肖像画の持つ意味にやっと気付いた レーピン展 | 不思議戦隊★キンザザ

肖像画の持つ意味にやっと気付いた レーピン展

なんかただの呟きのようなタイトルをつけてしまったが、今回はレーピン展について。
レーピンという画家をマダムは詳しく知らないが、「皇女ソフィア」が展示されているというので行ってきた。皇女ソフィアはもちろん、他の作品も非常に興味深く、つらつらと観賞しているうちに、マダムは気付いたのである。
すなわち、「肖像画を描くことの意味」を。おっと、タイトルそのまんまだな。まぁこれは追々説明しますが、全体的な感想は「見て良かった」かな。おっと、全然ヒネりがねえな。まぁこれも追々説明する。


では、いつも通り気になった作品を独断と偏見で好き勝手に紹介しよう。肖像画画家ということなので、主に肖像画の紹介だ。
まずはこちら。ん?なんか最近、これと全く同じ画をどっかでみたぞ!!


不思議戦隊★キンザザ
老婆の肖像(レーピン)


それもそのはず、こちらはレンブラントの「老婆の肖像」を模写したものである。
マダムは新国立美術館の「エルミタージュ展」で、モノホンをみていたのだった。


不思議戦隊★キンザザ
老婆の肖像(レンブラント)



続いて偉いひとたちの肖像画群。


不思議戦隊★キンザザ
軍人で作曲家のおっさん

不思議戦隊★キンザザ
政治評論家のおっさん

不思議戦隊★キンザザ
工兵将校のおっさん


これら肖像画は、親しくしていた実業家からの要請で描いたものだ。描かれている人物は、国に貢献したひとたちなのだ。(ただし政治評論家のおっさんは、ロシアの外交を批判してモスクワから追放されたという快男子)

・・・で、どうよ?コレ、面白い?マダムはちっとも面白いとは思えなかった。なぜなら「実業家」という他人が、画家の創造に介入しているからだ。
しかし、マダムのこの反骨精神的(?)な考えは、つらつらと作品を見ているうちにコペルニクス的転回、略してコペ転する。


コペ転については、また後ほど説明するとして、作品紹介を続ける。
レーピンはパリへ絵画留学している。時代は激動の19世紀。自由共和主義という新しい価値観が、まだ熱を持って輝いていた時代だ。僻地からやってきたレーピンは、そんなパリに留学して何を感じ、何を思っただろう。そして何が彼の生涯において糧となったのだろう。以下はパリを描いた作品だ。


不思議戦隊★キンザザ
パリの新聞売り

不思議戦隊★キンザザ
パリのカフェ


どちらもパリの街角、当時のひとびとの雑踏が聞こえてくるようなのびのびとした画である。新しい時代の空気を、レーピン自身が胸いっぱいに呼吸しているようだ。

ところで「パリの新聞売り」だが、どうみても新聞売りではない。どちらかというと山師・・・。


こちらはペールラシェーズ墓地内、パリ・コミューン記念碑前での追悼集会を描いたものだ。


不思議戦隊★キンザザ
1883年5月15日、パリ


なぜわざわざこの主題を選んだのか?
レーピンは、早いうちから労働者階級を作品の対象として描いていた。自由主義が流行っていたから、とも考えられるが、絵具だって安くないのである。

こちらはパリ留学する前、重労働に就かざるを得ない庶民を描いた作品だ。


不思議戦隊★キンザザ
庶民というか、下層階級だな


「船曳き」って、職業だったんだ!マダムはてっきり、「シベリア送りになった政治犯が強制労働でやらせられる仕事」だと思い込んでいたよ・・・。まぁ当時も大変な重労働だったらしく、庶民ではなかったレーピンが船曳きするひとたちを見て、興味を持ちカンバスに描いたってのが、なかなか面白い。


こちらは印象派風の一枚。嫁さんと娘たちを描いたものだ。レーピンは印象派ではないが、留学中に印象派連中と交流があり、印象派の技術も習得したらしい。画面から溢れる光、ぼやけた輪郭、屋外の風景。確かに印象派である。


不思議戦隊★キンザザ
どうみても印象派


その何年後かに描かれたのがこちら。この女性は、上記印象派風の画に描かれている少女と、同一人物である。


不思議戦隊★キンザザ
まぁまぁ、こんなに大きくなって!


印象派の少女がすっかり成人している!!描かれた時が違うから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
しかしマダムは、時間そのものを記録するという絵画の力を、改めて目の当たりにしたのだ。


写真の発明は1827年、まさにレーピンの生きた19世紀である。写真機が大衆化するまでは、画家の描く肖像画が、まさしくプロフィールであった。だが、誰もが肖像画を注文できるわけではない。それなりに金がかかるからだ。王族の肖像画ばかり残っているのはそのせいだ。
王族や貴族は、啓蒙用、贈呈用、飾り用、持ち運び用、見合い用、イベントの思い出用などで肖像画を注文する。現在の我々が、写真館で家族写真を撮ったり正月に記念写真を撮ったり、あるいは入学式成人式結婚式といった人生のイベントで写真を撮るのと同じ感覚であろう。


さて、既に紹介した肖像画群だが、描かれている人物が役人であれば、重要な役職につき何らかの業績を残したひとであり、ピアニストや作曲家、作家などは国の宝としての芸術家である。実業家は、彼らの業績を称え肖像画として残したいと考え、レーピンはそれを請けたのだ。


不思議戦隊★キンザザ
コンスタンチン・コンスタンチーノヴィチ大公

不思議戦隊★キンザザ
ピアニスト、ゾフィー・メンター

不思議戦隊★キンザザ
作曲家、モデスト・ムソルグスキー


そう考えると、肖像画の注文を請けたからと言って、他人が画家の創造に干渉しているワケではなく、国の名士を肖像画として称えるという行為は、むしろ現代の社会貢献のような、賞賛すべき実業家の仕事のひとつであるのではないか?と、マダムはコペ転したのである。

そして肖像画の注文先は、卓越した技術を持ったレーピン以外にありえない。実業家は早くからレーピンの才能を認めていた。かくしてレーピンは、実業家の注文を請け、レーピン自身もこの仕事によって社会貢献したといえる。


しかし普通の暮らしの普通のひとびとは、写真はもとより、自分の肖像画さえ持たず生涯を過ごした。
子供だった自分、若かりし頃の両親、出会う前の恋人は、この目で見たことがなければ、どのような容姿だったかのか分からないのである。身近なひとびとを、家族を、恋人を、自身の記憶に刻んでおくしかほかはなかった。


まだそんな時代ではあったが、レーピンは下層階級のひとびと、農民や船曳き、戦争から帰還したひと、巡礼者、飲み屋での宴会、地元の祭りなども描いた。

どちらかというと、こういった画にレーピンの思想性が現れている。


不思議戦隊★キンザザ
帰還兵

不思議戦隊★キンザザ
船曳きのひとり

不思議戦隊★キンザザ
船曳きって、人力じゃないと無理なのか?


こちらなどは、かなり思い切った作品である。タイトルは「懺悔の前」。死刑を宣告された革命家が、教誨師と対峙している場面である。革命家にはモデルがいた。非合法機関誌に詩を載せた革命家だ。レーピンは革命家の詩にいたく感動し、この画を描いたという。


不思議戦隊★キンザザ
アンシャン・レジームVSインテリゲンチャ


厳しい目で教誨師を見つめる革命家の表情が、とてもいい。古い価値観と、これから始まるであろう新しい時代が、人の姿となって対峙しているようだ。新しい時代に生きるひとたちは、古い価値観を全て否定しているわけではない。もうひとつの可能性を見つけただけだ。だが、古い価値観で生きてきたひとには、自分たち以外の価値観があるという想像力に欠け、価値観を共有できない人物を、異物として排除したがる。

現代でも容易に起こり得る悲劇である(いや、喜劇か?)。


このしばらくのち、ロシアに革命の嵐が吹き荒れるのである。



では肖像画でコペ転したところで、マダムが独断と偏見で選ぶナンバースリーを発表しよう!

第三位はこちら!「皇女ソフィヤ」!!


不思議戦隊★キンザザ
怖えええええぇぇぇぇ!

とてつもないド迫力だ!ソフィヤは弟との権力闘争に負け、幽閉された。この画は、幽閉されたソフィヤを描いたものだ。

血を分けた兄弟でも、権力の奪い合いになると容赦ない。革命前夜のフランスを見よ!ルイ16世の弟であるプロヴァンス伯爵、アルトワ伯爵は、16世が失墜する瞬間を常にうかがっていたではないか!日本においても北条氏ほか、枚挙に暇がない。

(ま、王家にとっては、常に不測の事態に備えておくことは当たり前のことなんだけどね・・・、ついでに現代では不測の事態に備えることは、政府の役目なんだけどね・・・・)


ソフィヤが男であれば、即処刑されたであろう。女だから幽閉で済んだのだ。代わりに、ソフィヤ側についた銃兵隊は処刑された。おそらく、全員。この画にも処刑されたひとりが描かれている。


不思議戦隊★キンザザ
怖ええええええええええぇぇぇぇ!

窓の外に吊るされている男がそれだ。死体は吊るされたまま腐敗し、鳥が死体をついばむだろう。風が吹くと、吊るされた死体は窓に当たり、不気味な音をたてたであろう。普通の神経では到底我慢できない状況だ。だがこれが、権力闘争で負けるということなのだ。

レーピンの描いたソフィヤは、憤怒の表情でこちらを凝視している。なんという烈女であろうか。弟に負けたという怒りが、吊るされた死体の恐ろしさを凌駕している。

ちなみにこのソフィヤ、レーピンが想像して描いただけで、このような姿かたちだったわけではないらしい。


さっ!続いて第二位!!「背の曲がった男」

モデルは若い農民。善良さ、正直さ、信仰といった内面性を重要視した作品である。確かにモデルは、背が曲がっていて裕福でもなさそうだが、気品を感じる作品である。


不思議戦隊★キンザザ
誰だっけな~、よく知ってる顔なんだけど


で、このひと、誰かに似てない?

この画をみたときからモヤモヤしてたんだけど、やっと誰に似てるか分かった!


不思議戦隊★キンザザ
このバンダナ巻き、流行ったよね

ガンズのアクセル・ローズでした。一時期イルカとお話したり、ちょっとヤバめな方向にイってたみたいだけど、また最近活動を始めたようで一安心です。


ではマダムの選ぶレーピン展、第一位!「鉄道監視員、ホチコヴォにて」

一見、なんの変哲もない画のようだが、遥々とした味わいを持った作品。


不思議戦隊★キンザザ
こんなところに監視員は必要なのか?


この時代に、この場所で、生活していたひとがいたんだな~、としみじみ感じた次第である。


レーピン展、思っていたより興味深い展覧会であった。ロシアンアートも奥が深そうだ。