12月7日にアメリカ・ネバダ州ラスベガスのフロイド・メイウェザーのボクシングジムで、大晦日に対戦する那須川天心が公開練習を行った。その後に双方出席しての記者会見が行われた。 また、ルールが正式発表され攻撃はパンチのみのボクシングルールとなる。試合時間は3分3ラウンドで両者とも8オンスグローブを着用する。気になる契約体重は147ポンド(66.67kg)以下で、判定決着はないためジャッジはなし。そのため公式記録には残らない。体重差が、10キロ近くあるにも関わらずグローブハンデもなく、両者とも同じ8オンスのグローブを着用する。天心にとって主戦場ではない初めてのボクシングルールでの試合は、不利なルールで行うこととなった。

ハンデがないことがハンデになる戦い

 今回の試合のルールで気になったのは両者の体重差だ。通常ボクシングの試合で10キロ近くの体重差で試合をすることは、ほぼ無いだろう。ウエイトがかなり違うのにも関わらず、同じ8オンスのグローブでグローブハンデはなし。そこにかなりの不平等差を感じた。エキシビジョンであるのなら、体重差を考慮して、せめてグローブハンデだけでもと思ったが、両者同じ重さのグローブで対戦することが発表された。しかも、ウェルター級の試合で8オンスはあまりにも危険すぎる。通常ボクシングの試合では、グローブはプロの試合の場合、男子はミニマム級からスーパーライト級まで片方8オンス(227グラム)、ウェルター級からヘビー級までが10オンス(283.5グラム)で戦う。僅か2オンス(56グラム)の違いだがその差は大きい。小さくて軽いグローブの方がスピードが載った強いパンチを打つことができる。そのためボクサーはできれば軽いグローブで試合を行いたい。その方が有利に戦えるからだ。それは百戦錬磨のメイウェザーでも同じことだ。メイウェザーのこれまでの戦歴を見てみると興味深い事実がある。

階級を上げて一気にKO率が下がったメイウェザー

 メイウェザーのキャリアを見るとスーパーフェザー級スーパーウェルター級まで5階級を制覇している。フェザー級からライト級時代は8オンスのグローブで戦っていた。階級を上げてウェルター級に転向してからは、ルールで10オンスのグローブで戦っている。ライト級からウェルター級に階級を上げてからメイウェザーのKO率がぐんと低くなっているのだ。メイウェザーの戦績は50戦無敗で、そのうちの27試合がKOで決着がついている。KO率にすると54%だ。決してKOが多いわけではないが、ここに興味深いデータがある。スーパーライト級までの8オンスで試合をしていた時期は、KO率がぐんと高くなるのだ。フェザー級、ライト級時代では35試合戦っており24のKO勝ちがある。KO率にすると70%でそれなりにKOが多い部類に入る。しかし、階級を上げてウェルター級以上での試合になると、15試合のうちKOは3試合しかない。KO率は一気に20%に下がる。しかも、このうちの2試合はブレイク直後のパンチで反則スレスレでKO勝ちした試合(ビクター・オルティス戦)と、ボクサーではない総合格闘家の選手(コナー・マクレガー戦)とボクシングルールで戦った試合である。ウェルター級時代にまともにKOした試合は、イギリスのリッキー・ハットン戦くらいしかない。ライト級時代とウェルター級時代のKO率の差を考えると、グローブの大きさも相互関係がないとは言えないだろう。現に階級を上げてからメイウェザーは好戦的ではなくなり、ディフェンシブな選手となった。グローブは軽い方が有利に戦える。少しでも重いとその重さを支えるためにエネルギーを使うし、打つ時も力を必要とする。軽くなればなるほど、スピードも増しパンチの衝撃度は間違いなく増す。8オンスで戦っていたライト級時代のメイウェザーはKO率も高くパンチ力があったと言われていただけに、今回の試合でまともにメイウェザーのパンチを食らったらかなり危険である。

将来がある選手だけに怪我が心配

 体重差10キロの今回の試合は賛否両論はあるだろう。しかし、メイウェザーは誰もが戦いたいボクサーであるのは事実だ。誰よりも稼ぎその知名度はボクシング界に留まらず、世界的に抜群の影響力がある。全てのアスリートの中で1試合で300億以上稼げる選手は、メイウェザー以外にまずいないだろう。なので、メイウェザーと試合をすれば、彼と戦った選手として一気に知名度は上がるし、選手としての価値も大きく高まる。そう考えると主催者のRIZINがメイウェザーに用意したと噂される10億円以上のファイトマネーも、RIZINの知名度UPや広告、宣伝費としてはペイできるのかもしれない。しかし、無理なマッチメークで選手を潰すことだけは避けてほしい。天心は日本の格闘技界の中心の選手になりつつある。まだ若く将来性が期待されているだけに、怪我だけには気をつけてもらいたい。メイウェザー自身はボクシングは引退していてエンターテイメントに重きを置いているといっているので、どこまで本気で仕上げてくるかは不明だ。しかし、天心のパンチでメイウェザーがヒヤッとするところも見たいのも事実だ。平成最後の大晦日となるが、公式の記録には残らないが、人々の脳裏に記憶される熱いファイトを期待したい。

 

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