2013年、私は、父がよく私たちに話してくれる昔話を、絵本にしようと思い立ちました。


父から聞き書きをして作ったのが、こちらの物語です。








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【ひとりひとりの物語】自分絵本プロジェクト第1号



 



■おれんちのうし



作・高木正嗣



 





おれが生れ育ったのは



信州の山の中





農家では役牛が大切な存在なのだ



畑を耕し、土を豊かにする堆肥を作る



山の子供達はこんな牛を世話するのが仕事なのだ





ある時父ちゃんが言った



お前が高校に行きたいなら授業料は自分で稼いで行け



父さんが子牛を一頭あげるから三年間牛を育て肉牛として売れば学費は稼げるだろう



その代り朝夕牛にえをあげ休みの日には世話をしなさい



牛の喜ぶことをしてあげなさい





俺は子牛の世話を一生懸命した



藁を押し鎌で刻んで豆がらも切り込んで朝夕食べさせた





お天気の良い日は牛を外につれ出して杭につなぎ



日なたぼっこをさせストレスを取る様に努めた





ある日 学校から帰って着て牛を小屋から出した



庭にあったシイタケの原木につないだ



そのまま五〇〇米先にある小学校の校庭へ遊びに行った





校庭で鬼ごっこをしたり走り巾跳びの練習をしていると



友達が叫んだ



あっちから



「牛が飛んでくるぞ」





子牛は俺と一緒に遊びたくて



五〇〇米の道を杭を引きずって一生懸命に走って来たんだ



びっくりしたよ





「良く来たなー」



俺は子牛をほめてやり一緒に家に連れて帰ったんだ





子牛は三才になったら売らなければならない



いい値段で売るためには別れなければならない



三年半俺はずっとあんたと一緒だったんだ





ついに別れの時が来た



車が家の前まで来た



牛を車に乗せようとしたが、牛は動かない



車に乗ってしまったらどうなるか知っているのだ





いくら可愛い牛さんでも売らないわけにはいかない



農家では現金収入を得る方法はあまり無いのだ



学校で勉強が出来ても頭が良いと言われても高等学校に進学できない家庭が多かったのだ



お金が無いのだ





俺は父のおかげで牛を育てて



その三年間の飼育のおかげで高等学校に進学する見込みがついた



競争率がきびしい



あとは合格する為に努力するのみだ





俺は農家をつぐわけにはいかないので高校を卒業して東京に行こう



四月一日東京で仕事を始め十年後結婚をし我孫子市に家をもった。



二人の娘ももうけた



良い娘達だ





娘たちが小学校の頃は



毎年信州に里帰りをした



子牛に会えるのが楽しみで



夏休みが来るのが待ち遠しかった





俺の人生を切り開いてくれたのは



信州時代の子牛だったのかも知れない。



ありがとう。



 



七十六歳 一月吉日





高木正嗣(たかぎ まさつぐ)201346日没:享年76