先週に引き続き、この週末は映画に。
今回観たのは「ビヨンド・ユートピア 脱北」。
タイトルからもお分かりになると思いますが、北朝鮮からの脱出者を描いたドキュメンタリー映画です。
この映画は、韓国の脱北者支援団体・地下鉄道の中心人物であるキム・ソンウン牧師の活動を軸に描かれます。
北朝鮮と中国の国境には鴨緑江(おうりょっこう)という川が流れています。
キム氏に言わせると「この川を越えるのはそれほど難しくない」そうです。
ですが川を越えても、中国の人に見つかれば北朝鮮に追い返されてしまいます。
伝手もなく、計画もなく、中国に渡っても100%脱北は成功しません。
中国にはブローカーと呼ばれるしたたかな人がいて、若い女性や働き盛りの男性など、いわば奴隷として売れる商品価値がある者は、助けるふりをして売り飛ばしてしまうそうです。
この映画では、5人家族が登場します。
80代の老婆、息子夫婦、幼い子供ふたりです。
ブローカーはこの家族に商品としての価値がない、と判断。
韓国の地下鉄道に声を掛けてきます。
親切心からではありません。
脱北の援助をする代わりに金銭を要求してくるのです。
キム氏によると、コロナ禍以前はひとりにつき日本円にして30万円ほどだった援助費用が、今は200万円まで高騰しているそうです。
脱北のルートとしては、中国からベトナム、ラオスを抜けタイへと向かうもの。
実に12000kmにも及びます。
那覇市と札幌市までが約3000kmですから、実に日本縦断を4回を行うくらいの距離です。
しかもジャングルの中を歩いたり、野宿することもあります。
こんな過酷な旅を80代の女性や幼い子供が行うのだから驚きです。
キム牧師は若いころに行った脱北者の越境地帯として知られる豆満江で物乞いをする脱北した幼い子供を見て衝撃を受けました。その時、脱北者を救うことを自らの使命と感じたそうです。
キム牧師は韓国にいて指示を出すだけでなく、自ら脱北者の逃避行に同行します。
怪我の連続だそうです。
もうこれが最後の旅と思いながら、1000人以上を救ってきました。
この中で特に印象的だったのは、キム氏が支援活動中に7歳の息子が亡くなったという話です。
「息子の命は一粒の麦だったと思っています。地に落ちた一粒の麦は多くの実りをもたらせました」
40日の断食を行ったほど辛かった経験も、自らの信仰に昇華させる前向きの姿勢には、胸を打たれました。
この映画では北朝鮮の実状に関する映像も映し出しています。
人糞は肥料として使われるため勝手に処分できないそうです。袋に詰めて供出するのですが、量が少ないと怒られるため、他人の便所の人糞を盗む者もいるといった内容は衝撃的でした。
韓国に渡ってからも、80代のおばあさんはなかなか本音を口にしません。
娘は言います。
「北朝鮮の人は、何でもまず疑ってしまう。北朝鮮の外の景色を見せられてもそれが本当だとは思わない」
世界のどこかの国で起きているよくわからないこと、で済ませてしまっていいのでしょうか?
とても考えさせられる映画でした。