緑内障で寝ていること多く、家の建て替えの際は間取りが違ってしまうと白蓮さんが困るだろうと龍介さんが心配してほぼ同じ間取りで立て直した。
・白蓮さんが亡くなったのは黄石さんの大学入試試験当日の早朝であった。家族は黄石さんの試験に影響が出ないよう、祖母の死を隠して黄石さんを送り出した。祖母の死を黄石さんが知ったのは無事試験を終えて帰宅したあと。
・白蓮さんは実家から持参した「みどり丸」という由緒ある人形を大切にしており、毎日みどり丸に話しかけて可愛がっていた。どうやら毎日話しかけなければならないらしい。現在みどり丸を所有しているのは黄石さんだが「うーん、あんまり話しかけてない」とのこと。ええんか。
・白蓮の軸とともに飾ってあった短冊は九条武子さんと白蓮さんのもの。直筆ということだがチャーリーの私物なので怪しいんじゃないかとマダムは思っている。
・どーしてチャーリーが黄石さんと知り合いなのかというと、白蓮さんが住んでいた目白あたりをまるでストーカーのように徘徊していたとき偶然黄石さんを見つけてナンパしたからである。
・黄石さんはひとが良いと思う。
・黄石さんに電話するとお手伝いさんが出て黄石さんを「若旦那さま」と呼んでいたことに興奮するチャーリー。
・黄石さんのお母さま、つまり白蓮さんのお嬢さま蕗苳さんとお話ししたと自慢するチャーリー。
・さてここでイベント参加者のイタリア人ディエゴさんから貴重なレターの紹介があった。日本文学研究者のディエゴさんは本国で和綴じの漱石本を出版するほどの漱石オタクである。古本漁りを趣味にするディエゴさん、あるとき古本屋のセールで白蓮関連の古本を購入、帰宅して開いてみると一葉のハガキが挟んであった。よくよくみると白蓮の短歌が記してある。なにこれ?ってことで鑑定してみると白蓮直筆!!マジですか!!古本も漁り甲斐があるってもんだ。
・最後にチャーリーが「ゴンドラの歌」を歌って〆。これも白蓮繋がり。気になる人は各自調べてくれ。
物販もあったのでマダムは「踏絵」と「地平線」を購入。地平線は昭和31年発効の初版である。黄石さんのサインもいただいた。
短歌については素人だけど
これで値が上がるぞ
サイン中の黄石さん
以上である。約2時間のイベントだったが中身が濃かった。チャーリーからして濃かったが参加者も濃厚だった。漱石マニアのイタリア人を筆頭に俳句の先生やら書の先生やら宮崎滔天(龍介の父親で革命家)好きの歴女やらが雁首揃え、ひよっこマダムは末席で震えていた。着物率の高さにデニム参戦のマダムは眩暈を覚えた。それが最高に面白かった。
またこのようなイベントが開催されたら参加してみようと思う。次回はドレスと盛り盛りのロココな巻き髪で参戦だ!