2023年の書籍については。2冊を選びました。
セットで読むと、幕末の外交政策がよく分かるからです。
幕末外交と開国(講談社学術文庫)加藤祐三(2012年初版)
オールコックの江戸(中公新書)佐野真由子(2003年初版)
加藤氏はあとがきにこう書いています。
黒船来航と日本開国について、日本には今なお次のような理解が存在している。➀無能な幕府が、②巨大なアメリカの軍事的圧力に屈し、③極端な不平等条約を結んだとする説である。
それらの考えに対し、
弱肉強食を基調とし、有無を言わさぬ戦争が政治の主な発動形態であった時代に、それとはまったく異なり、戦争によらず、平和的な交渉による国際関係への道を開いた。日本は国際社会へのソフトランディングに成功したのである。
と加藤氏は主張します。
日本はアメリカ艦隊に独自の補給線がないことを見抜き、軍事力が単なる誇示なのか、強権発動があり得るのかを峻別している、と書きます。
先ほどの③の条約の不平等な部分については最恵国待遇がアメリカだけの片務性がある、為替レートが日本に極端に不利などがあげられます。
作家の佐藤雅美氏は、為替レートに関して、
気が付けば儲けることができなくなる、儲けたいという一心がハリスの心を曇らせた。
(幕末NIPPON)角川春樹事務所
と書いていて、こんなアメリカや西欧諸国は日本の無知に付け込んでいるとしています。
なんだか、長くなりそうなので、個々の解説はやめますが、「オールコックの江戸」で佐野真由子氏は、
(オールコックは)不当までの金の流出には歯止めをかける必要があると考えた。
とし、
自分がとろうとしているこの行動が、将来の日英関係、将来の大英帝国、将来の日本の姿に与える影響を考えている。
オールコックの姿勢は、公の奉仕者という以上に、歴史に奉仕する者のそれであった。
と書いています。
ものには何でも色々な面があって、一概にどの面が正しいとは言えないと思います。
加藤氏や佐野氏の主張にも反論はあるでしょう。
しかし、最初に書いた加藤氏の内容が幕末外交の「常識」に近いものとして広く流布していることを考えると、いちど「常識」というものを疑う必要がある、と思わせてくれた2冊を2023年のベストとしたいと思います。