商標権侵害訴訟における被告の主張(2) | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎


知財ぷりずむ2月号の記事を書いている。さわりだけ紹介しよう。



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 使用主義の法制では、商標権侵害訴訟において、「誰が真の商標権者か」がしばしば問題となる。これに対して、わが国のような登録主義の法制においては、商標登録の名義人が商標権者に他ならないのであり、「誰が真の商標権者か」という質問は意味をなさない。

 しかしながら、このような形式的な割り切りは、時として不合理な結論を導く。そこでわが国においても、形式と実質の不一致、すなわち商標登録を有すべき者と現に商標登録を有している者とに不一致がある場合に、権利濫用の法理を用いて請求を棄却するということが行われる。このような場合の権利濫用の抗弁を、ここでは「民法的」権利濫用の抗弁と呼ぶことにする。

 もう少し具体的な事例を想定して考察してみよう。外国においてのみ使用され登録されている商標について、わが国の法人が外国の商標権者から「ライセンス」を受けることがある。日本において誰も商標登録していなければ、日本では商標権が成立しておらず、したがって本来の意味での使用許諾ではないが、かかる契約は実務的には行われている。


 上記の場合、日本におけるライセンシーが、外国の商標権者との契約により、日本において商標登録出願を行うことが認められることがある。しかし、そのようなことを認めると、後に外国の商標権者と当該ライセンシー(旧ライセンシー)との間で紛争が生じ、契約関係が終了した後も旧ライセンシーが商標登録を保持し続け、ついには外国の商標権者によって新たに選任されたライセンシーを旧ライセンシーが商標権侵害で提訴するという事態に至る。


したがって、外国の商標権者の立場からすると、「ライセンス」を許諾する前に自己の名で日本に商標登録出願をしておくか、少なくとも日本におけるライセンシーが自己の名で商標登録出願をすることはできない旨を契約書に明記しておくことが重要である。


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 続きは「知財ぷりずむ」で(経済産業調査会発行)。「知財ぷりずむ」はまだメジャーでないが、法改正情報も詳しく、なかなか役に立つ雑誌である。これと判例情報の充実した「Law & Technology」(民事法研究会)があれば、私の実務に必要な情報のかなりの部分をカバーしている。