スマホの画面が光るたび、胸の奥がかすかにざわつく。
「今日はもう仕事終わった?」
「この前の店、まだあるかな」
そんな何気ないやりとりが、帰宅電車の揺れとともに指先を占領していく。
既読をつけるだけで終わらせればいいのに、言葉を返してしまう。
『……忙しいからな』
すぐに返事が届く。
『そっか。でも、まさかあそこで会えるなんてね。運命かなーって思っちゃった』
『昔の不死川くん、みんなの憧れだったの覚えてる? 私は今でもそう思ってる』
指先が止まる。
――運命。憧れ。
冗談だと分かっていても、その言葉が胸に落ちてくる。
送った後で、小さなため息をついた。
――俺は、何をやってんだ。
***
家では、いつも通りの食卓が待っていた。
あなたが「お疲れさま」と笑顔で皿を並べる。
その笑顔に胸が温かくなるのと同時に、ポケットの中の重みがずしりと響く。
「今日も遅かったね」
「……ああ、ちょっと立て込んでてな」
あなたに嘘をついたわけじゃない。
けれど真実も言わなかった。
それが胸に小さな棘のように残る。
***
数日後。
夜風が冷たくなりはじめた街角で、スマホの通知がまたひとつ弾んだ。
『この前の店、やっぱり行ってみない? 久しぶりにゆっくり話したいな』
画面を見つめる時間が長くなる。
本当ならすぐに断ればいい。
けれど頭の奥に浮かぶのは、肩にのしかかる疲労と、胸に残る自信のなさ。
――俺でいいのか?
家では笑っているが、あなたの心に残っているのは別の影じゃないのか。
迷いの末、指先が小さく動いた。
『……わかった。』
短い返事を送ったあと、電車の窓に映る自分の顔を見て、苦い思いが喉に広がった。
***
その夜、家に帰ると、あなたが温かいスープを差し出してくれる。
「寒いから、スープのがあったまるかなと思って。」
「……ああ」
湯気の向こうに見える笑顔に、胸が締めつけられる。
温かさに救われながらも、心の奥に芽生えた揺らぎを隠すように、スプーンを口に運んだ。