完全合意条項の注意点 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 

 久々に英文契約書.com を更新しました。


 典型的な一般条項として、完全合意条項というのがあります。


(EntireAgreement)

 

ThisAgreement (a) constitutes the entire agreement and understanding between theparties with respect to its subject matter, and there are no promises,representations, conditions, provisions or terms related thereto other thanthose set forth in this Agreement; and (b) supersedes all previousunderstandings, agreements and representations between the parties, written ororal, with respect to its subject matter.

 

 

 

完全合意条項は英米法上のparol evidence rule(口頭証拠排除法則)という判例法理に基づくと言われますが、parol evidence ruleは本来、契約締結より前の口頭または書面による他の証拠、および契約締結と同時の口頭証拠を排除するものです。つまり、契約締結と同時(simultaneous)の書面による他の証拠は、parol evidence ruleによって排除されるものではありません。

このことを解説した日本語の文献は見たことがないのですが、アメリカのロースクールの契約法の授業で習ったことなので間違いないはずです。 



これに対して、完全合意条項においては、(1)文例のように、契約締結より前の口頭または書面による他の証拠を排除する場合のほか、(2)契約締結より前の口頭または書面による他の証拠、および契約締結と同時の口頭または書面による証拠を排除する場合、(3)parol evidence ruleと同じく、契約締結より前の口頭または書面による他の証拠、および契約締結と同時の口頭証拠を排除する場合、の3通りの書き方があります。


私の経験上では、(1)が最も普通で、(2)がこれに次いで多く、(3)は比較的珍しいと思いますが、実際にどのパターンも見たことがあります。 


交渉がまとまらない場合の妥協の産物として、いわゆる「サイドレター」を作成する場合があります。契約書と同日付のサイドレターは(1)または(3)の書き方なら有効ですが、(2)ならば無効となりますので注意が必要です。


 完全合意条項についての、ほぼ唯一と言ってもよいチェックポイントです。