ハイウェイの駐車場でのせてもらう車を5時間ほど待っていた時でね。
「Guten tag!(こんにちわ)」 「No,sorry」 「Guten tag!」、、、
こんなやりとりが続いてね、雨も降っていたし、くたびれていたんだ。
『Guten tag!』って言葉を人生で一番言った日でもあったよ。
そんな時に目の前にとまったのが、古ぼけた、僕と同じようにくたびれた車だったよ。
そいつの持ち主がダニエルだった。
ダニエルは物静かな男性でね、車に乗ってから会話っていう会話がなく、ずっとお互い無言だったのよ。
大体こういう特別な時間ってのは気心知れた友達か、長い付き合いの恋人同士じゃなきゃ味わえないもんさ。
普通だったら、気まずくなって、興味のない話をベラベラと一気につまらない人間に自分をさせてしまうところさ。
ただダニエルは違って、この特別な時間を共に過ごせる男だったよ。
しばらくこの時が続いた後、彼の手がハンドルから離れ、車のポケットへ、ガサゴソやって何かを取り出した。
彼の口がしばらくぶりに開いた。
『マリファナをやるかい?』
僕はそいつを口にくわえ、火をつけて、また雨のハイウェイをぼーっと見ていたのさ。
金属を打ち付けける雨の音がこんなに優しく聞こえるなんてね。
この時はまだダニエルという名前はしらなかったけどね。その名前を知ったのは僕がその車を降りた時だったよ。
街について一人になって、僕はホテルを探していた。車の中では感じなかった体の疲れがまた息を吹き返してね、急にベットが恋しくなったんだ。
貧乏だったけど奮発して街一番のホテルに泊まったんだ、まあホテルは一つしかなかったんだけどね。
ほてるは少し古くて、床がギイギイなっちゃうんだけど、小綺麗でなかなか良かったな。
ロビーにつくと見慣れた先客がいたのさ。よく見るとさっきまで一緒にいたダニエルだったんだ、なんとまた。
『Hey!』なんて言っちゃてさ、お互いに。僕は相当嬉しかったんだろうね、女の子が女の子の友達に出会う時のようなテンションになったよ。
それから彼の部屋に招待されて、ワインと質素なつまみで密やかなパーティーをしたんだ。
偶然の再会ってのは、猫を犬に変えちゃうように妙な力で人も変えちまってね、さっきとは違って二人共饒舌になったよ。
僕はこの旅や、日本の話をしてね。彼はダニエルっていう名前以上の事を話してくれたよ。
彼は薬のやりすぎでぶっ飛んじゃって、ついでに家や仕事もぶっ飛ばしちってね。待っていたのは長い入院生活だったみたいよ。
病院のベットの中で、ロシアに行って釣りをしながらのんびり過ごしたいという夢を持ち始めたとさ。
薬をやってた時はそんな夢なんか見た事なかったよと照れ臭そうに言っていた。
今は仕事にもつけて少しづつお金を貯めてるとも。
他にも色々話したけど何年も前のことだから忘れてしまったよ。
二度目の再開はまだないけども、今はきっとロシアで魚を釣ってるんだろうな。
夢を語っていた時の彼はとても素敵だったからね。

