車内からとにかく脱出すると、


ようやく、少しずつ、空気が胸に入ってくるようになりました。


だいじょぶ、だいじょぶ。

衝撃にびっくりしただけ。

だいじょぶ、だいじょぶ。


自分にそう言い聞かせながら、ちゃんと体が動くか、本当にだいじょうぶなのか確認してました。


手は、動く。
足も、動く。
指先まで異常はない。


頭、痛くない。

視界はクリア。
耳も聞こえてる。
口の中、金くさくない。


胸……は痛い。
でも、内臓に支障があるような痛みじゃない。


腰も動く。

胸が痛いから前かがみのままだけど、
動ける。


ちゃんと立てる、歩ける。




だいじょぶ、だいじょぶ。


びっくりしただけだよ。


だいじょぶ、だいじょぶ。



外に出てみると、車は、フロントのエンジンとか入っている部分がぐしゃぐしゃにつぶれていました。


プレスされた感じ。


車の中のパーツが、ひしゃげた隙間から見える。


中もゆがんでいるようでした。



センセイが前方に走っていくのが見えました。


前の車も割と小型の家族用、といった感じのセダン。


その後ろの部分が、見事にへしゃげています。



本体には私たちほどの影響はないようでしたが、かなり衝撃があったはず。


ガードレールにもたれてうずくまっていると、


道路脇のお店の方が三人ほどでてきて、安否を気遣ってくれました。


どうやら車の修理関係のお店のようで、つぶれたセンセイの車を見て、いろいろ察してくれたみたいです。




私も彼らにつられて、もう一度車をみました。



すると、つぶれたフロントの部分から、なにやら液体が落ちている!


ぽたぽた、ぽたぽた。

どんどん水溜りが広がっています。



『エンジンオイル!?』

引火したら、ヤバイ!


まだ十分に動かない体をひきずるようにして、車に近寄りました。


フロント部分に火花も散っていないこと、電気が走っていないことを確認して、

そろっと液体をさわってみました。



くん、と指先の液体をかいでみると
なんのにおいもしませんでした。


車屋さんがいうには

「ラジエーターの水だろう。引火したりはしないよ」
とのこと。


ほっとした私。


でも車屋さんは
「ラジエーターまで壊れたのか……」と重い顔をしていました。



そうです。


結局、ラジエーターまでひんまがっていたセンセイの車は、もう修理がきく状態ではなく……


廃車になってしまったのです(>_<)


なにが起きたのか。



実際に目で見ていたことは、充分に理解していました。


でも目前のことしか見えていなくて


なんでそんなことになったのかは後になってからしか分かりませんでした。




ごく普通に走っていて

ふと顔をあげたら

前の車が止まっている。


なんで? なんで!?



こんな道路の真ん中で

しかも三車線の真ん中で

信号もまだ先にあって

左右も車は走っていて


なんで…………!!??




「来るぞ!」

センセイの叫び声に、思わず息をとめました。



グシャ!

とか

ドカン!

とかいう衝撃音がしたと思います。



でも、それどころじゃなかった。


シートベルトに上体をひっかけられたまま

フロントに突っ込むかのように前に倒れ

その直後、椅子のせもたれにたたきつけられました。



息が、できなかった。


やばい、あばら折れたかもしんない。


とにかく呼吸をするために、声を出してみる。


「がはっ」

……もうちょっと女性らしい声は出せませんか。


まぁいいや。

ちゃんと声も出たし、それにともない、息が吐けた。


胸はいたいけれど、さすような痛みはない。


だいじょうぶ。


たとえあばらが折れていても、肺にささってる感じはしない。




安心した次の瞬間、焦りました。


呼吸ができない。


息を吐けるけど、吸えない。


吸おうとすると胸が痛い。


これは……ほんとにやばいかもしれない。



センセイが開かない運転席の窓から脱出し、助手席側の扉をあけようと苦戦してくれている。


なんで、扉が開かないの?


なんのことはない。


普段閉めないドアロックを、M月氏が厚意で閉めてくれていたため開かなかったのでした……。



式場もメドがついて、ひと息つきたい私たち。


でも休んでなんかいられません。


やること、いっぱい。


休日のたびに、あっちへこっちへ飛び回らないといけないのです。



結婚準備、第二弾。


それは、新居探しです。




休日、センセイに車をまわしてもらいました。


秋がはじまろうとしていて、とてもすごしやすい季節。


ドライブデートな趣で、新居さがしにレッツラゴウ。




この日、前の晩に電話がありました。

センセイの友人、M月氏です。



「もしよかったら、明日午前中にバイクショップまで送ってもらえないかな」


M月氏ご自慢のバイクのメンテナンスが終わり、バイクを取りに行きたいとのこと。


でも預けてあるバイク屋さんはかなり辺鄙なところにあり、電車で行くにはかなり不便。

できれば、送ってもらえたら。



日頃からなにかとお世話になっているセンセイに拒否権はありません。



当日朝、M月氏のご自宅前まで車をまわして乗ってもらい、

町中を脱出し南のバイク屋に到着。



M月氏ご自慢のバイクは、赤くつやつやと光っていました。


あまり興味のない私でも、どういうバイクなのかよくわかりました。



いいバイクですね?
お気に入りなんですね!?


外国のメーカーで、あまり日本で走っている種類ではないらしいです。


ちょっと珍しい車種なので、明記するとM月氏の正体がバレてしまう可能性があるので、ナイショ。


なにかあれば、修理もメンテナンスも、専門のバイク屋さんで整備していただかないといけないらしく、手間のかかる、だからこそかわいいバイク。


しかもなんだか排気量が大きいらしく、よく走る模様。


ぴかぴかのカウルをみつめるM月氏の顔がほころんでいて

うれしさを隠せない様子でした。



大きなお友達が目を輝かせている姿はなかなかお目にかかれるものではありません。


ましてや、良識も立場もそれなりにある大人の男の人の、きらきらした目。


稀なものを見せていただけて私までうれしくなってしまいました。



その後、センセイの友人にたくさんあわせていただくごとに、何度もお目にかかろうとは思ってもいませんでしたorz)




帰り道、M月氏はHの運転する車の前をバイクで滑走していました。


「ギャラリーがいるならば、せねばならないのだよ」

とセンセイが語るとおり


M月氏はいろいろな格好のライディングを披露してくれました。


横乗り(というのでしょうか)

立ち乗り(というのでしょうか?)

うつぶせ乗り(というのでしょうか!?)


見ている私が大ウケなのが楽しいらしく、M月氏は道が分かれるまで、芸を続けてくれました。



M月氏がご自宅に戻っていき、私たちはいざ、新居さがしのため町中へ。


時刻はすでにお昼前になっていました。


町中に戻って、まずお昼ごはんかな。


なにを食べようかな。



そんなことを考えながら、四つも五つも車線のある幅広い道路を走っていました。


この後起こる惨劇を思えば、ずいぶんのんきな昼下がりでした……。


帰宅して、一服。


今日はどっさりとパンフレットの山を持って帰っていました。



「どうする?」
「どうするもなにも」



迷う余地がないような。


これ以上まわっても、そんなに進展がなさそうです。


というよりは、最後に見たチャペルが私たちふたりの好みにクリーンヒット。


いままで見た式場から鑑みて、これ以上のものを探すのはかなり困難のような気がする。




「そんじゃ、最後に見たホテルで」
「よろしいんじゃないでしょうか」



たった二日の式場下見でしたが、

七つの式場を見学しました。

(神戸のレストランを含めると八つ)



たくさん見たような気がします。

へとへとだよ……。


もっとたくさん見学される方のお話も聞いたことがあります。


二人とも納得いく式場がなくて、さまよい歩いたとか。


私の姉など、バージンロードの長さでチャペルを決めたと言っていました。


いくつみても、結局気に入ったところがひとつ見つかれば、それで万々歳です。


気に入ったところが見つからない限りは、時間をかけてでも探し回った方がよいです。


数みれば、その分、勉強になって、探し方も条件も変わってきます。



せっかく高いお金を出して挙げる式なのです。


たくさんの人に祝福されるための式なのです。


あきらめず、妥協せずに探してみてください。


きっと、ぴったりの式場が、どこかにあるはず!




そんな努力をして見つけたプランも、その後の打合せでいろいろと変化してきます。


その中で、ささやかなこと、たくさんのこと、いろいろ妥協したり、不満になったりすることもでてきます。


だからこそ、最初の土台選びだけは手を抜かず、がんばらないといけない。



これから式場を捜される方、

今現在式場を捜されている方、

がんばってー!




最後に、いくつかまわってわかったこと。


それは、「同じレベルの式を挙げたいのなら、お値段もだいたい同じになる」ということでした。


もちろん、式場によっては、基本プランは他と同じお値段でも、オプションにお金がかかったり必要なものが基本プランに入ってなかったりします。


自分たちのニーズにあった式場、プランをさがさないと、後々苦労することになるやもしれません。



そして、これは後に身をもって知ることになったのですが、


最初の見積を信じてはいけない。


これは、あくまで最低金額なのです。


増えること確実。



先達の友人に、ご自身の結婚式の際の最終見積を見せていただきましたが、


やはり最初の見積とはかけ離れた金額になっていました。



あとで追加される、オプション料金。


これがなにより頭痛の種になるのです。




最初に希望ががつんとある人は、前もって、最初の段階でプラスしておきましょう。


後々、ショックを受けないために……

戻ってきた担当さんは、なにやらむずかしい顔……。



予約がいっぱいなのですね。


でも、すべていっぱいになってしまっているわけではなさそう。




「一月は、ほとんどいっぱいです。

二月も初旬はほとんど詰まっていますね。

三月なら、まだいくらか空いているのですが」



ほとんどいっぱい。ほとんど詰まっている。


ということは、全然空きがないわけじゃない。



「いつなら、空いていますか」

ねじこむように聞いてみました。



このホテルの式は、一日二回。


週末土日とすると、チャンスは四回ずつ。


すべてが埋まっているというのならあきらめもつきますが

もしかしたら、都合よく空いている時間帯があるかもしれない。



なぜ週末かというと、ふたりだけで挙げる式ではないから。


お客様にわざわざ会社を休んで来ていただくわけにはいかないのです。




担当さんは予定表を繰りながら、教えてくれました。



二月初旬は、ほぼ絶望的。


中旬からなら、ぽつぽつ空きがある。


一月は、末の土曜のみ一日空いている。




「一月末、一日空いているんですか?」

目を輝かせて聞いてみました。



一月ならオフシーズンぎりぎりで、安いプランが使えます。



「それがですね」


担当さんの渋い顔は、これが原因でした。



「仏滅なんです。この土曜日」



ああ。
なるほど……。



「でも最近は、仏滅も気になさらない方も増えてきました。

中には、一番悪い日から出発しているのだから、


これから悪いことは起こらない、とおっしゃられる方もあります」



なるほど……。

ものは考えよう、ということですね。




私は宗教をもたない生き方を選んでいます。


クリスマスやお盆の墓参りなどは参加しますが

特定の神様をあがめることはない。


なんというか、日本人の無宗教にすっぽり染まっている感じです。


実家がそういうことに無頓着だったので、その影響が大きいところなのですが。



だから、仏滅、といわれても、ぴんとこない。


でも、世間一般的に、あまりよろしくないことはわかる。


センセイの方を見ていると、なんだか、同じようなことを考えているような顔つきでした。



(両親や親戚が、なんていうかな)



私たちは特に気にしないけれども、誰か気にする人がいるかもしれない。


こういうことはふたりだけで決めてはいけないと思う。



ので、一旦保留にして、仮予約だけして帰ることにしました。


仮予約ならば、一ヶ月以内ならキャンセル料などがかかってこないから。


旅行なんかのキャンセルと同じで、

何日前のキャンセルなら何割キャンセル料発生。

一月前のキャンセル料は、ほぼ全額です。


あなおそろしや。



キャンセル料のかからない間に、どうするのかとっくり話し合わなくては……。

ちょっと、ここは、いいんじゃない!?


そんな式場を発見したものの、

一抹の不安が。




これだけの施設となると、お値段もそれなりに高いんじゃないかな……?




実は、私たちは軍資金の乏しい状態なのでした。


親が貯めていてくれた、自分名義の貯金で結婚式を挙げようとしていたのです。


私にいたっては、貯金がほぼ0に近い。


しかも、新婚旅行はお祝い金で行ってしまおうという……

おんぶに抱っこなプラン。



なけなしの貯金は引越で飛んでしまうでしょう。


それ以外はママローンでもパパローンでも使うしかない。


そんな二人でしたが、それでも「結婚したいというならさせてやろう」という親のありがたい気持ちがあり。


だからこそ、自分たちの希望を優先して、高い結婚式を挙げるわけにはいかない。



目安は、100万以内。
そう決めていました。


そのためにも、お客様は厳選して身内だけ、という式にするつもりでした

センセイのおうちが、両親と、姉夫婦(子供ふたり)。

私のおうちが、両親と、姉夫婦、祖母と付き添いに叔父。


これだけの少人数なら、きっと、貧相でない、それなりの式が目標金額内でいけるはず。


そう思っていたのですが……




どこの式場でも、少人数というと30名が基本。


稀に20名、とかもありますが、少人数なのに結構高い!


人数が少ない分、さびしくないように、いろいろとオプションがついてきてしまうのです。


式場側としては、それぐらいしないと立派な式としての形にならない、ということなのですね。



それは実は、とても正しいことだと思います。


もしそうじゃない、少人数で身内だけで気兼ねない結婚式をというのであれば

レストランなどを借りる形で進める方がよい、ということなのです。




さて、このホテルの場合、料金設定はどんなもんでしょうか。


倍率、ドン。
はらたいらに三千点。(古っ。わからない方はお母さんに聞いてみてください)



担当さんは私たちの希望を聞いた上で、いくつかのパンフレットを出してくれました。




あるじゃん。


あるじゃないですが、少人数プランで、お値段手ごろなのが!



定員10名。
それを上回る場合、お一人ずつの追加料金となります。


これですよこれ!
これなら、人数が多少増減しても、大丈夫。


このプランは、時期に限りがあり、いつでも使えるというものではないようです。


確認すると、1月2月には使えるとのこと。


ぴったりのプランです!
いやっほう。




念のため、定員30名や50名のプランも見せていただきました。


思っていたより、高くない。
というか、他の式場とあまり変わらないお値段です。



これならいいんじゃなかろうか?


私たちが乗り気になったのがわかったのでしょう、担当さんが切り出しました。



「ただ、このお値段には条件があります」


条件?


「これは、一月末までのお値段なのです。
二月からはオンシーズンに入りますので、いくらかアップになってきます」



電卓を叩いてもらいました。


実に、基本プランからして20万違ってくる!


あわてて聞いてみました。



「あの、オンシーズンて、三月からじゃないんですか?
二月ってまだ寒いですよ!?」



「三月から、というところもありますが、二月もオンシーズンになります」


うちだけじゃないですよ、というお話の流れでした。



びっくりした。

二月なんて、極寒だから、まだオフシーズンだと思ってた。

というか、雑誌にそう書いてあったのに……。


式場や地域によって、かなり差があるのですね……。




「予約の空きは、ありますか?」


「ありますよ。ちょっとお待ちください」


担当さんは席をたって、しばらく帰ってきませんでした。



その間に、センセイとざくっとした打合せ。


できれば一月で挙げたい。

予定がいっぱいなら、二月かな。


お願い、一月空いてますように……!

豪奢なチャペル。


荘厳、という言葉が良く似合います。


空気が静謐。

とても静か。

どこからか賛美歌が聞こえてきそう……




祭壇の横に、なにやら台に額が備え付けられています。


額の中には、たくさんの金に光るプレートが並んでいて。


それぞれに英語でお名前が刻まれていました。


ここで結婚式を挙げた記念に、みな、ひとつずつプレートを用意してもらえるのです。



「結婚式のさなか、ふたりでするはじめての共同作業になります」

プレートを見ていると、担当さんがにこりと笑って言いました。



なるほど~。


なんとなく、結婚式というイベントそのものが、ふたりの共同作業だと思っていたのです。


具体的な形になるものを、こうやって刻んでもらうのも、よいかも。



この額は、プレートがいっぱいになると、ホテルの廊下にかけてもらえます。


数年分は飾られて、その後は保管してくださるそう。


結婚記念日に、思い出のホテルで一泊。

ふたりでプレートを確かめ合う。


そういうロマンが込められているわけです。




そうだよね、こういうロマン、ロマンチックって、結婚式の醍醐味だよね。

なるほど~。



チャペルに大満足はしたものの、その他の施設はどんなものかな?


ゆっくりチャペルを見学した後、披露宴会場をみせてもらいました。


披露宴会場の手前に、小部屋があって、受付になっている。

ソファや灰皿があって、ゆったりくつろげるスペースになっていて、ちょっといい感じ。


お部屋の雰囲気はしっとりした感じで、レストランの個室みたいでした。



しかし。

狭い……


いや、確かに一番少人数用のお部屋を所望しましたが。

これは十人座ったらいっぱいなんじゃないかな?



定員30名、となっていますが
30名ギリギリまで入室したら、料理の並ぶスペースがないかも。


うーん、披露宴会場はいくつかあるようなので、ちょっと保留。


他のところは使用中・改装中で、見学できませんでした。

残念。



次は、控え室などの施設を見学。


着付け室、親族の控え室、衣装室……

廊下にずらりと並んだ扉。

入る部屋を間違えそうです。



廊下も広く、全体的にゆったりしたスペースが設けられていました。


前回見学した狭い施設とつい比べてしまいます。


全体的に静謐で、質素で、清潔感がある。


これならお客様にも、安心して待機していてもらえそう。



リハーサル控え室、写真室などを見せてもらった後、打合せ室に戻りました。



全体的に、落ち着いた感じ。


すべて同じホテル内にあるので、結婚式当日ばたばたしなくてよさそうです。


どうせ当日は混乱の嵐なのだろうから、最初からわかる不安の種はできるだけつぶしておくのがセオリー。



チャペルは大満足。

バージンロードの長さも、ほどほど。


施設そのものがキレイ。

全体的に、落ち着いたイメージで、安心。




いくつか気になる点はあるけれど、

他の式場に比べるとかなりの満足感がありました。


満足というか、充実というか。



センセイもけっこう……いや、かなり気にいったご様子。


チャペルがかなりの高得点だったようです。


そういやこの人、ベルギーに旅行したことがあるんだっけ。


ベルギーからきたステンドグラスに、不思議な縁でも感じているに違いありません。


だってセンセイ、ロマンチストだもの……

なごりおしい異人館を後にして
またしても食傷気味な帰り道。



「どうする、あと一軒あるけど。来週にする?」


夕暮れも近くなり、私はたずねました。


センセイもかなりお疲れのご様子。


そりゃそうです、ずっと運転してるんだから。



「いや、今日行ってしまおう。
この先、休日は貴重なはずだから」


そうしてたどり着いたのが、ホテルM大阪でした。



大阪駅から、徒歩五分。

最初に見たチャペルより近い。

便利です。



ここを知っていたのは、単に電車からチャペルが見えていたから。


毎日、それを見て学校に、会社に通っていたから。


そんななにげない情報だったのでした。



なんだか黄色いホテルの中階に、チャペルがくっついてる。


きっと、結婚式ここで挙げられるようになってるんだなー。



それぐらいいい加減な気持ちで、ホテルに足を踏み入れたのでした。




ホテルはヨーロッパ風にしつらえられています。


入り口からすぐに結婚式の相談所みたいな受付がある。


最近は宿泊客よりも、結婚式がメインの収入となるホテルがたくさんあり、
M大阪もそんなひとつなのでした。


結婚式がメインなのだから、当然のように、打合せ室がしつらえられてあります。


ここに入ってびっくりしたのは、とてもたくさんの人が打合せをされている! ということ。


他の式場では、みかけても二、三組。


でもここだけは、五組以上もいるのです。


(結婚しようとしてる人って、たくさんいるんだ)と妙に感心。



「流行ってるんだ~」

流行っているところは、いいところだろう。


なんだか簡単にそんな思い込みが始まりました。



しかしながら、流行っているからこそ、お値段も高いのでは。


そして予約がとれないのでは。


そんな不安もよぎります。



なんにせよ、いろいろとみせていただかないと、検討のしようもない。


担当さんに案内してもらい、ふかふかのじゅうたんに足を踏み入れました。




担当してくださった方は、お若い男性の方でした。


青年と呼ぶには、少し落ち着いた頃合。

既婚者のようで、結婚指輪をはめていらっしゃいました。


お名刺をいただいて、まずは、チャペルをみせてもらうことに。



電車から見ていたチャペルは、どうやら裏側でした。


アタリマエです。電車から見える方向にチャペルしつらえて、どうすんですか。


小さな教会として建てられたチャペルには、
実に見事な、ステンドグラスが。


ベルギーから取寄せた年代ものなのです。


そして、その年代そのまま、ベルギーから教会の内装までもを取寄せられていたのでした。


小さなチャペルなのに、壮厳で、ひっそりして、どこかはりつめた空気が流れている。

高い天井が、そう思わせたのかもしれません。


古い木造独特の、黒ともみまごう深い茶色の床。そして、椅子。


別の方が式を挙げられた後だったので、教会の外には花びらが舞っていました。




ええーっと!

これは、これは、かなり私の理想に近いんですけど!?


ちょっと興奮した私。



ところが大変なことに、センセイがもっと興奮しておりました。



いそいそとチャペル内を歩き回り

「これはどうなってるんだ」
「あれはなんだ」
とせわしいこと。


チャペルの中を走り回ってました。



目が、違う。

輝いている、と言ってもいい。


人が本気になるときには表情が違う、ということを実感させられました……。

猫挙式……
想像するだに、笑ってしまいます。



でもセンセイの希望もかっとんでました。


「披露宴はせずに、ささやかな親族だけの食事会をしたい。


二次会は友人主催で、たくさんの友人を集めてやりたいから」



そんなセンセイの言葉に、彼女はこんな提案をしてくれました。



「二次会も、うちでされてはいかが?

 たくさんのご友人を招待されるなら、立食パーティーにすればいいわ。


みなさんそれぞれで楽しんでくださると思いますよ。


何人くらい、お呼びになる予定?」


この異人館、建物と庭を見渡して、室内に30人、庭に20人でいっぱい、というところです。


あはははは。
たくさんの規模が、違う。




「150人くらい」



さすがの彼女も考えこんでいました。



だいじょうぶです。


実際はそんなに集まるはずはないのです。


友人、知人にかたっぱしから声をかけていこう、というプラン。


なので、およそ半数は参加できないだろうという予想が立てられていました。



半数。
それでも、75人。


そして、150人とはいかずとも、100人くる可能性だってないわけではない。



彼女は、しばらくいろいろ検討して、こう切り出しました。


「わかった。時間制にしましょう。

お部屋に入っていただく方たちと、庭で立食される方たちを入れ替えれば、100人くらいは大丈夫」



ええと……そうすると、かなり一人当たりのスペースが狭い感じです。

混んでるクラブみたいなイメージが……



でも、一生懸命検討してくださったにはわけがあって。



「二次会を式の当日にされたいのであれば、式場と二次会会場は離れていな
い方がいい。


お嫁様が疲れないし、来ていただくお客様の負担も少ないから」



そうなのです。


二次会を式当日に、というプランは、けっこうな時間勝負体力勝負なのです。


二次会を翌日にまわしたところで、たいへんなのは一緒なのですがね(^_^;;)



(夜に一旦眠れる分楽なんですが
お嫁様はまた一から支度しないといけないのですよ~)



神戸方面で式を挙げるのに、もっとも大事な懸念材料は二次会のことでした。



もともと大阪の友人がほとんどなのだから、神戸まで出てきていただくのは大変なご足労なのです。


しかも、二次会の後よっぴいて騒ぐ可能性があるのに、宿の心配も足の心配もしなくちゃいけない。



その上、異人館で式、二次会は便利な神戸街中で、となると、お嫁様&親族の移動もけっこう大変になる……



彼女が、

「どうせなら二次会もうちでやったほうがいい」

とおっしゃってくれるのは、本当に大助かりのことなのです。



しかし、センセには、もうひとつ重大なプランがありました。


彼はこの希望をかなえるために、かなりの努力も労力も人材も時間も、惜し
みなく費やすことになりました。



ええ、すばらしい希望でしたとも。


参加された方には語り草となるイベントだったでしょうとも。



「実は、二次会でショウをしたいんですよ。


だからステージのスペースが必要なんです。


それに、照明やスピーカーなんかも設置したいんです」



センセイの言葉に、確かに、彼女は笑いました。

特別なことじゃない、と。



「ライブでもされるんですか?」



いえいえいえいえ。
そんなもんじゃありません。




「ヒーローショウを」


わずかに時が止まりました。


「ヒーローショウ」という言葉を、彼女が頭の辞書で探している間分くらい。



そうです。


遊園地や百貨店の屋上で、見たことあるかと思います。


仮面ライダーやウルトラマン、なつかしの宇宙刑事。


そういった特撮ヒーローのショウなのです。



センセイはけっしてプロではありません。


しかし、若かりしころはいろいろなステージで着ぐるみをまとい、
たくさんの子供たちを魅了してきた過去があるのです。


大学時代にいろいろ(ホントにいろいろorz)活動してきた中の一環なのです。


家にはちゃっかり、自作のオリジナルヒーローの着ぐるみ一式がたんすのこやしになっている。



晴れ舞台。

この日に着なくてどうするか。



彼女はなにかをふり切ったようです。


「じゃあ、二階も開放しましょう!

花嫁さんの控え室なんだけど、そこも使えるようにしてみます。


階段も使ってもらって、舞台そでを作って……」


いろいろ、がんばって考えてくれました。


ちょっとムリっぽいけど、

「できない」と言わずに、できるだけ希望に答えようとしてくれる。


かなり、嬉しいかも。




そしてもうひとつ。


問題になったのが、婚前式のことでした。


これは私の漠然とした希望によるものだったのですが、

できれば、チャペルでの式を希望。



牧師様に来ていただいて


きれいに飾られたお庭で


みんなに祝福されながら


お客様にふたりの未来を誓い合う。



そんな婚前式も悪くはないのですが、


なんとはなしに、ウェディングドレスを着るのであれば、せっかくならばチャペル式、と思い込んでいました。


バージンロード、歩きたいじゃん。

ろうそくとか、灯したいじゃん。


「病めるときも、健やかなるときに……」

という神の言葉を受けて

「アイ、ドゥ」

とかいいたいじゃん。

(日本では「はい、誓います」になるようですが^^;)



もうこれは、今まで私が見てきた式のイメージにとらわれていたのだとしか思えません。

今にして思えば、婚前式でもなんら問題なかったと思われます。



でもこのときは、うーん、どないしたもんか……と考えこんでしまったのでした。



真冬に、ドレス姿で、庭での婚前式か……寒かろうなぁ。


いや、それはオフシーズン、しかも冬を選んでいる私たちが悪いわけです。


二次会のヒーローショウはここでやるのは無理として、別の街中で会場を探
して、支度するのってかなり大変なんじゃないかなぁ。



最寄り駅からけっこう遠いから、お客様が大変なんじゃないかなぁ。


そして、結婚式までに何度かせねばならない打合せに

週末ここまで通うのって、大変なんじゃないかなぁ。



結婚式場として、申し分ないプランだったにもかかわらず、
私たちはここを選べませんでした。


もし、もう一度どこかで式を挙げるとするなら、ここを選ぶと思います。


身内だけの、ささやかだけどあったかいお式を挙げたいから。


もちろん相手は同じで、ね。

もしここで式を挙げたら、確かにお嫁様大満足の式になりそう。



なぜならば。


「お嫁様の希望はできる限りかなえて
もらえるとのことですが……

猫も一緒、というのはアリでしょうか」



猫。


先ほどから、おいしいお茶をいただいてお話していました。



足元をすりぬけていく猫。


どうみても、喫茶店で飼われている猫です。


彼女は猫好きに違いない。


そう思った私は、ダメ元で聞いてみたのです。



なぜ猫と一緒!?




猫は元来、お出かけが嫌いな動物です。


自分で散歩するのは大好きですが、強制的に場所移動させられるのは大の苦手。


猫は家につく、と言われるとおり、いつもの場所を好むのが猫というもの。



ムリやり結婚式なんていうイベントで、猫にとってまわりが異常事態になってしまえば、猫パニック。


逃げ出せばもう戻ってこないかもしれません。

いえ、戻ってこないでしょう。


神戸異人館と家とはかなり離れており、うちの猫には土地勘皆無。


つーか、家の近くでも迷って帰ってこれなくなる始末……orz


迷えば戻れなくなるはず。




そんな危険をはらみながらも聞いてみたのは、


結婚式の後の新婚旅行のため。


一週間くらいの予定です。



猫ごはんの手配は友達に頼むつもり満々。


心配なのは、猫の体調です。


私がいないと、すねる、ぐれる、ハゲる、毛づやがなくなって貧相な有様に……


できるだけ、旅行前ギリギリまで一緒にいたいなぁ、と思っていたのでした。




ちなみに、本気ではありません。


本気でやるなら、もっと徹底して念入りに、緻密に確実を帰す計画を立てていたと思われます。



だから漠然と、ただ、言ってみただけの希望だったのです。



なんというか、端迷惑な(^_^;)。




センセイはアタリマエに無理無理無理無理、と首をふってました。



ですが。

彼女は一味ちがった。



「じゃあ、大きなケージを用意しましょう!」



はい?


「どうせうちのにゃんこたちのために、ケージを買わないといけなかったの


お式の後、うちで使わせていただければ、経費で落としますよ~」



うわお。
なんて太っ腹な!


「お式の間はやっぱり落ち着いていた方がいいから、二階の控え室で猫ちゃんたちには待っていてもらって……

披露宴とかは一緒にいられるようにしましょうね」



わぁ。
すごいや。


この調子で、いろんなお嫁様の、それこそいろいろな要望に応えてきてくれ
たのでしょう。


すごく頼もしい引き受けっぷりでした。




これは、本当に猫のいる挙式が可能かもしれない……?