特許制度小委員会(4) | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 2010年8月10日の第31回特許制度小委員会の配布資料と議事要旨をざっと拝見した。


http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/tokkyo_seido_menu.htm



 かいつまんで言うと、特許法改正の方向は以下のようになるようだ。


(1)通常実施権の当然対抗制度に関しては、①特許権を譲渡しようとする者に対して、譲り受けようとする者に対する、通常実施権の存否等についての告知義務を設けるべきかが議論されたが、告知義務は規定しない方向である。また②当然対抗の条件として、確定日付ある実施許諾契約書など形式要件を課すべきかが議論されたが、一切の形式要件を設けない方向である(確定日付はもちろん、書面による実施許諾である必要もない)。


(2)特許権の放棄、専用実施権の放棄等について、通常実施権者または仮通常実施権者の承諾を要するとしている各種の規定の見直しについては、通常実施権者または仮通常実施権者の実施の継続に影響を与えない行為については承諾不要とする方向である。

 したがって、特許権の放棄、特許出願の放棄・取り下げ、訂正審判の請求等については承諾不要とし、専用実施権の放棄については、放棄はできるが通常実施権者に対抗できない、とするようである。特に、訂正審判の請求について通常実施権者の承諾を必要とする規定(特許法127条)は、従来から合理性に疑問が呈されているし、通常実施権者が承諾しなかったため訴訟になった事案もあり、良い改正であると思う。


(3)審決と訂正の部分確定の問題については、今までの「何がなんでも請求項ごと」説は退行し、従属項については、書き下し(引用を含まないように請求項を書き換える)をしない限り、独立項と一体不可分に扱うという方向になりそうだ。

 常識的で健全な判断である。


(4)無効審判請求不成立の審決があった場合に、同一事実・証拠での新たな審判請求を、何人に対しても禁じる(確定審決の第三者効)特許法167条については、削除する方向となった。


(5)同一特許に対して、同一人による複数の無効審判請求を禁止ないし制限することについては、制限しない(現行制度を維持)という方向のようである。


(6)侵害訴訟の判決確定後の無効審判等の確定を再審事由とするかの問題について。

 事案として①特許権者勝訴判決が確定したが、判決確定後に、特許を無効とする審決が確定した場合。

 ②特許無効の抗弁(特許法104条の3)が認められて特許権者敗訴の判決が確定したが、判決確定後に、請求項を減縮する訂正審決が確定した場合。

 ③特許権者勝訴判決が確定したが、判決確定後に、請求項を減縮する訂正審決が確定した結果、イ号が技術的範囲に属しないこととなった場合。

が考えられると思うが、小委員会では①、③を議論し、②は議論していないようである。

 いずれにしても再審事由としない方向であるが、再審事由から除くとなると民訴法の改正が必要であり所轄官庁が異なるため、特許法の改正でできる範囲のこととして、無効審決、訂正審決の遡及効を、審判請求の時期にかかわらず、制限する方向である。

 ただし、①の事案で、遡及効は制限されるが、無効となった以降は侵害訴訟の被告であった者も実施できるとする。手続的には、請求異議の訴え(民事執行法35条)

を検討しているようである。



 ごく短くまとめようと思ったが、結構長くなってしまった。本年中に報告書案が出て、パブコメに付されるようである。