著作権法の改正課題と雑感 | 知財弁護士の本棚

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企業法務を専門とする弁護士です(登録30年目)。特に、知的財産法と国際取引法(英文契約書)を得意としています。

ルネス総合法律事務所 弁護士 木村耕太郎

 今週はかつてなく忙しく、本当はブログを書いている場合でないのだが、趣味であるからやめることはできない。忙しいときはより忙しく、暇なときはより暇になる。仕事が仕事を呼ぶという感じ。土曜も日曜もなさそうだ。


 さて知財ぷりずむ12月号、1月号の「著作権法の改正課題(1)(2)」と題する文化庁著作権課長の山下和茂氏の論稿を大変面白く読ませていただいた。


 内容は、主として以下の2つの報告書の解説。


 (1)文化庁文化審議会著作権分科会法制問題小委員会「平成20年度中間まとめ 」(平成20年10月1日)


 (2)知的財産戦略本部デジタル・ネット時代における知的財産制度専門調査会「デジタル・ネット時代における知財制度の在り方について 」(平成20年11月27日)


 知的財産と言っても特許が本業の私としては、気になるのは(1)の「研究開発における情報利用の円滑化について」である。元になっているのは、平成20年5月29日デジタル・ネット時代における知的財産制度専門調査会の検討経過報告で、それによると、研究開発活動における著作物の利用行為について一定の範囲で権利制限を認めないと、わが国の国際競争力の低下を招きかねないという。


 しかし報告書(1)を見ると、ウェブ情報解析、言語解析、画像・音声解析など、かなり限られた技術分野を想定して議論している。率直に言って、そんな特殊な分野だけ法整備しても日本の国際競争力に関係ないと思うのだが。

 



 また報告書(2)では、何と言っても日本版フェア・ユース規定についての言及が目玉だ。

 「個別の限定列挙方式による権利制限規定に加え、権利者の利益を不当に害しないと認められる一定の範囲内で、公正な利用を包括的に許容し得る権利制限の一般規定(日本版フェア・ユース規定)を導入することが適当である。」と明記している。もっとも、予見可能性を担保するため、「公正な利用は許される」のような広範な権利制限を認めるような規定にはならないという。


 著作権の保護期間の延長(現行の著作者の死後50年を70年にするべきか)とか、私的録音・録画補償金の問題(i-Podやハード・ディスクレコーダーに課金すべきか)などの問題は、業界の利害対立が激しすぎて意見がなかなかまとまらないようだ。著作権法の本質が「業界の利害調整法」だと揶揄される所以である。


 特許の場合、ある事件で原告(特許権者)でも別の事件では被告になる。だから皆、立法について極端なエゴは言わない。ところが著作権の場合、権利者は永久に権利者だし、利用者は永久に利用者だ。したがって簡単には妥協点が見出せない。