(データ)

ブランド名:山廃 純米吟醸 末廣

原材料名:米(国産)、米麹(国産米) 

精米歩合:55%

原料米:会津産契約栽培米

度数:15度

日本酒度:-3~-4

酸  度  1.3 - 1.5

杜氏:津佐幸明氏

製造元:末廣酒造株式会社

福島県会津若松市日新町12-38

TEL:0242-27-0002 

FAX:0242-27-0003

 

~こだわりの嘉儀式山廃造りを継承する酒蔵

 

2019年に開かれたG20大阪サミット首脳夕食会において、飲料を監修したのはソムリエの田崎真也氏。

田崎氏は乾杯酒として「秋鹿」、食中酒には「秋鹿」「末廣」「南部美人(スパークリング)」「白ワイン甲州2018」「赤ワイン神戸ベネディクション2016」を選びました。

「里山」と名付けられた日本料理の繊細な味付けを邪魔することのないようなお酒を選んだようのでしょう。

また、それとは別に日本古来の製法に基づく日本酒を選んだようにも思えます。

 

選ばれた「山廃 純米吟醸 末廣」はその名の通り、山廃仕込みによって造られたお酒です。

山廃仕込みは、従来の生酛酛、水酛を使う日本酒造りとは違い、比較的新しい手法です。

1909年(明治42年)に大蔵省醸造試験技師であった嘉儀金一郎氏によって発表されたのが山廃仕込みでした。

 

山廃仕込みによる新しい酒造りは、試行錯誤が必要でしたが、試験醸造は非常にお金のかかる懸案です。

ここで名乗りを上げたのが末廣酒造です。

末廣酒造は大正期に入ると、若松市の補助交付金をうまく活用し、嘉儀氏を招聘します。

今井出版の「儀嘉金一郎」によると、

 

金一郎は、大正六年(1917年)十二月、福島県若松市(現・会津若松市)の末廣酒造を会場として約四〇日間の実地指導を行い、以降三年間継続して実施された。

 

とあります。

 

嘉儀金一郎氏

 

嘉義氏が山廃酛の製法を発表した翌年、江田鎌次郎氏により速醸系酛が開発されます。

速醸系酛は人工的に製造・培養した乳酸や酵母を添加するものであり、山廃酛が成し遂げた製法のショートカットをさらに押し進めたものです。

現在では日本酒の9割がこの速醸系酛による製法によって造られていると言われています。

しかし、従来の酛(生酛、水酛)から速醸系酛に変わるには時間が掛かりました。

先の「儀嘉金一郎」によると、

 

(大正6年)

速醸系酛 5%

山廃酛  18.7%

在来酛  75.5%

 

(大正14年)

速醸系酛  13.4%

山廃酛   24.7%

在来酛   61.1%

 

(昭和8年)

速醸系酛  24.6%

山廃酛   30.8%

在来酛   44%

 

となっています。グラフで表すと下記の通りです。

 

 

地方差も大きく、東京や仙台では比較的早く新醸造法(山廃、速醸系)が採用されましたが、九州や四国を含む西日本では採用が遅かったそうです。特に酒どころとして名高かった灘方面ではそっぽを向かれていたと言います。

 

「山廃 純米吟醸 末廣」にたどり着くまでだいぶ寄り道をしましたが、嘉儀氏の功績を今に伝えるのが、このお酒です。

「嘉儀式山廃酒母を使用した純米吟醸酒」とあります。

色は淡い山吹色。

吟醸香も控え目です。

一口、口にすると山廃仕込みらしい酸味と芳醇さを感じます。

わたしは滅多にお燗はしないのですが、このお酒はお燗のほうが合っているように感じました。

インタビューで末廣酒造の新城猪之吉社長が若者が日本酒嫌いになった理由として「先輩が後輩を安居酒屋に連れていって安い熱燗酒を飲ませたからだ」と話しておられたのですが、自分はまさしくその通りでした。

この「末廣」の熱燗を飲んでみて、たしかにその通りだと思いました。

日本酒のバリエーションを広げてくれたお酒でした。

 

 

 

     

 

参考:G20 2019 JAPAN

        嘉儀金一郎(今井出版)嘉儀金一郎研究会