ママのプチ家出 | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

今日は「いい夫婦の日」ですね。

とても長いです。
暇な時にどうぞ。


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冗談じゃないわ。
娘にあんなことを言われるなんて。
人の苦労を何だと思っているのよ。
「替え玉ちょうだい」
「はい、替え玉一丁!」

「私、大学には行かないから」
夕食を終えた後、娘が突然切り出した。
「何言ってるの?」
「植木職人になるつもり。もう弟子入り先も大体決まってる」
「ど、どういうこと?」
「やっぱり京都に行くの?姉ちゃん」
息子が当然のように尋ねる。
「うん、それも考えたけど、通いにするわ」
「それがいい。ママにも弁当を作ってもらえるし」
夫も口をはさむ。
「高校卒業までに料理を勉強する。働き始めてママにお弁当作りさせるわけにもいかないし」

どうなっているんだろう。

「ね、ね。あなたたちは、この子の話知ってたの?」
「まあ、ある程度ね」
「僕もだよ、ママ」
「ひどい!私だけのけ者にしてたのね」
「そんなことないわ。ママにも何度か相談しようとしたけど、ママったら忙しいから後にしてって。全然取り合ってくれなかったじゃない」
「僕もそういうところ見たよ」
「何よ、あんたまで。こんな大事なことなら、忙しいと言っても話してくれなくちゃ」
「パパは話があるって言ったら、ゴルフに行くのをやめて聞いてくれたわ」

そう言えば、夫が突然ゴルフをキャンセルしたことがあった。
私はお友達と外出することになっていたので、夫の昼食をどうするか、悩んだ記憶がある。

「ママったら、あの日、パパがゴルフはやめたよ、って言ったら『困るわ、急に言われても』って怒ってたよ」
「パパが珍しくパスタを作ってくれたのよね。楽しかったわ」

そんなことがあったのか。
あの日は、19時前に帰宅し、デパ地下の弁当で済ませたんだ。
子どもがニコニコしていたのは、弁当じゃなくて、夫の手作りランチを食べたからだったんだ。

「でも、帰った後も、話す時間はあったでしょ?」
「嘘、ママは買い物をチェックして、写真を撮って、ブログを書いていたわ。話しかけたら、『集中できないからやめて』って」
そんなことを言ったのだろうか?
「大体、ママは私が中学に入ってから、いつも忙しいって言っているわ」
「うん、何だか、姉ちゃんの学校のお母さんたちと出かけてばかり」
「ボランティア活動も始めたし。ママと一緒に出かけた時、お友達のママに『見て、私の手帳。スケジュールがいっぱいなのよ。忙しくて時間が足りないの』って言ってた。私には自慢話にしか聞こえなかった。クラスにもいるのよ。予定が埋まっていると偉いような態度をとる子が。私はね、誰でも自分自身を振り返る時間が必要だと思うの。仕事をしているわけでもないのに、予定があって忙しい、なんて、時間をうまくコントロールできないだけだと思う」

娘が娘に見えなくなっていた。
同性を憐れむような口ぶり。
何よ!
私のことなんて分かってない。
あなたを有名中学に入れるのにどんなに苦労したか。

「ママが中学受験の時、応援してくれたことには感謝しているわ」

娘は私の心を見透かすように言った。

「見当違いの教え方でも、一生懸命だって分かっていたし」

え?

「本当に分からないことはパパに聞いていたのよ、ママ」

夫が顔をそむけた。

「今もそう。ママがブログに熱中している時間にパパに家庭教師してもらっているの。ママには無理だもんね、数学は」
「そんなこと言うもんじゃない!」

夫が大声を出すと、娘はシュンとなった。

「みんなもう、勝手にしなさい!」
「ママ!」

息子の声を背に家を飛び出した。

来たのは子どもたちとよく一緒に来たラーメン屋だ。
あの頃、2人とも幼かった。
小さな器に小分けしてもらって、私がふうふう息を吹きかけながら冷ましてあげたんだ。

息子は小学校からエスカレーター式の学校に通っている。
成績もいいし、途中で放り出される心配もない。
娘が中学受験を終えると、私は途端に目標を見失った。
パートに出る気にはなれなかった。

「あなたも自分の人生を生きなくちゃ」

娘の同級生の母親に言われて、ママ友や昔の友人たちとの交流を始めたのだ。
夫は何も言わなかった。
ゴルフ好きの夫は毎週のように出かける。
プレー代を賄い、2人の子どもを私学に通わせ、私の交遊費や買い物代も負担する。
やり手の夫には内心感謝している。
しかし、それも口にしたことはない。

振り返ってみると、娘が指摘したとおり、予定のための予定を埋めていたような気がする。
周りの友達と競争するように。
本当に行きたい場所に行っていたのだろうか?
自問しても、「その通りよ」という答えはない。
自分の仕事を見出しかけている娘がうらやましくもあった。
疲れた。

「ここにいたのか。ほら、麺がのびちゃうぞ」
「○○さん」
「僕にはチャーシュー麺を」
「はい、チャーシュー一丁!」

「久しぶりに名前で呼ばれたな」
「…そうね」
「これからはママ、じゃなくて名前で呼ぼうかな」
「何だか照れくさいわ」
「子どもたちのママだけど僕の奥さんなんだから」
「それはそうだけど」
「あの子がどうして植木職人になろうと思ったか知ってるか?」
「分からないわ」
「忙しい君でも、花の手入れはしているじゃないか」
「それは好きだから」
「あの子も好きなのさ。だから初めはフラワーアレンジメントをやってみようかと思ったらしい」
「そうなの?」
「ただ、あの子によれば、本当にアレンジを勉強するならイギリスかフランスに留学しなくちゃダメだ、という結論に達したんだって」
「そんなことないと思うけど」
「僕もそう言った。でも、海外経験の有無は大きいと言って聞かない」
「それなら、留学だって…」
「分かってないな」
「え?」
「家族から、ママから離れたくないんだよ、まだ」
「まぁ」
「それにいつか君が言ったそうじゃないか」
「何を?」
「お花もいいけど、木も植えたいのよね、庭に、って」
「確かにあの子が小さい時にね」
「それを覚えていたんだ。『ママが本当に願っているみたいだった』って言ってたよ」
「それで?」
「もちろん、木をいじるのが好きだからだろうけど、君の言葉が大きく影響していると思う」
「そう言えば」
「何だ?」
「『ママね、小さい頃、植木屋なんになりたかったの。ハサミの使い方が素敵でしょ』って、あの子に話しかけたことがあったわ」
「それは知らなかった。へ~、そうなんだ。初耳」

夫の知らない会話。
その存在が心を温かくした。

「ゴルフを止めようと思うんだ」
「どうして?」
「これ以上上達しそうもないし。それに…」
「うん」
「2人の時間を大切にしようじゃないか」
「2人って?」

分かっていても言わせたくなる。

「うん、それは…」

「ママ~、ずるいよ、1人でラーメンなんて」
「ホントよね。私も食べたいわ~」

娘と息子が息を切らしながら店に入ってきた。
真っ赤な顔をしている。
私を探して?

「ほら、汗をかいているわよ。これで拭いて。風邪ひいちゃうわ」
「ありがとう、ママ」
「それじゃ、ラーメンをあと2つ追加ね」
「はい、ラーメン2丁!。ご家族みんななんて久しぶりですね」
「そうかしら」

きっとこの笑顔のために暮らしている。

「そうなのよね、○○さん」
「え?うん、そうだな、△△子」
「あ~、名前で呼び合ってる」
「ひょ~、ラーメン食べる前から熱いよ」

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女性読者の方から、叱られそうな気もします。
仕方ありません。

皆さんは家族を、パートナーを、大切にしていますか?