自分がそうであったから、人もそうだったろうと思って言う。今日歴史時代小説に取材した小説を書いている作家で、歴史時代をよく知って書きはじめた人はいないだろう。小説や、講談や、芝居や、せいぜいのところその時代の人の書いた随筆類を読んでいるうちに、なんとなくその時代のことが分かったような気がして、その安心の上にすわって書きはじめたというのがほとんど全部であろう。

 

(時代小説家。極力フィクションを排した史実重視の小説を書き続けた)

 

 

この台詞を現代の歴史時代小説家(特に時代小説家)が口にしたなら「ああ、そうでしょうね」とうなずくと思いますが、大御所・海音寺潮五郎氏の言葉となると、重みがまったく違ってきます。

「ええ!」と驚くばかりです。

最初は知識が乏しかったにしろ、後年の海音寺氏の小説にはあふれ出るほどの蘊蓄がこもっています。

スタート地点は一緒でも、努力次第で、時間が経つと驚くほど差が付いているものです。

毎日、精進していかないと取り残されるばかりです。

 

葉室麟さんがまだ新人だったころ、海音寺潮五郎氏から「かならず賞がとれるから、頑張りなさい」と激励されたそうです。

その葉室麟さんは、朝日時代小説大賞の選考委員だったところから、励ましの言葉をいただきました。

今は、海音寺潮五郎氏も葉室麟さんも鬼籍に入られてしまいました。

少しでも偉大なる諸先輩の背中に近づけるように、自分も頑張らなければと決意を新たにした次第です。