スタチューにうっとり ルーブル美術館展 | 不思議戦隊★キンザザ

スタチューにうっとり ルーブル美術館展

ルーブル美術館展に行ってきた。午前中に用事を済ませ、午後ヒマだったので時間つぶしで行ってみるかっつってゆる~い気持で訪れた。だからなのか、不意打ち的にすっげー良くて、えれー興奮してしまったのである。最近はこぢんまりした美術鑑賞が多かったので、久しぶりにドデカイ会場で迫力あるスタチューを堪能出来たせいかもしれない。

やっぱアレだな、こういった美術鑑賞も食事と同じで、おしゃれなカフェ飯ばっかり続けて食ってると、無性に濃ゆい味付けのデカい肉を食いたくなるようなもんかな。うーん、例えがわかりづらいな。まあとにかく面白かったってことだ。

今展覧会は「肖像画」がテーマとなっており、古代ローマからナポレオンまで、マダムの大好きな物件が勢揃い!特に大理石のスタチューは体験しないと損だぞ!ということでいつも通り紹介していく。

 

裏表紙はナポレオン

 

・狩りの女神ディアナとして表された若い娘の肖像

 

若くして亡くなった娘をディアナ化したスタチュー。ディアナっつーのは月を司る狩りの女神。フランス語で月(La lune、ラ・リュンヌ)の冠詞が女性形であることから分かるように、ヨーロッパでは月は大体女性である(日本では男性の月読だ)。さらに若い女性が狩猟の守護神ってところも面白い。もちろん処女だ。

 

やっぱ大理石はいいねえ!

 

このディアナは獲物を見つけたらしく、新月の銀の弓に矢をつがえる直前である。眼はまっすぐに獲物を狙い、落ち着きながらも堂々とした姿勢が超カッコいい。足元の犬も誇らしげで微笑ましいな~。

マダムはね、古代ローマの大理石スタチューが大好物なの!だって美しく荘厳で、肉感的で、デカいから!チュニックのドレープに惚れ惚れするわ!

 

・ミトリダテス6世エウパトルの肖像

 

ライオンの頭をかぶってらっしゃるミトリダテス6世エウパトルさん。これはヘラクレスのコスプレをしているところ。

 

食べられてるワケではありません

 

ヘラクレスはギリシア神話の英雄で、当時のスタチューはこのように英雄のコスプレをしているものが結構多い。なぜなら当時の英雄は現代のヒーローと同じく人気を誇り、ときの権力者や軍人がこぞって英雄コスプレをしたがったからだ。っつっても実際にライオンの頭をかぶるわけにもいかず、こうやって自らをヘラクレスとしたスタチューを仕立てたりしたのである。ファン心理は現在のコスプレマニアとあんまり変わらない気がする。

 

・神官としてのアウグストゥス帝の胸像

 

ローマ帝国初代皇帝ってことで選んでみた。静かに覚悟を決めたらしき表情がいかにもアウグストゥスらしい。っつっても、会ったことないからどんな人物か知らんけどな。

 

厳しめの表情がローマ皇帝のスタンダード

 

皇帝がなんで神官の格好してるのかっつったら、これはコスプレ、ではなく、神官もやってたし皇帝もやってたからだ。え、じゃあ忙しいんじゃねーの?と思うだろう?その通り、忙しかった。なんせ権力は皇帝に一極集中、妙なことは出来ない。というか、アウグストゥスは非常に真面目だったため妙な考えは持たず、与えられた仕事を真摯にこなした。

初代ローマ皇帝という偉大さを後年に伝えるため、8月をアウグストゥスが由来のオーガストにしたともいわれる。ちなみに7月はユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)のジュリな。

 

・胴鎧をまとったカラカラ帝

 

権力の一極集中で妙なことになったのがカラカラ帝である。

 

こっちは厳しめというより睨みをきかせてる

 

皇帝になるため弟を殺害し、皇帝になってからは銀貨に含まれる銀の含有量をケチって貨幣価値を下げ、アレクサンドリアにカラカラ帝の悪口が流行っている聞けば、わざわざアレクサンドリアまで出張って街ごと破壊する始末。とうとう自分の軍隊の軍人に暗殺されるという最期であった。じゃあ何もしてねーじゃん、というとそうでもなく、人気取りのためにデカい浴場をこさえ、今ではカラカラ浴場として観光スポットとなっている。

 

・詩人の彫像、通称、歩む詩人

 

トーガを羽織り左手に竪琴を持ち、右手でちょっと裾を上げて歩んでいる吟遊詩人。

 

琵琶法師みたいなものだろうか

 

遠い遠い昔、実際にこのような職業の男たちがいて、詩を吟遊しながら旅をしていたのかと思うと遥々とした気持ちになる。

どんな場所でどのようなひとを相手に吟遊していたのだろうか。個人経営か、それとも組織に属していたのだろうか。ということは営業か?ノルマはあったのだろうか?年収はどのくらいで、定年はいつだろうか?あっ、いま、自分がすごく汚れてる気がしてきた。

 

・ブルボン公爵夫人、次いでブーローニュ及びオーベルニュ伯爵夫人、ジャンヌ・ド・ブルボン=ヴァンドーム

 

えれーなげー名前だけど、あちこちに領土を持っていた貴族は、その土地での肩書を全部乗せしていたからである。

 

姐さん!寒くないっすか?

 

さてこちらは墓碑である。欧州では古代ローマ時代から墓に彫刻というか、墓碑に詩を彫ったり家族の肖像画を彫ったり神話の一場面を彫ったり、結構フリーダムだった。そのなかのひとつだが、よくよく見ると不気味なのである。腹のあたりをよーく見てほしい。

 

姐さん!ちょっとエグイっす

 

腸が露出し虫が腹を食い破っている。なにこのホラーな墓碑。と考えるのは早計で、貴族だろうが貧乏人だろうが「死の前では誰もが平等である」ということを表しているのである。小野小町の九相図みたいだ。

 

・聖別式の正装のルイ14世

 

これは誰でも知ってるだろう?歴史の教科書には必ず載ってるヤツだ。ルイ14世といえばヴェルサイユ宮殿を居城にし、宮廷文化を一気に花開かせた王である。

 

こんな格好でドヤ顔されても

 

この一枚の画で、当時のフランスがいかに華やかでブイブイ言わせていたかが分かる。ブルボン王家の紋章である百合が金糸で刺繍された白貂のマント、ピッチピチのタイツにハイヒール(変態ではありません。これが当時の最先端ファッション)、袖口と首元にひらひらレース、腰に貴石をちりばめた剣を下げて黄金の王笏を持っている。他の追随を許さないほどのカツラのボリューム、爪先立ったポージングもGOOD!これこそ王だよ、宮廷文化のヘッドだよ!

 

・フランス式の衣服をまとったルイ14世

 

フランス人なんだからフランスの衣服をまとって当たり前だろ!とは思うものの、フランス王についてはローマ風の衣服を身に着けているスタチューが多いので、わざわざ「フランスの衣服」って枕詞が付いてるのだろう。

 

グリグリパーマがチャームポイント

 

ブロンズのスタチューはそんなに大きくないとはいえ、細かく作りこんであってブーツにはちゃんと拍車がついている。

※拍車:馬を蹴って早く走らせるための、トゲトゲを装着したブーツストラップ。「拍車をかける」の拍車。

 

ブーツの後ろの金平糖みたいなのが拍車

 

・ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ

 

陶磁器で作られたラ・フォンテーヌのスタチュー。

 

ブドウと狐はアトリビュートみたいなもんか?

 

図録では分かりづらいが、後ろに「酸っぱい葡萄」をモチーフにしたブドウと狐が配置されている。ラ・フォンテーヌはイソップ寓話をもとにした寓話詩で知られる詩人で、フランスではいまだに読み継がれており、子供用の読本には必ず掲載されている。面白いのかどうかは知らん。

 

・椅子に座ったヴォルテール

 

エカテリーナ姐さんも大ファンのヴォルテール。18世紀のスーパーリベラリスト。

 

ガウンがローマっぽい

 

若い頃は大変な美男子だったが、それなりの歳になると品の良さが際立つなあ。あれ?誰かに似てるぞ。

 

ほらほら、似てる

 

勝間さん

 

今展覧会の目玉のひとつ、ナポレオン関係も多かった。図録の裏表紙にもなっているこちらは「アルコレ橋上のナポレオン」。全体的に色が薄いなーと思ったら、よく知られている完成品ではなく習作の一枚であった。それでも長髪だった頃の若きナポレオンはイケメンだ。痩せてるし。

 

まだ20代のナポレオン

 

イケメンだったのに、皇帝になった途端、なんか中年太ったように見えるナポレオン。なんで?

 

やっぱアレか、若さより貫禄か

 

戴冠式のナポレオンを写した大理石のスタチュー。マントの裾や靴が正装したナポレオンの画と同じなので忠実に再現されているのだと思われる。これまたスゲー。

 

いっやー、これも素晴らしい

 

皇后のマリー・ルイーズと一緒に描かれたコレなんて頭髪がちょっとヤバいぞ。

 

誰だお前

 

肖像画は必ずしも描かれている人物にそっくりではないという。じゃあ実際はどうだったんだ?

そんなナポレオンにクリソツの人物がいる。アレクサンドル・ヴァフレスキである。なぜクリソツなのかというと、ナポレオンの実子だからだ。若くして亡くなったローマ王はマリー・ルイーズ皇后との子供だが、ヴァフレスキ氏はポーランド遠征時にポーランド貴族だった愛人との間に出来た子供である。というワケで、ヴァフレスキ氏は日陰の身ではあったが、ナポレオンの甥、ナポレオン三世を支える重要人物となった。姿も声もナポレオンに生き写しだったらしく、ナポレオン三世によく間違えられたということである。いいんだか悪いんだか。

 

参考:ナポレオンの生き写し、ヴァフレスキ氏

 

では最後に今展覧会のナンバースリーを発表したい。いつも通りマダムの独断と偏見だからな。

第三位「マラーの死」

おおっ、ダヴィッドが来とるやんけ~!と思ったら、ダヴィッドが最初に描いたオリジナルではなく、弟子たちが模写した何枚かのうちの一枚であった。

 

構図が劇的

 

フランス革命下、マラーはロベスピエールと同じく左派(山岳派)の代表的人物であった。山岳派はあまりにも過激で急進的だったため恨みを買うことも多く、山岳派と対立しているジロンド派の女に殺されたのである。ダヴィッドはそれを好機と見た。殺されたマラーを共和制への殉教者として描き、その死をプロパガンダとしたのである。

おかげで「マラーの死」は大好評、あちこちから注文が舞い込み弟子たちはせっせと模写したのであった。と聞くとダヴィッドは大変冷血な人物と思えるが、革命当時は彼もジャコバン党員だったし、マラーとも顔見知りであった。画家であれば大作を描いて名声をものにしたいと欲するのは自然なことだ。ちなみにオリジナルと模写の違いは板に書かれた一文ということである。

 

私を堕落させられなかったので、彼らは私を暗殺した

 

第二位「画家の息子 アンブロワーズ・ルイ・ガルヌレ」

西洋画で猫が描かれることはあまりないので選んでみた。というか、この作品は画家の息子と飼猫をモデルにした非常にプライベートな逸品だ。

 

かーわいいー!!

 

猫のとなりでいたずらっぽい笑顔を浮かべた男の子はリラックスしているように見える。そして少々、誇らしげでもある。猫も全然緊張してない。このふたり(ひとりと一匹?)の親密さと表情は、画家がいつも目にしている日常なのだろう。家族だけの空気が感じられる。それがいい。
当時は絵画しか面影を残す手段はなかった。肖像画は記念写真のようなものだ。そこで画家は息子と愛猫を絵画として永遠に残すことにしたのであろう。絵具だって安くない当時、このように個人的でささやかな家族の肖像を描いた画家を微笑ましく思うのである。
ところでなぜ西洋画で描かれる猫が少ないのかというと、絵画を注文するのは貴族か成金に決まっており、そういったひとたちが好むのが犬だからだ。風景画にしろ肖像画にしろ、愛玩動物を配置するときは必ず犬である。犬の方が見栄も張れるしね。

第一位「トーガをまとったティベリウス帝の彫像」

マダムは大理石のスタチューが好きである。そんで、ローマ皇帝ではティベリウスが好きである。すなわち、このスタチューはマダムの好きなティベリウス帝の大理石スタチューってことで大変興奮した物件である。ティベリウス帝は演説の最中と見えて左手にパピルスを持ち、右手を民衆の前に差し出している。ゆったりとしたトーガに身を包み、いかにも堂々と見える。マダムは鼻息荒くあらゆる角度で堪能し、熱い視線を送り、ため息を漏らした。

 

連れて帰りたい


二代目ローマ皇帝のティベリウス帝は、冷静で頭脳明晰、軍事的センスも抜群、派手さはないが欲もなく質実剛健。まさに二代目のローマ皇帝にぴったりな男であった。そのうえクソ真面目だったので、自らに課された役割を文句ひとついわず遂行した。寡黙であまり感情をあらわにしないロボットのようなティベリウス帝にも弱点はあった。女である。といってもカエサルのような女好きだったわけではなく、一途だったのである。

 

グリグリヘアーがローマっぽい

 

皇帝になる前は既に結婚して家庭を持っていたが、初代ローマ皇帝のアウグストゥスに後継者として指名され、アウグストゥスの娘と結婚するため泣く泣く嫁と別れて皇帝の座につかざるを得なかった。
皇帝を望んでいたわけではないが、なったからには真面目な性格ゆえ皇帝としての義務に真摯に取り組む。仕事面では有能だったが、私生活で二度目の結婚はうまくゆかず、そのうち別居、とうとう離婚に至る。最初の妻に未練はあるが、町で見かけても決して声はかけず子供にも会わなかった。最初の妻を忘れられず、こじらせてしまったのである。

一途をこじらせたティベリウスは徐々に人嫌いになっていく。どこで間違ったのだろう?皇帝という最大の権力を持ちながらも、ティベリウスは孤独であった。なんという不器用な男であろうか!そこにティベリウス帝の人間性を感じて、なんというか、好きなのである。

というワケで、ひとりで盛り上がって知恵熱だして寝込んでしまった展覧会であった。嗚呼。


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