駅前の人混みの中、女の子が小走りで駆けてきた。
「不死川くん、やっぱり来てくれたんだ!」
その笑顔は昔のままで、実弥は視線を逸らす。
「……飯食うだけだぞ」
低く言うと、彼女はいたずらっぽく笑った。
「うん、わかってる。でも、こうして不死川くんと会えるなんて、夢みたい」
店に入ると、懐かしい匂いが鼻先をくすぐった。
向かいに座った彼女はグラスを揺らしながら、身を乗り出して言う。
「ねぇ、覚えてる? あの頃、不死川くんって本当にかっこよかった。
みんなの憧れだったんだよ」
「……そんなことねぇよ」
「私は今でもそう思ってる。真っ直ぐで、誰よりも優しい人」
そう言いながら、彼女の指先がテーブルの下で実弥の腕にそっと触れた。
実弥の手が止まる。触れられた温度がじわりと腕に残り、その瞬間、体の奥にひやりとした緊張が走った。
払いのけたい衝動が胸を突き上げるのに、指先は動かない。
喉に言葉が引っかかったまま、沈黙だけが落ちた。
胸の奥に、小さなざわめきが広がっていく。
「これってデートだよね?」
彼女は微笑み、実弥の手の甲を軽くなぞる。
「不死川くんとデートできるなんて、夢みたい」
実弥は息を整え、かろうじて低く返す。
「……飯だろ。ただの」
「うん、そうだけど、私にとっては特別なんだよ」
視線が真っ直ぐで、逃げ場がない。
グラス越しに見つめ返すと、胸の奥に穴が開くような感覚が広がった。
***
店を出ると、夜風が頬を撫でた。
歩きながら、彼女が腕に軽く触れてくる。
「また会いたいな……次はもっとゆっくり話そうよ」
実弥は一瞬だけ立ち止まり、迷いのあとで答える。
「……考えとく」
彼女は満足げに笑って、夜の雑踏に消えていった。
***
家に帰ると、あなたが「おかえり」と笑顔で迎えてくれる。
その笑顔が胸を締めつける。
ポケットの中のスマホの通知が、またひとつ光っていた。