12年越しの恋@七夕篇 | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

恒例の七夕妄想です。

 

かなり長いので時間があればどうぞ。

 

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車窓から見える景色が愛おしい。

 

狭い土地、知った顔が嫌で離れたのに。

 

 

 

中学の頃、英語の部活に入っていた。

教育県の名の通り、英語の勉強も盛んだ。

県庁所在地の都市では市内の中学同士で

英語のディベート大会が開かれていた。

地元の英語塾に通っていた私は「発音が良い」と褒められ

内心、自信があった。

ディベートは各チーム3人。

事実上、私のワンマンチームだった。

3回勝って、決勝に進んだ。

「すごい子がいるらしいよ」

相手チームの情報を仕入れてきた副部長の吉田君が言った。

「奈緒がいるから、大丈夫よ。ね?」

小学生からの友人、杏子が私の肩をたたく。

「もちろんよ!」

ちょっぴり、不安もあったが杏子の言葉に力づけられた。

相手校は国立のS大付属中。

私たちは市立中学だ。

 

結果は、惨敗だった。

テーマは外国人観光客の拡大策。

発音は負けていなかったと思うし、ボキャブラリーも遜色なかったはずだ。

だが、論理的な話し方で、天と地ほど差があった。

指導教官が「大平はよくやった」と私を力づける言葉を伝えた。

「相手の部長はアメリカからの帰国子女だったんだ。

向こうで、自分の正しさを主張する話し方を身に付けていたらしい」

いくら慰められても、負けは負け。

1人で自宅に帰る途中、涙が止まらなかった。

信号待ちで立っていると「おつかれ」と声をかける男の子がいた。

あの帰国子女だ。いや、帰国男子というべきか。

「暑いよな。はい」

あ、私の大好きなガリガリ君のソーダ味。

思わず手に取ると「じゃ」と言って走って去って行った。

余計にみじめな気持ちになりそうだったが、

袋を開けてガリガリ君を食べているうちに、不思議に落ち着いてきた。

 

私は地元の進学校に進んだ。

入学式で、あの帰国男子を捜したがいないようだ。

「あいつなら、都内の私立高校に行ったらしいよ」

情報通の吉田君が教えてくれた。

ちょっと落胆したが、これで英語だけは1番になれると思った。

残念ながら、そう甘くはなかった。

英語はそこそこできる程度で、中学時代の輝きはなくなった。

家庭内もトラブルが増えた。

金融機関に勤務していた父が、行内の不祥事に巻き込まれて退職。

新しい職場では給料がぐっと下がり、逆に酒量が増えて、家で大声を出すことが増えた。

面白くなくなった弟は高校受験を前に万引きで補導された。

母は心労で、体調を崩しがちになった。

大平家に対する近所の噂話も盛んになったようだ。

 

私は地元の国立大に進学するつもりだったが

こんな場所にいるのが嫌になった。

奨学金を活用し、上京することにした。

そこそこ得意な英語を生かし、外国語大のマイナーな言語専攻を目指した。

両親は私の状況には反対だったが

授業料を含め、全部自分で賄うと反論すると

もう返す言葉はなかった。

大学は無事に合格した。

地元出身者の出資で運営されている高円寺の学生寮に入り

バイトを掛け持ちしながら、学費を稼いだ。

といっても、すべて家庭教師だ。

有名大学で女子。

これでかなり需要があり、そこそこ見映えも良かったので

生徒の女の子にも好かれていたと思う。

 

就活は紆余曲折があった。

数社から内定をもらったが、選んだのは発酵食品メーカーだった。

「あんたやっぱり地元が好きなんじゃない?」

卒業前に東京に遊びに来た杏子が言う。

彼女は地元の大学から県庁に入ることが決まっている。

「発酵食品は地元の特産品じゃない」

言われて、そうだったのか、と気づいた。

そうなのかもしれない。

 

入社して失敗したな、と思った。

日本酒も発酵食品の一種だが、

同じように他の発酵食品も需要の低迷が続いていた。

でも、嘆いても仕方がない。

営業に配属された私は、全国のスーパーに足を運び

新規の開拓、取扱量の増加を懸命に働きかけた。

そこそこ実績も上げてきたなと感じた入社5年目。

「経営企画」への異動が決まった。

なぜ?

異動して理由が分かった。

会社は、業績テコ入れのため、外資のコンサルタント企業と契約を結んでいた。

先方のメンバーの中には、外国人が含まれていた。

会議で使う言葉は日本語だが、英語が必要になるかもしれない。

過去10年間に入社した社員で外国語学科を卒業しているのは私だけ。

メンバーに女性もいた方が良いとの判断で選ばれたようだった。

 

初顔合わせの時、私はアッと思った。

先方のメンバーに、あの帰国男子がいたのだ。

自己紹介で彼が「渡部」という名前だと初めて知った。

目が合ったが、さっとそらされた。

覚えてないんだな、当たり前か。。。

 

新規事業進出への可能性、販売方法の変更、

不採算事業の整理、等々。

議論は多岐にわたった。

私は書記役として議事録を作成していたが、

生来の出たがり、言いたがりの性格のため、

次第に発言するようになった。

渡部とも白熱した議論を交わすようになった。

4年間営業現場で働いていた自信が私の支えだった。

ディベートでは完膚なきまでに言い負かされたのに

今回は、そんなことはなかった。

 

ほぼ1年の議論を経て

新しい経営計画がまとまった。

どうなるか分からないが、会社が良い方向に生まれ変わってほしい、

心からそう思った。

打ち上げの立食パーティーの場で、渡部が近付いてきた。

「大平さん、お疲れさま」

「あ、渡部さんもおつかれさまでした」

「中学の時は勝ったけど、今回はそうはいかなかったな。

あ、勝ち負けを競う場所じゃないけどね」

「覚えてたの?」

「もちろんさ、最初から分かっていたけど、ここは仕事だからね」

「さすが、割り切りが早いわね」

「お酒が入っているから、思い切って言うね」

「何かしら」

「中学の時、僕ってすごい形相だったろう」

「確かに、すごい迫力だった」

「予選の時、大平さんたちの中学と決勝でぶつかると思って、見に行ったんだ」

「そうなの」

「そしたら、ネーティブみたいな発音をする可愛い女の子がいた」

「あら、私のこと?」(顔が赤くなったのが分かる、大丈夫、お酒のせいよ)

「もちろんさ。だから決勝の時、大平さんの可愛さに負けちゃいけないと思って

余計に力が入ったんだ。怖かったかな?ごめんね」

「12年も経ってから謝られてもね」

「社会に出て、大平さんが成長したのは議論でよく分かった。それに・・・」

「それに?」

「・・・うーんと、ええっと、綺麗になった」

「何それ?」(さらに赤らんでいるわ、きっと)

「僕、今回の仕事が終わったら、会社をやめるつもりなんだ」

「どうして?」

「アメリカ流の手法を押し付けるだけでいいのかな、と。もっと違うアプローチがあるんじゃないか。大平さんの発言も聞いてそう思うようになったんだ」

「私のせいなの??」

「せいっていうか、きっかけの一つになった。業績の数字だけでなく、もっと相手企業全体を知った上でコンサルティングをやりたいなと思って。それでね」

「うん」

「僕らが過ごした街に帰って、起業するつもりなんだ」

「え~、びっくり」

「大平さん、奈緒さん」

「はい」

「1年近い議論を通じて、あなたは信頼できる人だと改めて分かりました」

いつの間にか、私たちはグラスをパーティー会場に置いて

テラスに出ていた。

火照った頬に外気が心地よい。

「ありがとう、そう言ってくれて」

「そして、中学の時から、ずっと、奈緒さんが好きだったと確信しました」

「え???」(告白なの?こんな急に)

「これは酔っているからじゃないよ。奈緒さんは知らなかっただろうけど、外国語大の学園祭に行って、英語劇に出ていたあなたも見ていたんだ」

「まあ」

「情報は、ガリガリ君のことを教えてくれた吉田君からもらっていた。吉田君は杏子さんから」

医学部に進んだ吉田君は杏子と付き合うようになっていた。

「知らなかったわ。あの2人・・・」

「だから、今回の会議が始まる時点で、奈緒さんには付き合っている相手がいないと分かっていたんだ」

「その後は忙しくて、そういう暇もなかったしね」

「返事は今じゃなくていい。考えてみてくれないか」

「何を?」

「まずは、仕事のパートナーになってくれるかどうか。その先に人生の」

「それ以上は言わないで。さあ、戻って、渡部さんの門出に乾杯しましょう」

 

地元に戻った渡部からは

仕事の進捗状況が毎日にように送られてきた。

そこに愛の言葉はない。

彼が地元企業の活性化に一生懸命なのはよく分かった。

面白そうだ。

手伝ってみたい。

でも、あの告白は何だったの?

そう疑問を感じていると

「大きな成約が2件成立した。これで2人でも生活できる」というLINEに続き

電話が鳴った。

「こっちに来て、一緒に暮らしてほしい。

大好きなキミと毎日、笑って、議論したい」

「ちょっとだけ、考えさせて」

前は私が驚かされたんだ。

今度は仕返しするわよ。

 

7月7日。

朝早く、都知事選の投票を終えて、彼に電話した。

「今から新幹線に乗るわ」

「え?」

「文句ある?」

「大歓迎さ」

大宮を過ぎたところで、彼からLINE。

「軽井沢に宿を取れたから、そこで降りて」

 

もうすぐだ。

ああ、駅のホームに彼が見える。

スーツケースを放り出して

私は彼に抱き着いていった。

 

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長野県出身のスポーツ選手と歌手の名前を拝借しました。