読書備忘録 Vol.2 | 不思議戦隊★キンザザ

読書備忘録 Vol.2

数冊を同時進行で乱読する悪癖が治らない。だがたまに数冊同時進行が止まるときがある。他のものは後回しにしてそれだけを早く読みたい!と思わせる本である。そういった本はミステリに多い。
反対になかなか進まない本がある。つまらないのではなく、面白いからである。この「面白さ」は何度も読みたくなる文章という意味である。リズム感だったり諧謔だったり描写だったり、その都度読み返す理由は異なるが、何度も何度も同じ部分を読み返していちいち感動したり感心したり大笑いしたりして味わうので読書が遅々として進まないのである。
面白過ぎてなかなか読み進むことが出来ない代表格が、内田百閒と町田康である。「読み終えるのがもったいない」という貧乏性も多少関係している気がする。

食べない人 青山光二

 

食に関したエッセイ集。既に故人となったひとびとの思い出話。って、青山光二ってこんなのばっかじゃん!と思うかもしれないが、このエッセイ集を上梓したとき著者の青山氏は御年93歳!そりゃ思い出話ばっかりになるわな。とはいえ認知症を患う妻を描いた小品は、老いてなお妻への恋情を隠すことなく吐露する著者の心遣いが切ないやら美しいやら。かと思えば女友達とホテルに宿泊する習慣も著者は持っていて、しかし不思議なことにそこに性的な関係は全く見いだせないところが著者が持つ筆の妙といったところか。

タイトルの「食べない人」は織田作之助の愛妻、一枝さんのことである。高校時代から織田作とつるんでいた著者は、もちろん一枝さんとも面識があった。ところが一枝さんが「ものを口にしている」ところを一度も目撃したことがないという。
女性が人前でものを食べるという行為がはしたないとされていた時代を、著者は懐かしき仲間たちと生きていたのだなあ、としみじみと思わせる。良書。

 

これから読みたい作家

 

実歴阿房列車先生 平山三郎

 

異色の紀行文「阿房列車」でお馴染み、内田百閒のよき相棒として登場するヒマラヤ山系君がつづった百鬼園先生実録。百閒先生の阿房列車ではヒマラヤ山系君は「はあ」としか答えない覇気のない青年というイメージだが(先生がわざとそういったイメージを植え付けたのかも知れない)、ご本人はいたって真面目で酒豪のエリート青年である。
国鉄職員のヒマラヤ山系君が業界紙への執筆をお願いするため、日本郵船で嘱託をしていた先生のもとを訪れたのが始まりだった。そこから始まる二人三脚(というか、ほぼ先生のお守り)の阿房列車。

 

百閒先生のお守が如何に大変か分かる

 

ヒマラヤ山系君の筆で明らかになる先生の鉄ヲタっぷり。というか、もともと明らかではあったけれどヲタク本人の自己申告と他人の冷静な目線ではやはり違うのである。車両について熱く語る先生、汽笛の違いについて思索する先生、普段は動作がゆっくりしているのに列車に乗った途端キビキビと動き回る先生、時刻表を眺めて夜更かしする先生を、ヒマラヤ山系君は書き留める。
つくづく読んで分かったことは、百閒先生は思っていた以上に鉄ヲタだったということである。それ以上でもそれ以下でもない。これはそのうち百閒先生の随筆と照らし合わせながらじっくりと味わいたい。

 

パリでメシを食う。 川内有緒

 

パリでメシを食う=パリで生活する日本人10名のルポタージュ。ちょっと面白そうだなと思ったので、マダムの嫌いな幻冬舎だったが購入してみた。
料理人、芸術家(?)、紳士服のクチュリエール、花屋などなど生業もさまざまだ。なぜパリなのか、という理由も十人十色である。目標を持っているひともいるし、気が付いたらパリにいたというひともいる。一応一般人ということにはなろうが、なかなかドラマティックな人生を背負っている。しかしそのドラマティックさが少々表面的に感じられるのは書けない部分もあったのだろうと推測する。
面白くないこともないが、いまさら他人の人生を読まされてもなあ、ってーのが率直な感想。ただし、何でもいいから何かやりたいとハートをバーニングさせている若人、やりたいことはあるけど踏ん切りがつかなくて誰かに背中を押されたい若人にはうってつけの一冊だと思う。

 

あまり深くない

 

パリの国連で夢を食う。 川内有緒

 

これは面白かった!!著者が国連に入った経緯、パリでの生活、勤務先でのカルチャーショック、フリーダム過ぎる同僚たち。とにかく常識が通じないというか、常識だと思っていたことがことごとく覆っていく様子は小気味よい。
我々が国連と聞いて連想するのは紛争地帯などでの活動だが、そういったフィールドワークの役目は別組織が担っており、著者が配属されたのは裏方というか事務方なのであらゆることに時間がかかる。CVを送って2年後にやっとレスポンスがあったというところからして組織規模の大きさが分かる。図体デカすぎて脳が指令を出してから行動まで時間がかかる、みたいな。
そのうえ国際組織なのでいろんな国から働きにきているひとたちばかりで、国が違えば文化も習慣も考え方も違う。その「違い」をポジティブにとらえている著者に好感を持った。
ただ国連の実際の活動や政治外交については一切書かれていないので、硬派なパワーゲーム的国際秩序論を求めるひとにはお勧めできない。まあ、幻冬舎ってことで。

 

深くないけど軽さがちょうど良い

 

花の命はノー・フューチャー ブレイディみかこ

 

90年代後半から英国ブライトンに移住した著者の日常生活をつづったコラム。海外生活コラムは腐るほどあるが、そういったものとは明確に一線を画した異色のコラムである。というのも、著者のブレイディさん自身が「貧困」で「労働者階級」だと自覚した年季の入ったパンク姐さんだからだ。
パンク姐さんなので怒っている。医療制度に怒り、合理化に怒り、隣に越してきたプチブルに怒る。底辺の労働者が這い上がることの出来ないシステムに怒っている。姐さんの怒りは至極真っ当である。腹の立つことは多いけれど、一緒に酒を飲む友達もいるし、ダンナはちゃんと働いてるし、グレてた隣の息子も大人になったし、TVショーではジョン・ライドンが笑かしてくれるし、貧乏とはいえ日常生活はそれなりに楽しそうである。

 

鋭い英国社会論でもある

 

読み始めるとすぐに分かるが、文章がめっぽう上手い。歯切れがよくてリズム感がある。これこそ「面白くて何度も読み返したくなる文章」そのものである。難しい言い回しは一切使わず誰が読んでも分かりやすい。怒っても情けなくても悔しくてもどこかに必ず笑いがある。どんな環境にあっても笑うことが唯一の救いだ。そのうえ泣けるのである。なんて文章力だ!地頭が良いのだと思う。

パンクについても一過言あり「そもそもパンクが尊敬されてどうするのだ。偉大だ、などと感心されてしまったら、その瞬間からそれはもうパンクじゃない」の一文にシビれずにはいられない。

ダーリンは73歳 西原理恵子

 

サイバラさんがYES高須と付き合っていると聞いたときは青天の霹靂であった。なぜならマダムはYSE高須を「腹黒くて胡散臭くて下品な医者」としか思っていなかったからである。脱税とかあったし。しかしサイバラさんとカップルになった途端、マダムのYES高須に対するイメージは「腹黒くて胡散臭くて下品な医者だけど、サイバラさんに認められた男」として一新された。付き合う男のイメージを変えてしまうほど、サイバラさんはバランス感覚の優れた女性である。

案の定YES高須はサイバラさんの格好のネタになり、我々に健全な笑いを届けてくれる。YES高須は、ネガティブなイメージを中和してくれたサイバラさんに感謝すべきである。

 

だいたい発売初日に買ってる

 

お互いに対等だから卑屈になることもなく、ケンカするけどやっぱり一緒にいる、この空気感。自分の足で立ち続けるサイバラさんだからこそ、このような関係になり得たのだと思う。サイバラさんとYES高須のバカップルっぷりはマダムの憧れである。マダムもムッシューと一緒に歳を取ってもバカップルでいたい。

 

ナポレオン―覇道進撃― 16巻 長谷川哲也

 

ロシア戦役で歴史的大敗を喫し、冬のさなかに退却せざるを得ない状況に陥ったナポレオン。敗軍となって撤退しながらも近衛古参兵や真冬の川に橋を架ける工兵の漢たちが熱い。一時期スッカスカだった絵面も初期の濃ゆさが戻ってきてる。

構成も相変わらず素晴らしく、ミシェル・ネイの武勇を語る40年後の元兵士たちのシーンが秀逸。時空を超えて生き残った伝説を示すコマ割りがまるで映画のようだ。ユラン将軍ってーのがちょっとだけ登場するが、ベルばらのオスカルのモデルになった軍人ってことは、もちろんみんな知ってるよね?

 

フランスロケでドラマ化してほしいなあ

 

今年は改元に伴っていつもの連休が10連休になる予定なので、マダムは読書三昧のバカンスにしようと目論んでいる。というか、積読タワーを何本か消化せねば・・・。

 

 

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