交渉の心得 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 特別親しい関係があるわけでもない他人に何か頼みたいとき、どういう戦略をもって望むか。私の業務で言うと、訴訟上の立証のために第三者の協力が必要というような場合である。


 マーケティング理論によると、人間(を含む動物)の行動原理は2つしかない。「快楽を求める」と「苦痛を避ける」である(ちょっと単純化し過ぎと思うが、そこは目をつむる)。そのうち、「苦痛を避ける」の方が動機付けとしては強い。したがって、「この商品を買うとこういう得があります」より、「この商品を買わないとこういう損があります」という訴求の方が効果的だという(一歩間違えると不当勧誘であるが)。


 これを交渉の場面にあてはめてみる。説得材料として、以下の4つが考えられる。


(1)あなたが、これに協力してくれると、私にこういうメリットがあります。

(2)あなたが、これに協力してくれないと、私はこういう困ったことになります。

(3)あなたが、これに協力してくれると、あなたにもこういうメリットがあります。

(4)あなたが、これに協力してくれないと、あなたはこういう困ったことになります。


 マーケティング理論でいうと(3)か(4)かの選択となるが、普通の人は(1)か(2)、自分のことしか言わない。これでは駄目だろう。特に(2)の場合、相手も表面上は「それはお気の毒に」と言っても、内心は「私の知ったことではない」と思っているかもしれない。のらりくらりかわされて終わりそうだ。


 もちろん、一番効果的なのは(4)である。特に相手の会社の担当者が自己保身しか考えていないタイプのときはこれに限る。「別に協力してくれなくてもいいんですが、協力しないと、あなたの会社はこういうことになるから、あなた自身が困ったことになるんじゃないですか」ということを、穏やかに伝えられると望ましい。ただし一歩間違えると脅迫になってしまうから、そこはうまくやらないといけない。