私たちの七夕デート | スイーツな日々(ホアキン)

スイーツな日々(ホアキン)

大好きなスイーツと甘い考えに彩られた日々をつづっていきたいと思います。

今年も7月7日が来た。


あれからもう7年になる。


「今夜は七夕だね。夕飯は食べてくるよ。邪魔しないからゆっくりメールして」


そう言って夫は出勤した。


理解のある夫、ということになるのだろうか。




7年前、彼と別れることになった。


本当の理由が何だったか、今ではぼやけてしまっている。


ただ、彼の転勤がきっかけだったことだけは間違いない。


「七夕って、究極の遠距離恋愛だよな」


そんな風に言っていた彼に、私が提案した


「ねえ、七夕の夜だけ、メール交換しない?」


それ以外の日は着信拒否にしておくことにして。


「面白いね、やってみよう」


彼は私の本当の気持ちを知っていただろうか。


着信拒否にしておかないと、


彼からのメールを待つようになってしまう。


そんな自分の姿が見えていた。


切なくて嫌だった。


仮に七夕の夜に、メールが来なくても、それまでには


メールが来ない環境に慣れるだろうと思っていた。




別れてから3カ月余り。


最初の七夕の夜に、彼から長文のメールが来た。


ほとんどが仕事のことだった。


「まだ、新しい彼女はできないのかな」


そんなことを思いながら、私も近況を報告した。


前と同じような言葉のやりとり。


ただ、違うのは「好き」というフレーズが抜けていたことだけ。




その後、それぞれが結婚し、


今、私のお腹には新しい生命が宿っている。


10歳以上も年上の上司から交際を申し込まれた時は驚いた。


しかし、夫は優しく、人生を共に歩くには最高の相手と感じ、その気持ちを受け入れた。


夫には七夕の夜のことも話した。


「キミの美しい思い出のアルバムを更新するわけだ。妬けるけど、続けてかまわないよ」


そう言ってくれた。


もっとも、その晩は決まって遅く帰宅する。


妻が、昔の恋人とメール交換する姿を見ていて面白いはずがない。


彼はどうなんだろう。


「奥さまには言ってあるの?」と尋ねたことがあるが、はぐらかされた。


先に一児の父となった彼は、お嬢さんと一緒に撮った写真を添付してきたことがある。


奥さんの写真はない。


私も自分の写真は送るけど、夫のは送っていない。




去年の七夕で「ウエブカメラを使ってパソコンでメールしようか」と彼が言ってきた。


断った。


彼の動く姿を見て、平静ではいられない。


声ですら聞いたら動揺すると分かっているから、電話で話さないのに。


家の電話が鳴っている。


「もしもし」


「…」


切れた。


番号は非通知になっている。


七夕の夕刻に決まって無言電話がある。


昔の彼女が夫に電話してきている、そんな風に感じていた。


夫にも忘れられない七夕の思い出があるのだろうか。




メールが着信した。


着信メロディーだけは以前と同じ。


生憎の曇り空。


彦星と織姫が天の川を超える逢瀬を見ることはできない。


地上の私たちは、しばしの間、メールでデートを楽しもう。



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画像はお借りしました


すべてホアキンの創作(妄想?)です。