日経電子版より引用です。
――実印、認め印、銀行印……印鑑にはいくつか種類があって、それぞれ役割が違いますね。
「実印は、住民登録している自治体で印鑑登録することによって、印鑑登録証明書がとれるはんこを指します。はんこと印鑑証明があれば、法的に本人確認ができたということになります。住宅ローンをくんだり、不動産登記をしたり、遺産相続したりするときに必ず必要になるのが実印です」
――実印として使える印鑑に何か決まりはあるんでしょうか。
「市区町村によって多少異なりますので、品川区の例をみてみましょう。『1辺が8ミリ以上、25ミリ以内。住民票に記載されている氏名(氏もしくは名だけでもよい)を文字で表しているもの』とあります。『澤山五郎』さんの場合、フルネームでもいいし『五郎』でもいいし、『五澤』のように氏と名の一部を組み合わせてもいいようですね」
――結婚前に割と高級なはんこをつくったので、もったいなくて、結婚で姓が変わった後もそのはんこを印鑑登録しようとしたら、役所の窓口の方にあきれられたことがあります。お恥ずかしい限りです。
「それはダメです。あくまで住民票に記載されている氏名でないと。そのほか、芸名やハートマークなどの模様入りや氏名以外の文字が入ったもの、市区町村によっては三文判や指輪印もNGです。ただ、僕のお客さんの話なのですが、住民票と戸籍謄本に記載されている名前の一部が『邊』と『邉』で異なっていて、かつ、両方のはんこを作ってあったので、どれが実印でどれが銀行印だかわからなくて困ったことがありました。結局、戸籍でも住民票でもない『辺』で印鑑登録されていました。ずいぶんと昔に登録されていたみたいです」
――それにしても、はんこ文化は日本に深く根付いていますね。
「国外に住んでいて日本の会社の役員になろうとすると結構、大変なんですよ。会社の取締役になるには実印と印鑑証明が必要です。しかし、日本に住所がないと印鑑証明がとれません。国外には印鑑がないので、印鑑証明の代わりにサイン証明書というものを大使館などでとる必要があるんです。サイン証明書が印鑑証明と同じような役割を果たすというわけです」
――そもそも、なぜサインだけではダメなんでしょうか。
「文化論はさておき、僕ははんこは便利なものだと思います。はんこと印鑑証明があれば本人確認ができるわけですから。署名だけだと偽造される可能性がありますし、印鑑は一般人では偽造は難しいです。署名に加えて印鑑があることで、他人のなりすましに対するハードルが一段上がるのではないでしょうか」
――便利な一方で、金融機関への届け出印をなくしたり、どのはんこを届け出たのか忘れたりすると、かなり面倒くさいですよね。
「確かに銀行の届け出印をなくすと面倒です。僕も経験がありますが、口座がたくさんあったので手続きが大変でした。実際の相続の現場でもそういうことがあります。人が亡くなると、遺族は生活に支障が出ないように公共料金などの契約者変更や口座引き落としの切り替え手続きなどを急いで行うのですが、死亡を伝えると手続きが大変になるので、故人のはんこを使って行うことがあります。もちろん正しい使い方ではないのですが、故人のはんこがないと遺族は困ってしまうわけです」
――逆に、はんこさえあれば、故人に代わって家族が手続きできるということですよね。
「先ほど、はんこが便利といったのは、そのような理由もあるんです。例えば、本人が寝たきりだったり、病気で手を動かせなかったりする場合、署名をするのは無理でも、はんこだけであれば代わりに人が押せます。はんこは一言でいうと、融通が利くんです。本人が移動しなくても、はんこだけ移動させれば手続きができます。もちろん、だからこそ悪用や盗難に気をつける必要があるのですが」
――はんこは本人確認のハードルを上げるものである一方で、代理をお願いすることもできる道具でもあるんですね。
「日本に根付いている理由の一つとして、やはりこの融通の利きやすさという点があるのではないでしょうか。例えば、税務署に提出する確定申告書は、かつては書面に押印して提出することが必須でした。でも、会計事務所によっては申告期限である3月15日前に数多くのお客様に一斉にはんこを押してもらうのも大変なので、日本の有名な姓のトップ30ぐらいのはんこを用意してあったんですよ」
――山田さん、佐藤さん、田中さんと……
「はい。お客様の了解をとって、はんこを代理で押すわけです。で、佐藤さんというお客様はすべて同じはんこになっちゃう場合もあります。いまでは確定申告も電子化されて、税理士の電子署名だけでOKになりましたけどね」
■捨て印の意味は……
――そういえば、確定申告書にも押印しますね。実印は別として、普段、手続きなどで押印を求められると、何の疑いもなくポンポンと押してしまっていますが、いいのでしょうか。
「捨て印の役割を知っていますか。捨て印は、契約書などの記載に誤りがあった場合、それを訂正するための訂正印に代わって押すものなんです。ですから、捨て印を押すということは、契約を交わした相手が記載内容を訂正することを承認するという意思表示なんですよ」
――それは知りませんでした。捨て印という名称からして、念のため欄外にも1カ所押しておく程度の予備的なものだと思っていました。
「もちろん、捨て印があるからといって契約書の内容を何でもかんでも変更できるわけではありません。記載内容に少々、書き間違いがあった場合に、いちいちまた来てもらって訂正印を押し、内容を修正するという手間を省くために存在しています。この捨て印も実務家の立場からいうと、非常に便利なものなのです」
――でも、そのお話を聞いた以上、今度何かの申し込みや契約で捨て印を求められたら相手の顔をジッと見てしまうかもしれません。
「確かに性善説のうえに成り立っているものですよね。改めて、はんことは本人確認の手段であり、本人に代わって意思表示できる道具だということがわかります。これだけネットが普及して、様々な手続きや申請がネットで可能になりましたが、はんこは廃れずに残っています。やはり、便利な面があるからだと思いますよ」
日本の性善説に基づいたはんこ文化いいですね~~![]()





