サンタへの贈り物 | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

クリスマスイブですね。

恒例のクリスマスフィクションです。

お時間あったら、どうぞ。

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なんてこった。

俺は新型コロナを憎む。

年に一度の楽しみを奪うだなんて。


学問に打ち込んでいたあの頃。

海外留学の話が舞い込んできた。

もちろん、行きたかった。

結婚して4年。

娘は3歳だった。

留学費用は1人分だけ。

妻子を帯同する余裕はない。

「悪いが日本で待っていてくれ」

歯科衛生士で自活力のある妻に頼んだ。

「いいわ」

「そっか、ありがとう」

「あなたは研究のことが優先、というか、それしか眼中にない」

「そんなことない。キミも娘も大事だ」

「いいえ、私たちは邪魔よ。この際、別れましょう」

「なんでそんな極端な話になるんだ」

「前々から考えていたのよ。あなたの研究テーマも私にはチンプンカンプンだし」

「それは。。。結婚前から、いや、交際中から分かっていただろう」

「でも、つらいのよ。パパの仕事を、娘に説明できないのが」

取り付く島もなかった。

結局、離婚届けに判を押した。

養育費は俺がそれなりに稼ぐことができるようになったら送ることで合意した。

そして、娘には原則、会わないことにも。。。

3年後、帰国した俺は、准教授のポストで母校に迎えられた。

養育費も送れるようになった。

彼女たちの住んでいる場所は分かっている。

一度、駅で待っていたら

「ストーカー被害を出すわよ」と元妻に脅され、あきらめた。

彼女に好きな男性ができたわけでもないようだ。

風の便りで、勉強が好きな娘のために

塾に通わせたりしていることが分かった。

俺は精いっぱい養育費をはりこむことにした。

帰国した最初の冬、街でサンタ姿を見かけた。

これだ!

インスピレーションが沸いた。

翌年のクリスマスシーズン。

俺は大学の講義のない日は、

サンタ姿のアルバイトを始めた。

娘たちの住む街で。

これなら、元妻も俺と分かるはずがない。

ある週末、サンタ姿でビラ配りをしていると

元妻が娘とこちらにやってくるのが見えた。

4年ぶりに見る娘。

可愛く成長している。

ビラを渡すと「サンタさん、ありがとう」

白い髭に涙がこぼれそうになった。

それから毎年、クリスマス時期には

必ず1~2度は娘を見かけることができた。

小6の冬は何度も見た。

中学受験のため、冬期講習に通っていたのだろう。

「勉強を教えてやりたい」

何度もそう思った。

小学校卒業の写真と中学入学の写真は

元妻から勤め先に送られてきた。

「養育費のおかげで塾にも十分通い、

憧れの私立中学にも入学させることができました。

ありがとう」

と彼女にしては珍しく、素直な礼の言葉があった。

嬉しかった。

今は、もう中学2年。

さすがにサンタを信じてはいないだろうけど、

街中で娘を見たい気持ちに変わりはなかった。

しかし、コロナ禍で「ビラを渡す」行為自体が難しくなり、

「今年は仕事がないよ」と

間に立つ派遣会社の担当者が電話してきた。

いつもはメールなのに。

事情を知っているから、気の毒だと思ったのだろう。

大学の講義はオンラインと対面とが混在していたが

いずれにしろクリスマス時期は大学も休校だ。

イブは今年も、予約していたフレンチを1人で楽しんだ。

まあ、これも悪くない。

明けて、クリスマス当日の朝。

おや?ドアのチャイムが聞こえる。

俺は親が残した古い一軒家に住んでいる。

何だろうと思い、きしむドアを開けた。

そこには赤いサンタ帽をかぶった娘がいた。

「今年はパパサンタに会えないから、私から会いに来たわ」

「はい、チキンもよ」

後ろから元妻が顔をのぞかせる。

こんなプレゼントが。。。

「サンタって知ってたのか?」

「ずっとよ、ビラを手渡した時の感触で、パパだって分かったの」

「そうか」涙で声にはならない。

「ママは分からなかったみたいだけどね」

「うん」

「ねぇ、パパ。私の笑顔がクリスマスプレゼント、素敵でしょ」

「最高だ」

「じゃ、お返しもしてね」

「何を?」

「勉強を教えて、特に数学、いいわよね」

「願ったり叶ったりだ。キミはいいのか」

元妻に尋ねた。

「もちろんよ。私だってちょっとは会いたかったんだから」

コロナも悪いことばかりではない、そう思いながら

涙で顔がぐしゃぐしゃになって行った。