591冊目 わが心のジェニファー/浅田次郎 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「わが心のジェニファー」浅田次郎著・・・★★★★

日本びいきの恋人、ジェニファーから、結婚を承諾する条件として日本へのひとり旅を命じられたアメリカ人青年のラリー。ニューヨーク育ちの彼は、米海軍大将の祖父に厳しく育てられた。太平洋戦争を闘った祖父の口癖は「日本人は油断のならない奴ら」。
日本に着いたとたん、成田空港で温水洗浄便座の洗礼を受け、初めて泊まったカプセルホテルに困惑する。……。慣れない日本で、独特の行動様式に戸惑いながら旅を続けるラリー。様々な出会いと別れのドラマに遭遇し、成長していく。東京、京都、大阪、九州、そして北海道と旅を続ける中、自分の秘密を知ることとなる……。

 

久しぶりに本を読んで泣かされた。(オヤジはこういうのに弱いんだよね〜f^_^;)

やはり浅田次郎は巧い。

事前に見たAmazonの評価が低く、どんなもんだろ?と思ったが杞憂に終わった。

 

本書は1人のアメリカ人青年(ラリー)が見て、体験し、感じた日本と日本人、そして自身の生い立ちから成り立つ自身の内面への旅物語である。

 

日本人作家が書いた、アメリカ人の日本体験記だから実際に外国人がそう感じるかどうかは分からないが、他国と比べ日本がいかに独自の文化と文明と人間気質を持っているかが改めて知る事になった。

もちろんそこには、日本と日本人の良さと悪さの両面を持っている。

 

複雑怪奇で理解不能な東京の電車路線。

新幹線の秒単位の運行とお掃除おばちゃん達の組織力。

団体行動を好み、文句一つ言わずどこでも列に並ぶ日本人。

日本のインテリジェンスが詰まったコンビニエンスストア。

他人に対する親切心と過剰なまでのサービス。

歴史を重ね日本独自の様式美を誇る京都の建造物と情景。

フランクでフレンドリィで独自の食文化を持つ大都市大阪。

こんな小国に3千以上もある温泉。。。etc

 

そしてラリーは行く先々で、幻とも思えるような人達との出会いを体験する。

清水寺で出会った、清楚な和服美人との禁断の恋。

別府で出会った、祖国を捨て20年間日本の温泉をさすらう修行僧なような初老のアメリカ人。

東京で出会った、塾をサボって地下街でTVゲームに没頭する少年とアメリカに憧れを抱く少年の母親であるセレブなマダム。 

そして最後に訪れた釧路で思わぬ人物と邂逅を果たすのである。

 

この作品で鍵となっているのは「日本人は油断ならない」が口癖の祖父であり、その祖父母たちに育てられたラリーの生い立ちなのであるが、その辺は割愛しよう。

 

Amazonで低い評価をしている方々は、この作品を単なるアメリカ人の日本旅行記、日本を礼賛した作品だと思っているようであるが、そんな底の浅い作品ではない。

 

物語の着想とプロット、文章、人物造形そしてエンディングと浅田らしい中々良い作品であった。

ただAmazonの「浅田次郎文学の新たな金字塔!」の紹介文は少々誇大ではある。( ̄_ ̄ i)

 

追記:

Amazonを見たら「蒼穹の昴」を源とする中国大河シリーズの最新刊「天子蒙塵」が出ているではないか!

現在二巻まで出ていて何巻まで出るのか不明だが、全巻揃ったら一気読みしよう。