モーズ軟膏治療の概要については下記を参照ください。

 

 

最近はモーズ軟膏治療をご希望で来院される方が増えてきています。医療や生活環境の向上にともない動物が高齢まで生きられることが多くなり、その結果悪性腫瘍の発生も増えてきているのでしょう。

多くのご家族は動物の匂いや出血、かゆみの相談でモーズ治療を希望されて来ますが実際に実施されるのは患者さんの3割程度です。その他は外科手術の再検討、腫瘍の部位や大きさや動物の治療へ非協力な性格などから適応外といった判断になります。

モーズ治療の治療はやや煩雑であり、正常な皮膚に付着すると痛みや潰瘍などの副作用もあります。症状や動物の性格によっては全身麻酔が必要になります。

当院でのモーズ治療は薬剤の調整から塗布、洗浄まで含めると4時間ほどかかるため日帰り入院が必要です。治療直後から病巣は乾燥した紙粘土のように白くカチカチに固まり、出血やにおい、ジクジクも劇的に改善します。しかしずっとこの状態が続くわけではありません。7日程度で固まった紙粘土がはがれおち、一回り小さくなった病巣が再度むき出しになります。モーズ軟膏治療は複数回実施しなければなりませんし、万能や治療ではありません。治療がうまくいく場合は数回の治療後、腫瘍の体積がほとんどなくなり無治療でもよい状態になります。

 

 

犬症例 10歳 シーズー

主訴 おしりのできもの

 

ふたご座「数年前からあったしこり、ここ数カ月でどんどん大きくなりました。出血とにおい、かゆみがかなりあるようで、保護したおむつの上からカミカミしてます。モーズ軟膏治療を希望しています。」

 

猿「上手に洗浄とガーゼや包帯で保護できています。包帯の下で病巣が蒸れるためかなりかゆいそうですね。しこりのまわりの皮膚もかぶれてしまっています。」

腫瘍サイズがかなり大きく、筋肉にへばりついているような状態でした。

「モーズ治療ができるにはできます。大きさがかなり大きいのと、場所が肛門にも近くそこにモーズ軟膏がふれると危険ですので、麻酔が必要になると思います。初回は全身状態や転移の確認とのための健康診断と、麻酔下で腫瘍を一部切除する組織生検とモーズ軟膏を行うのはどうでしょうか?組織生検の結果が良性腫瘍ならば手術で根治がめざせると思いますので後日全切除を行いましょう。悪性腫瘍の場合はかなり進行していることが予想されますので根治は挑戦的な治療になると思います。また、今のにおいや出血などはモーズ治療直後から劇的に改善します。効果は7日程度です。」

 

治療プランに同意が得られたので数日後に検査と治療を実施しました。

 

 モーズ軟膏の作成

皮膚や目に入ると危険なため、保護メガネなどをして作成します。

 

 治療前。(写真は白黒。)

治療前。おしりの大きな腫瘍が破れています。出血もひどく、赤くジクジクした状態です。

 

 腫瘍以外の正常皮膚領域を保護

 腫瘍の中にモーズ軟膏を染み込ませたガーゼを乗せていく

 モーズ軟膏がはみ出さないようにペットシーツなどで覆う

 (写真は白黒)腫瘍が紙粘土のように固まる、匂い、出血も直後から劇的に改善します

 

 

7日後

ふたご座数日はよかったがやはりジクジクしてきています。においは当初よりはだいぶいいです。

 

病理の結果は残念ながら悪性度の高い扁平上皮癌でした。さらなる積極的な治療は希望されませんでしたので、痛み止め、かゆみ止め、抗生剤などの薬や局所治療で緩和ケアをしてことになりました。

 

猿コメント

大切な家族の、いつもなでなでしていたフサフサな体にしこりができて、それが大きくなって、出血して、ジクジクして、どうしようもなくなっていく日々は、とてもとても悲しいものです。私もこどもの頃に飼っていた猫の乳腺腫瘍が自壊して猫がずっと気にしてなめていたことを今でも覚えています。

放っておいても大丈夫な良性のしこりも多くありますが、拡大して1センチを超えるようなしこりは早めに動物病院に相談しましょう。放っておいても大丈夫かどうかは簡易的な検査で大まかには診断できます。治療が必要な場合は多くのケースで外科手術が第一選択です。

いろいろな事情で切除できなくなってしまった場合はモーズ軟膏治療も選択肢になると思います。モーズ軟膏治療を実施してない病院も多いと思いますので、もし同じような悩みをかかえているご家族はまずは近所のホームドクターに確認してみてください。

当院へのお電話やメールでの問い合わせはご遠慮ください。実際に診察しないと判断ができかねます。お大事にどうぞ。