私が嫁ぎ先の店の手伝いを始めたころ、
あるお客様が、ひどくしみだらけの訪問着を持ってご来店されました。
何とか着られるようにしてほしい、というご希望でした。
そのころ健在であった母は「これはあきらめたほうが良い」と申し上げたのですが、
「どうしてもあきらめられない」と、お客様はおっしゃいます。
そこで、とりあえず、「京都の職人と相談します」
ということで、お預かりいたしました。
まだ駆け出しの私は「何とかしてあげたい」と思い、
職人さんと話し合いました。
「しみに近い色に染めることで目をごまかす」
という方法は、柄をよけたりよけなかったりで、
しみのあるお着物を生まれ変わらせるには、よく使った方法でした。
でも、そのお着物は、染めた後もしみが目立ってしまい、
とてもお召しになれるものではありませんでした。
そこで、職人からの提案は、ふぶきを散らすというものでした。
ふぶきとは、人間国宝・森口華弘氏の蒔き糊と同じもので、
色のついているものとついていないものがあります。
この場合は、既に地色を染めておりましたので、
色のついたふぶきをかけることにしました。
なおかつ、その中で沈んでしまった柄を若干起こしましたので、
染め代が、確か七~八万円ほどかかってしまった気がします。
「出来上がりました。」とお知らせのお電話をすると、
そのお客様はすぐご来店になりました。
そして、その着物をご覧になったとき、ぽろぽろと涙を流されました。
「母の思い出の着物だったんです。」と。
それからです。私が、着物のリメイクに燃え出したのは。
お使いになれるものは、お手持ちをお直しさせていただこう。
そして、足りないものがあったときに買い足していただこう。
ただ、二十数年、お着物のリメイクに携わってきて思うことは、
何でもお直しすればよいというものではないということです。
お直しするに値するものをお直しすることが、大切です。
それは、生地であり、汚れ具合であり、
もともとのお着物の価値であると思います。
でも、このお客様のお着物を直させていただかなかったら、
今の私はない
と思います。
本当に大きな感動をいただきました。
次は、何を作り直しましょうか?
お着物のご相談は、きもの蔵人みやもとまで。