「異国のおじさんを伴う」森 絵都著・・・★★★☆
思わぬ幸せも、不意の落とし穴もこの道の先に待っている。どこから読んでも、何度でも、豊かに広がる10の物語。誰もが迎える、人生の特別な一瞬を、鮮やかにとらえる森絵都ワールド。
私が今まで読んできた作家の男女比率でいうと、圧倒的に男性作家が多い。(作家自体の絶対数で言えばそうなるのかも知れないが・・・)
そんな少ない女性作家の中で、森絵都は私と相性がいい。
先日読んだ、塾経営に情熱を傾けた三世代に亘る物語を描いた「みかづき」は力作で素晴らしい作品だった。
今回は薄い本シリーズで本書を手にとってみた。
本書は10篇からなる短編集(掌編と言っていい作品もある)である。
どの話もその切り口が面白く、コミカルあり、シニカルあり、心沁みるものあり、実にバラエティに富んでいる。
この中で私が笑ったのが「桂川理香子、危機一髪」の、たった11ページの掌編だ。
名古屋の豪族旧家で育った桂川理香子(51歳)は、結婚も仕事もせず趣味に生きる女で、エコライフ、キックボクシング、忍者、爬虫類と片っ端から手を出し好奇心を満たしていた。
ところが、そんな理香子にもある男との苦い過去があった。
三十路を過ぎた理香子は、スフィンクス友の会で出会った、イケメンエジプト人アリと恋に落ち結婚を決意。
世間体を気にし、婚姻を許すとは思えない桂川家にいきなりアリを連れて行く奇襲作戦を実行すべく、名古屋行きの新幹線を2人で待っていたのだが。。。
結末の、胸がすくような理香子のドンデン返しの行動と決意に大笑い。
表題作の「異国のおじさんを伴う」は、異国の旅で予想外の出来事に戸惑う主人公だったが、過去の荷物を捨て、新たな自分自身の旅に踏み出すという、心に沁みる女性の話。
どれも小気味いい短編で、時間の合間で読めるので移動中や忙しい人にもホッと一息できる、おすすめの一冊である。
異国のおじさんを伴う (文春文庫 も 20-7)
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