入札当日、町役場会議室に関係者一同緊張の中、応札の造船所に概要説明。 事前に資料等は配布済み、質疑応答だが何処も黙したまま特殊船だけにリスクを伴い各社、共に慎重。 事業規模から予算は厳しく、CFRP成型加工技術には深い関心は有るが「サーフェス」システムなる新技術に各社設計陣も悩まれた筈。
応札の造船所は、長崎・福岡・山口・熊本何れも五島の監視船で競り合った社。
入札第1回目は予定価格を大幅に越え不成立、引続き2~3回と続けるが結局不成立、予算が足らないのだ。 会場思わず緊張が走る、此れまでも数回経験したが、
今回は予算以上にリスクは私も不安要素、新技術に期待・意欲を示してくれと祈る。
結局 予算に近いS造船所(福岡県・大牟田)と別室で関係者話し合いの上決定。 その前後だったか、事務所から大恩のオヤジ(前田建一師)の奥様亡の知らせ。 公私とも平常な心境では無かった、その夜は落札の社(専務)含め懇親の席が設けられ多勢に無勢でしたたかに呑み過ぎた、トイレで貧血起し後頭部を強打、気絶数分?不明、此処何処??席に戻るも顔ぶれさえ忘れ記憶喪失、虫が知らせたのか。
1~2週間後、起工式を兼ね5漁協組合長や参事一同とS造船所に伺う。
一通り名刺交換や挨拶を終え着席直後、社長開口一番「何で福岡航研に頼まれたんですか? 東京にはM高速艇研究所も有るのに」初対面にも拘らず私を一瞥し皆さんの一同面前イキナリであった。 事情・経緯はご存知無くともこれから監理監督に行く立場の私に、立つ瀬が無いとはこの事。 社長、専務共相当なツワモノに当初からガツーンだった。 帰路、組合長以下同情の言葉は、これからの苦労を暗示。
以降、行く度「敬して遠ざかる」だったが、デザイナーのMさんS造船所決定を知らせた際、呻きとも思える表情の変化に取成した覚え。 その後彼と同道した際、建造中の小型旅客船を見つめ神妙且つ複雑な面持ち、同船は彼デザインに依るもの。
彼に依頼したがキャンセルを伝えられていた船、 流石に私も気が付いた。
後年 大分県漁協の監視船を随意契約、設計を無断使用し建造は、ど肝を抜く?!
日本広しと云えど業界は「歌舞伎世界」の如く狭い。 噂、情報瞬時に伝わる。
以降 入札に際して応札の造船所・業者選定では意見・希望を伝える事にした。
前回「南海造船所」とは対応が明らかな違い、事業・技術とは別な側面を知るに
及んだが遅きに失した。 気遣いは「サーフェス」の未知なる先行き心配な時。
しかし設計のスタッフの直向で懸命な姿勢に助けられた、詳細設計は造船所所掌、現場指導含め打合せ等で救いだった。 中でもE主任は常日頃コンタクト意気疎通し全て彼を通じての作業はスムーズに運ぶ、一応(年度末)の予定納期に追われ
るが重量重心トリム計算では心配されていたがトリムタブに依拠、実は私も心配。
CFRPの施工要領など持てる全ての技術を投入、現場・設計陣と協同の作業。
突貫工事は次第に姿が見えて来る。 ここでFRP(ガラス繊維)船とは鉄やアルミの均質材料と違い材料設計や材料生産から成される、作業精度に拠り結果は大きく異なり、今回CFRP(複合炭素繊維)の積層作業は、艇性能その成果をも左右する。
重量管理が大切だが、予算不足の事業ゆえ何もかもとは、つい遠慮が先に立つ。
肝心な重量計測もそこそこに工事進捗、最早進水時の重査で最終確認する事に。
主機関は主要(指定範囲)性能でメーカー・機種は造船所決定事項M社製、始めての機関カタログデータによる精査・確認で済ませる。 前回はロードセルで実測したがS社に備え無く、時間と予算不足は未知な技術に取組む際様々な事態に直面する。
造船所は有明海の一番奥に在り、汐の干満差実に6M。 簡単に浮かせ計測とは行かない、干潮の際水面は数キロ先、目の前で流れの様に退潮は聞きしに勝る。
完成間近と共に数々心配事が募り寝覚めも悪い、話す相手も無く悶々の状態。 机上で計算データ摺り合わせし自問自答、重量重心は船体総重量共に気懸りな
面、喉の小骨以上心配、 高速艇では最も重要だが確認が出来ない。
時は4月末、愈々進水試運転(公式では無い)満潮を期して進水と同時に試運転コースに向う、海上に出るには川を下らなければならない潮の干満を考慮すると
一刻の猶予も無い。 これら地方の造船所は夫々に地域特有の場所的事情が抱えており柔軟に対応は寧ろ当然の事。 造船所管理課長(次男、社長長男、三男専務)
船長操舵で出港、徐行運転を兼ね低速で川口へと向う。
船長の隣でワッチ(周辺視認)20分位い経過やがて海上に差掛り、船速を上げるべくレバーを引きパワーを上げる。 サーフェスプロペラは一般スクリューと違いピッチ(翼角度)はかなり大きく全没状態、初動時は特に過負荷状態となる。
加速は叙々に上げるがレスポンス(応動?)悪く船体は身震いの様に振動は常とは明らかな違い、回転数が6~7割方に達す瞬間、突然船首が立上りエンジン急停止! 皆急な事態に顔を見合わせ瞬時の出来事に動転、しばしボー然と立ちすくむ。
何事か原因不明乍ら、再起動し試みるが同様な状態に諦め半速で試運転予定の
運河に向う。 全員黙して語らず岸壁に係船、試運転は中止とする。 船体立上り機関停止に様々な要因を考えるか思いが至ら無い、陸上車で造船所に向う。
既に情報は伝わっており、社長・専務共に恐持て顔が更に上気して待っていた。
専務、 アンタ(日頃拒むがしつこく先生呼ばわりに困っていた)この始末はどうする
のかと問いかけ、社長は防衛庁でも出来なかった船をよう手懸けたものだ、と精一杯軽蔑を込めた怒りを露にし。 結局 解決策を早く出す様迫り、改造に当たっては当然工事を伴う、S社では初回取引の場合一切の工事費は現金前払いが条件と重ね重ねだめ押し。 企業経営では当然の事だが、説明会で本事業のリスクを伴う旨は重々説明済み、従って共に協同で新規開発に当る様に要請での入札だった。
加えて公共事業、公表となれば政治問題となる。 長崎県には議員の知り合いも有り当然県相手に訴える事も有りうると断言。 噂で以前JG検査船で予定性能に達せず、船主のクレーム処理から事も有ろうに海運局を訴え裁判沙汰は有名らしい。
工事期間中関係メーカーから忠告されていたが、不幸?にも現実当事者となる。
此れまでのS社姿勢と、本事業予算では最早協同の作業は期待出来ない。
従ってビジネスの関係、技術的課題の解決に加え、資金手当てが必要となった。
産みの苦しみを経て成功へ