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 ロンドンオリンピック(以下、ロンドン五輪)まで、あと30日を切り、聖火リレーも行程の半分を超えた。



 イギリスは「UEFA ユーロ2012(サッカー欧州選手権)」でひとしきり盛り上がり(残念ながらベスト8敗退となったが……)、6月25日からは毎年恒例のウィンブルドン選手権も始まった。そして、ウィンブルドンが終われば、いよいよロンドン五輪本番だ。そう、今年のイギリスは、つくづくイベント続き。落ち着いているヒマなどない。

 そんな喧騒の中、ようやく競技場も完成しつつある……はず。今回は前々回のオリンピックパーク編、前回のロンドン東部編に続き、「ロンドン中心部の競技場」を紹介する。

 すでに何度が説明してきたが、ロンドン五輪では、競技場として新たに建設されたのは、オリンピックパークにある競技場や、ロンドン郊外にあるリー・バレー・ホワイト・ウォーター・センターとハドレー・ファームなど一部のみだ。残りの会場は、既存のスポーツ施設や公園、イベント会場などを使いまわし、資源の節約、エネルギーの削減などを徹底して行っていることが特徴になっている。

 その会場について、今回もロンドンの地図(参照:英国政府観光庁ホームページ)か地下鉄路線図(参照:Transport for London)を見ながら、読み進めていただきたい。

近衛騎兵隊の本部の中にある「ホース・ガーズ・パレード」

実施競技:ビーチバレー

 セント・ジェームズ・パークの隣にあるのが、近衛騎兵隊の本部「ホース・ガーズ」。「ホース・ガーズ・パレード(Horse Guards Parade)」はそのなかにある広場で、その歴史は1745年にさかのぼる。ここでは毎日近衛騎兵の交替式が行われ、観光スポットとしても人気が高い。なお毎年6月には、女王の公式誕生日の記念式典「トゥルーピング・ザ・カラー」も行われる。

 この広場に、ロンドン五輪のため収容人員1万5000人のビーチバレー用の競技場を用意した。

 5000トンにもおよぶ砂は、英南東部サリーのゴッドストーン採石場から運ばれてきたという。

 アリーナと観覧席は、6月16日の「トゥルーピング・ザ・カラー」の式典後に建設開始。五輪開催後、仮設アリーナは撤去される。

 最寄り駅はチャリングクロス(地下鉄ベイカールーライン、ノーザンライン)、ウェストミンスター(地下鉄ディストリクトライン、サークルライン、ジュビリーライン)、セント・ジェームズ・パーク(地下鉄ディストリクトライン、サークルライン)、ピカデリー・サーカス(地下鉄ピカデリーライン、ベイカールーライン)。

バッキンガム宮殿の正面から伸びる儀式用の道「ザ・マル」

実施競技:陸上競技(マラソン、競歩)、自転車(ロードレース)

 バッキンガム宮殿の正面からトラファルガースクエアを結ぶ儀式用の道が「ザ・マル(The Mall)」。英王室の公式行事やロンドン・マラソンなどのスポーツイベントに使用されている。

 2012年6月5日に行われたダイヤモンド・ジュビリーの馬車パレードでも、エリザベス女王ら英王室メンバーを乗せた馬車がザ・マルを通ってバッキンガム宮殿入りしたので記憶に新しいだろう。

 ザ・マルは20世紀初頭にバッキンガム宮殿に入る王室メンバーや国賓を歓迎するための儀式ルートとして作られた。

 ロンドン五輪では、マラソン、競歩、ロードレースのスタート・ゴール地点になる。観覧席、スコアボード、テントなどの仮設施設が新たに設置されるが、大会開催後は撤去される。

 最寄り駅はグリーン・パーク(地下鉄ジュビリーライン、ピカデリーライン、ビクトリアライン)、ビクトリア(ビクトリアライン、ディストリクトライン、サークルライン)、セント・ジェームスズ・パーク(地下鉄ディストリクトライン、サークルライン)。

1948年のロンドン五輪でも使用!「アールズ・コート」

実施競技:バレーボール

 ロンドン西部にある 「アールズ・コート(Earls Court)」は、英国内でも最大規模のエキシビジョンセンターだ。その規模は4万? で、見本市や国際会議、音楽コンサートなどに使用されている。近くには、ビクトリア&アルバート博物館、自然史博物館などもある。

 1937年に竣工。1948年開催のロンドン五輪では、ボクシング、体操、重量挙げ、レスリングが行われるなど、五輪大会との関係も深い。なお今回の大会では、バレーボールの競技場となり、会場内にバレーボールコートと観覧席が設けられる。

 大会後は元通りにエキシビションセンターとして利用される。

 最寄り駅はアールズ・コート(地下鉄ピカデリーライン、ディストリクトライン)。

クリケット競技場がアーチェリー会場へ!「ローズ・クリケット・グラウンド」

実施競技:アーチェリー

 ロンドン北西部にあるクリケット競技場「ローズ・クリケット・グラウンド(Lord's Cricket Ground)」。

 1814年に創設され、200年にもおよぼうかという歴史を誇る。創設当初から、クリケットのルールを確立した名門マリルボーン・クリケット・クラブが本拠地にしていることでも知られている。クリケットの代表的な国際試合をはじめ、大学や地元チームの試合が行われている。

 会場内にある建物、パビリオンは19世紀の建築で、グレードII(歴史的価値があると認められた建造物)に指定されている。また、1999年のクリケットの世界選手権のために建設されたメディア・センターは、近未来的なデザインで数々の建築賞を受賞した。

 五輪大会ではメイングラウンドの外野部分にアーチェリー用の施設を増設し、アーチェリー会場として使用。観覧席など仮設の施設も作られるが、ほとんどは既存の施設が利用される。大会後は、引き続きクリケットのグラウンドとして使われるが、練習や試合で使用されたアーチェリー器具は、英国各地の学校やアーチェリー・クラブに寄付されることになっている。

 最寄り駅はセント・ジョンズ・ウッド(地下鉄ジュビリーライン)。

あの王立公園の湖が舞台に!?  「ハイド・パーク」

実施競技::トライアスロン、水泳(10kmマラソン)

 「ハイド・パーク(Hyde Park)」はロンドン市内にあるロイヤルパーク(王立公園)の中で最も大きく142ヘクタール。ウェストミンスター地区からケンジントン地区にかけて広がっている。開園は1637年と歴史がある。

 園内の中央にあるサーペンタイン湖が、10kmのマラソン水泳(遠泳)とトライアスロンの水泳の舞台になる。

 大会中は仮設の観覧席が設置されるが、大会後は撤去され、もと通りの公園になる。

 最寄駅はハイドパーク・コーナー(地下鉄ピカデリーライン)、マーブルアーチ(地下鉄サークルライン)。

ロンドン中心部の競技場にでかける

  今回も、この5つの会場周辺の下見に出かけてきたので、その様子を伝えよう。ロンドン交通路線図を開いて、位置関係を確認しながら読み進めていただきたい。

 まず、ロンドン北西部にあるローズ・クリケット・グランドを目指した。ここはクリケットの発祥の地といってもよい、クリケット・ファンの聖地だ。

 ローズ・クリケット・グランドは、駅から歩いて7分ほどの場所にある。セント・ジョンズ・ウッドは、ロンドン市内でも有数の高級住宅街。街中のカフェやレストランもおしゃれな印象で、行き交う車も高級車が多い。

 貧しい層は公営住宅や移民が多いエリア、富裕層は高級住宅街と、エリアによって住む人の層が異なり、町の様子もがらりと変わるのがロンドンだ。これは、イギリス階級社会の影響だろう。

 訪れた当日は試合が開催されているので中には入れなかったが、試合のない日には、ガイドが競技場内を案内してくれるツアー(入場料大人15ポンド、シニア・学生・子供9ポンド・所要時間約100分)も行われている。また、クリケットに関する展示物がある博物館(公式ホームページ参照)もある。

ここまできたら、ビートルズゆかりの地「アビー・ロード・スタジオ」へ!

 セント・ジョンズ・ウッドまで来たら、ぜひ立ち寄りたいのが、イギリスが生んだ最も偉大なバンド、ビートルズゆかりの場所。

 セント・ジョンズ・ウッド駅から徒歩5分ほどの場所にあるアビー・ロード・スタジオは、ビートルズがほとんどのアルバムのレコーディングを行ったスタジオとして有名。スタジオの前には、アルバム『アビー・ロード』のジャケット写真を撮影した横断歩道があり、ビートルズ・ファンの巡礼の地になっている。

エキシビション・センターに向かうなら、ウォリック・ロード側の出口から出る

 次は、地下鉄ピカデリーラインでロンドン西部のアールズ・コートへ。

 アールズ・コートは、ヒースロー空港に比較的近く、交通の便も良いこともあって、旅行者用のホテルがたくさんある場所。ロンドン東部にあるエクセル同様、イベント会場として普段はエキシビションや国際会議、音楽コンサートなどが行われる。

 アールズ・コート駅の出口は2つあって、エキシビション・センターには向かうときは、ウォリック・ロード側の出口から出ること。

 反対側のアールズ・コート・ロード側の出口に出てしまうと、ぐるりと1周するはめになる(遠い!)のでご注意を。

ハイド・パークのサーペンタイン湖での水泳は、上野の不忍池で水泳をする感じ?

 再び、地下鉄ピカデリーラインに乗り、ハイド・パーク・コーナーで下車、ハイド・パークに向かう。

 都会の真ん中にあるのにもかかわらず、広大な敷地を誇るハイド・パークは、ロンドン市民の憩いの場所だ。ロンドンっ子は公園が大好きだ。サイクリングやローラースケート、ボール遊びをしたり、ピクニックをしたり、読書をしたり、それぞれ思い思いに公園での時間を楽しむ。

 この日は特に天気がよかったので、日向ぼっこをしたり、ランチを食べたりする人で賑わっていた。

 スイミングプールでもない普通の池なので水は濁っているが、池の一角は一般人にも開放され水泳ができるようになっている。

 1730年創設のサーペンタイン・スイミング・クラブは、この池で水泳を行っており、毎年クリスマスの日には、寒中水泳を行うのが行事になっている。例えていうなら、上野の不忍池で水泳をする感じ、だろうか。考えてみると、すごい話である。

ロンドン北部のハムステッド・ヒースなど、公園の池で水泳ができる場所はロンドン市内に複数ある。

ロイヤル・ウェディングやダイヤモンド・ジュビリーのパレードでも有名なザ・マル

 ハイド・パークから、そのまま徒歩でグリーン・パークへ。

 ハイド・パークほどの大きさはないが、こちらもロンドン市民に愛されている公園。グリーン・パークを突っ切って、そのままバッキンガム宮殿方面へ向かう。

 昨年のロイヤル・ウェディングに続き、今年6月のダイヤモンド・ジュビリーでは馬車パレードが通ったり、ジュビリー・コンサートの会場になったりと、ここのところ大活躍のザ・マル。ロンドン五輪用の施設を設置するための工事中ということで、残念ながらグリーン・パークからトラファルガー・スクエアに抜ける部分は通行禁止になっていた。

 やむなく、いったんグリーン・パーク駅に戻り、そこからピカデリー・サーカス駅に移動。

首相官邸や国会議事堂がある“ロンドン版霞か関”でビーチ・バレー?

 ここまで来たら、もう少し足を伸ばして、ホワイトホールをさらに歩いてみよう。ホース・ガーズから少し行ったところには、ロンドンで最も有名な住所、ダウニング・ストリート10番地、つまり首相官邸がある。

 リージェンツ・ストリートを南下して、再びザ・マルへ。

 ここでも工事中だったが、歩行者用通路は通れたので、そこからアドミラルティ・アーチをくぐり、トラファルガー・スクエアに出る。

 そして、トラファルガー・スクエアから南にくだり、ホワイトホールに行く。この辺りは、首相官邸や政府官公庁施設、国会議事堂がある、ロンドン版霞か関。

 ホース・ガーズ・パレードで行われる近衛騎兵の交代は毎日午前11時。現在はロンドン五輪準備のため、ホース・ガーズ・パレードには入れなくなっているので、残念ながら交代儀式は見られず。バッキンガム宮殿の衛兵交代が有名だが、こちらもなかなかのもの。

 首相官邸が近いホワイトホール側の入り口には、馬に乗った騎兵が警護しているので、人気の観光名所になっている。

 しかしながら、このホース・ガーズ・パレードにビーチを再現して、ビーチバレーをやってしまうという発想はすごい。いつもながら、イギリス人の創造力には脱帽。

国会議事堂とテムズ川の辺りは、最もロンドンらしい風景が眺められる場所

 ここまで来たら、もう少し足を伸ばして、ホワイトホールをさらに歩いてみよう。ホース・ガーズから少し行ったところには、ロンドンで最も有名な住所、ダウニング・ストリート10番地、つまり首相官邸がある。

 首相官邸の近くには、セノタフ(戦没者記念碑)が建つ。毎年11月11日のリメンバランス・デー(戦没者追号記念日)には、エリザベス女王や英首相が参列しての追悼式典がここで行われる。

 さらに進み、やがて目の前に登場するのは、ロンドンで最も有名なランドマークのひとつ、国会議事堂のビッグベン。そして向こうに大観覧車のロンドンアイとカウンティ・ホール(旧ロンドン市庁舎)が見える。

 国会議事堂とテムズ川の辺りは、最もロンドンらしい風景が眺められる場所だろう。ロンドンに来て良かった、と実感すること請け合いだ。

 ロンドン中心部の競技場は、既存の施設を使うところが多いので、「工事は間に合うのか?」といった心配はあまりなかった。また、会場周辺も見どころがたっぷりあるので、時間がいくらあっても足りないほど。まるで街全体が観光名所。たっぷり時間を取って、いろいろなロンドンの景色を楽しむのもいいだろう。

 次回は、ロンドン郊外とその他の場所にある会場を紹介する。

(文/名取 由恵=ロンドン在住ライター)
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 【ニューヨーク時事】トヨタ自動車は29日、米国で販売した高級車ブランド「レクサス」のスポーツ用多目的車(SUV)「RX」について、計15万4000台をリコール(回収・無償修理)すると発表した。2010年モデルが対象。アクセルペダルがフロアマットに引っ掛かって戻りにくいとして09年に実施したリコールの追加分で、米国でのフロアマット関連のリコール台数は合計約709万台となる。 
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 「麻薬戦争」が激化するメキシコ。7月1日に投開票される大統領選の最大争点は治安回復だ。カルデロン大統領がカルテルと呼ばれる麻薬犯罪組織の掃討作戦に着手して5年半。死者は約5万人に達したが、出口は見えない。世界最大の麻薬犯罪組織シナロア・カルテルの本拠地に飛んだ。【シナロア州クリアカン(メキシコ北西部)國枝すみれ】

 12日午前7時半。迷彩服に防弾服、30口径のライフルと拳銃を装備した特殊警察隊110人が20台の車両に分乗し、シナロア州都クリアカンの本部から近郊のナボラト市に向けて出撃した。シナロア・カルテルと敵対する組織の掃討が目的。身元が割れて標的にならないよう全員が目だし帽で顔を隠す。生死をかけた戦いだ。

 麻薬組織を排除したという同市の漁村アルタタに向かうフランシスコ・コルドバ州検察長官に同行した。4台の車列に分乗した18人に警護されて移動する長官は車中で「1年前まで麻薬組織が通行車両を止めて車を奪っていたが、96人を逮捕して安全になった」と成果を強調した。特殊警察隊は600人。州警察、海軍、陸軍からリクルートされた精鋭で、「エリート警察隊」と呼ばれる。州全体の殺人はこの1年で2割近く減ったという。

 カルデロン大統領が06年12月に着手した「麻薬との戦い」。米国と連携し麻薬組織を武力で壊滅させる計画だったが、これを機に密売ルートを奪い合う組織同士の抗争に発展。掃討に従事する警官や軍人、買収に応じない政治家も標的となった。シナロア州では07年に747人だった死者が10年には2238人に急増。11年も1905人に上った。

 「安全になったというのは幻想だ」。クリアカンの地元紙リオドセ編集者のハビエル・バルデス氏(45)は言う。5日にはクリアカン近郊で7人の切断遺体が見つかった。殺人請負料は1人当たり3000~5000ペソ(約2万~3万4000円)。9割超の犯罪が検挙されない「無法地帯」。就任からこれまでの1年半で長官の警護官は11人が殺害された。

 アルタタで雑貨屋を営む女店主は「15日前にも強盗に冷蔵庫を奪われた。あなたと話していることでまた襲われるかもしれない」とおびえる。シナロア自治大学のアルトロ・サンタマリア教授(58)は冷めた口調で指摘する。「祖父も父もケシや大麻を育てた。麻薬組織は若者や女性にも根を張る。(掃討作戦は)家族や社会全体を相手に戦うようなものだ」

 ◇貧困が結ぶ組織と住民

 「我々は(国際テロ組織アルカイダの元最高指導者)ウサマ・ビンラディンを捕まえた。ホアキン・グスマンも同じ運命をたどる。捕まえるまで絶対あきらめない」

 2月、メキシコ市を訪れたナポリターノ米国土安全保障長官は記者会見で強調した。メキシコから大量の麻薬が流入する米国が、昨年殺害した同時多発テロの主導者ビンラディン容疑者に続く最大の「標的」としているのが世界最大の麻薬犯罪組織シナロア・カルテルのドンで、「エルチャポ」(チビ)と呼ばれるグスマン容疑者(55)だ。

 メキシコ海軍は21日、エルチャポの息子を逮捕したと発表。麻薬戦争での「大勝利」としていたが、翌日に誤認逮捕と判明。米メキシコ両政府の大失態につながった。ナポリターノ長官は「なぜ捕まらない」といら立ちを隠さない。

 麻薬戦争が泥沼化する背景には、麻薬組織が政官界や市民社会に浸透している実態がある。メキシコ当局はカルテル側から流れる賄賂は年10億ドル(約800億円)超に達するとみている。なかでもクリアカンを拠点とするシナロア・カルテルの影響力は国会議員、軍、警察に及ぶ。

 昨年7月に発足したシナロア州の「エリート警察隊」。隊員になるには連邦警察学校での訓練後、最終テストとしてウソ発見器を装着し質問に答える。(1)罪を犯したことがあるか(2)麻薬を使ったことがあるか(3)権力を乱用したことがあるか(4)麻薬組織と関係したことがあるか(5)以上四つの質問に正直に答えたか--。

 「6割が落ちる」。同州のコルドバ検察長官は顔色も変えずに言う。地元警察官の多くが麻薬組織に買収されていることは周知の事実だ。エリート警察隊の給与・手当を州警察官の約3倍とし麻薬組織より高い給与を払う。麻薬組織が愛用するAK47ライフルに対抗できる装備もそろえた。

 カルテルは人的情報網も張り巡らす。取材中、背後の車道を遮光フィルムを張った四輪駆動車がゆっくりと2度通過し、物ごいが寄ってきて「何をしているのか」と聞いてきた。ホークス(タカ)と呼ばれる麻薬組織の目と耳になる情報屋だ。地元記者ユーディス・バレンスエラさんは「ホークスや資金洗浄など州民の4割は麻薬犯罪組織のために働き、残り6割も友人、知人、親族の中に関係者がいる。無関係な人間などいない」という。

 メキシコ西部を南北に貫き、シナロア州に連なる西シエラマドレ山脈は大麻の巨大栽培地だ。1ヘクタールから8キロ、約20万ペソ(約135万円)分の大麻が育つ。3~5ヘクタールの土地があれば暮らしていける。カルテルは山奥に家、学校、教会を整備し、住民が収穫した大麻を回収する。住民にとって、政府に代わってインフラを整備する麻薬組織は「命綱」だ。コルドバ長官は「麻薬組織は住民の世話をしているのではない。利用している」と指摘するが、麻薬組織のカネが地方経済を左右するのも事実だ。

 麻薬組織は推計年660億ドルの利益を上げ、シナロア・カルテルは300億ドルを手にするといわれる。州の域内総生産の2割弱を占める。だが、取り締まり強化で羽振りも以前ほどではない。クリアカンではカルテル関係者が好んで乗る高級車BMWの売り上げが08年に比べて半減した。

 カルテルとの「共存」を望み、沈静化を願う人は少なくない。「稼ぎは半分に減った。麻薬戦争のせいだ」。港町マサトランのタクシー運転手、ラファエル・サンチェスさん(37)は嘆く。抗争のあおりで観光業がふるわないというのだ。コーヒー店を営むラウラ・カステニエダさん(61)は「州民と麻薬組織は母親と胎児のように一体。切り離すことはできない」と言い切った。

 ◇「合法経済」橋に託す

 バババ--。13日、ヘリコプターで同山脈の「悪魔の背骨」と呼ばれる高低差の激しい峰を飛ぶ。眼前に、谷底から陸橋まで約402.52メートルある世界一高い斜張橋バルアルテ橋(全長1124メートル)が迫る。

 残り24キロが完成すれば太平洋に面するマサトラン港から隣のドゥランゴ州をつなぐ高速道路が開通。ドゥランゴまでの輸送時間は6時間から2時間半に短縮され、米テキサス州に接するマタモロスに12時間で到達。太平洋から米国東部への輸送はパナマ運河を通すよりも早くなる。

 「麻薬組織の輸送ルートになるだけだ」との懸念もある。だが、「シナロア州への投資は倍になり、観光客も増える」と通信運輸省のアルフレド・ルビオ州代表は期待を寄せる。

 シナロア自治大学のギジェルモ・イバラ教授は「橋に希望を託す。投資が増え、金融機関の透明性が確保されれば合法な経済が成長し始める。麻薬組織を駆逐するには、雇用を増やし、腐敗をなくすことが重要だ」と強調する。
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