389冊目 白仏/辻 仁成 | ヘタな読書も数撃ちゃ当る

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ある日突然ブンガクに目覚めた無学なオッサンが、古今東西、名作から駄作まで一心不乱に濫読し一丁前に書評を書き評価までしちゃっているブログです

「白仏」辻 仁成著・・・★★★★

筑後川下流の島に生まれた稔は発明好きで戦前は刀鍛冶、戦中は鉄砲修理、戦後は海苔の加工機製造などをしてきたが、戦死した兵隊や亡き初恋の人、友達、家族の魂の癒しのため島中の墓の骨を集めて白仏を造ろうと思い立つ。明治大正昭和を生きた祖父を描く芥川賞受賞第一作。1999年仏・フェミナ賞外国文学賞を日本人初受賞。


この人は古典的純文学作品と今風の作品とを書き分ける人で、1人の作家が書いているとは思えない。

現在、旦那の原作、奥さん(ミポりん)主演で「サヨナライツカ」が公開されているが、宣伝を見た感じではひと昔前に流行ったバリバリの恋愛ストーリーの様であるが、本作は鉄砲屋と呼ばれた著者の祖父をモデルに、祖父が生きた戦前、戦中、戦後の波乱の一生を描いた、バリバリの古典的純文学である。


主人公の稔は幼少時から既視感(デジャヴ)をよく感じ、時折「白仏」を幻視するようになる。

少年時代、兄が川に流され水死、強い想いを寄せていた近所のお姉さんが嫁ぎ先から亡くなり戻り、戦地で敵のロシア人を自らの手でとどめを刺し、幼なじみの1人が戦死、戦後もう1人の幼なじみは自殺。

稔の人生には死への不安と自責の念が付き纏っていた。

そんな思いがあり、稔は島中の墓から骨を掘り出しその骨を砕き「白仏」を造ろうと決意する。

島民の理解も得て幼なじみと共に白仏造りに全力を傾けるが、2人に病魔が襲う。。。


調べてみたら、この白仏が福岡県大野島の勝楽寺に現存していた

ロックミュージシャンが書いたとは思えぬ、中学生位でも読める素直な文体とストーリーで、派手さは無いがしっとりと心に響くいい作品であった。


白仏 (文春文庫)/辻 仁成
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