今回はお勧めの一冊をご紹介します。

西山ガラシャさんの「おから猫」(集英社文庫)です。

 

西山さんは「公方様のお通り抜け」で日経小説大賞を受賞された方で、生まれも育ちも名古屋。

それだけ名古屋の歴史に造詣が深い方です。

その西山さんが「小説すばる」に連載していた短編を一冊にしたのが、今回の「おから猫」です。

現在も名古屋の大須に実在する大直禰子(おおただねこ)神社に係わる六つのエピソードを描いています。

 

第一話では、名古屋のビッグスター徳川宗春がお忍びで出てきて盛り上がります。

第二話では幕末期、勤皇派として知られた田宮如雲の義理の父、田宮半兵衛を取り上げます。半兵衛はほとんど知られていないので、超有名人・宗春との落差が面白いところです。

三話では葛飾北斎というビッグネームが登場。

第四話では宇都宮三郎、柳沢春三というローカルヒーローが現れます。

さらに五話では松坂屋の伊藤次郎左衛門。そして最終話では小山清孝という無名の学者を道化回しにして、家康や福島正則、加藤清正ら絢爛たるスターが登場してタイトルのおから猫の由来についての解説がなされます。

 

描かれる時代は、享保年間から明治まで。

読み終わると、時代を駆け抜けたかのような気持ちになります。

特に第五話のスケール感は大きく、作者の筆力に唸らされます。

長編小説にしてもいい題材を惜しげもなく短編に使っているので、とても濃い内容となっています。

 

時には笑い、時には泣く。見事な配列、構成です。ご一読をお勧めします。

 

 

現在でも上前津駅前にある神社。

 

個人的には宇都宮三郎が好きです。三郎は日本初のポルトランドセメント製造を成功させた人物ですが、奇人変人ぶりを後世に伝えるエピソードもたくさん残っています。写真は三郎の出生地。千種駅の近くで、現在は名古屋市立中央高等学校が建っています。