窓の外、夕立の名残がアスファルトを光らせている。
食卓に並んだ味噌汁の湯気がゆらゆら揺れて、空気を柔らかく染めていた。
「……ほら、冷めるぞ」
実弥の声に、思わず笑みがこぼれる。
「うん、いただきます」
箸を取る手が自然に軽くなった。
気がつけば、こうして向かい合って食べる時間が、当たり前に戻ってきている。
ほんの一瞬、雨の匂いに胸がざわつく。
けれど、すぐに実弥の視線とぶつかり、その温かさに心が戻ってくる。
夕飯のあと、洗い物を片づける実弥の背中。
その肩の広さに、前よりも強く安堵を感じている自分に気づく。
最近の実弥は疲れているはずなのに、変わらず私のことを気づかってくれる。
その姿がただ、ありがたくて胸が熱くなった。
夜、布団に並ぶと、背後から実弥の腕が自然に回ってくる。
その力強さが、帰る場所を示してくれているようで、目頭が熱くなる。
「……ねぇ、いつもありがとう」
囁くと、彼は小さく息を吐き、頬を寄せてきた。
「……ここにいろよ」
その低い声に、ほんのわずかな震えが混じっている気がした。
抱きしめる手が、確かめるように強くなる。
私はその温もりに身をゆだねながら、胸の奥で思う。
――この人も、まだ迷っているのかもしれない。
けれど、その迷いごと抱きしめてしまいたい。
消えかけていた残響よりも、いま腕の中にある温もりのほうが確かに強い。
そう信じるように、目を閉じた。