これが16日の記事のすべてですが、朝日新聞夕刊には「素粒子」というコラムがありました。その日のトピックに一言言うコーナーです。そこに珊瑚事件がありました。
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素粒子
わが同僚が、自然破壊を報ずるために、サンゴを傷つけた事実は、どう非難されても仕方ない。
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わが読者のみならず、自然を愛する、すべての地球市民に、「素粒子」筆者もおわびする
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以下略
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図版7
平成元(1989)年5月20日朝日新聞朝刊第一面に囲みで記事が出ました。
図版8
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サンゴ写真 落書き、ねつ造でした
深くおわびします
取材の二人 退社・停職
監督責任者も処分
四月二十日付けの本紙夕刊一面に掲載された「サンゴ汚したK・Yってだれだ」の写真撮影について、朝日新聞社はあらためて真相調査を続けてきましたが、「KY」とサンゴに彫りこんだ場所に以前から人為的な損傷があったという事実は認められず、地元ダイバーの方々が指摘されるように、当該カメラマンが無傷の状態にあった沖縄・西表島のアザミサンゴに文字を刻みつけたとの判断に達しました。
このため、本社は社内規定により十九日、撮影を担当した東京本社写真部員(当時)本田嘉郎を同日付で退社処分としたほか、関係者についての処罰を行いました。自然保護を訴える記事を書くために、貴重な自然に傷をつけるなどは、新聞人にあるまじき行為であり、ただ恥じいるばかりです。関係者、読者並びに自然を愛するすべての方々に、深くおわびいたします。
この事件につき、朝日新聞社はさる十五日付でとりあえず関係者三人を処罰するとともに、東京本社編集局長、同写真部長を更迭するなどの措置をとりました。しかし、本田写真部員(十六日付で編集局員)らの行為は当初の報告よりもはるかに重大・悪質であることが明らかになったため、さらに十九日付出本田を退社処分にしたほか、水中撮影に同行し、本田の行動に気づいていた西部本社写真部員村野昇は停職三カ月としました。
また、監督責任、出向点検不適切などで専務取締役・編集担当中江利忠、東京本社編集局次長兼企画報道室長桑島久男、西部本社写真部長江口汎、東京本社写真部次長福永友保はそれぞれ減給、西部本社編集局長松本知則は譴責とする処置をとりました。本田に対する退社は、いわゆる懲戒解雇に当たる、もっとも厳しい処分です。(3面に、本社がこれまでに行った調査結果を掲載しました)
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図版9
同5月20日夕刊の素粒子は次のとおりです。
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素粒子
「いけ図々しい、他を笑う素粒子よ、目くそ鼻くそを笑うのか」という投書もいただいた。
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ねつ造の申し訳なさに、うちひしがれつつ思った。おわびの中身をたゆまず実行しよう、と。
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朝日の全社員が責任を痛感するなかで。非力だけれど、筆者も寸評を生き、責を果たそう。
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以下略
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図版10
また、得意の検証をしていますが、その中に、ダイビング組合の経過報告書というのがありました。書き起こしたものを示します。一部、活字が読めなくて伏せ字にしたところがあります。意図的ではありません。
図版11
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撮影の直後に落書きを確認
竹富町ダイビング組合経過報告書の要旨
2年前に、西表島の崎山のアザミサンゴに落書きされたことがあった。
これは後からの調査によると、現地のダイビングサービスを使わないダイバーが、自分たちだけで地元の船を雇って潜り、傷を付けていたことにほぼ間違いの無いことが分かった。
朝日新聞東京本社写真部の本田カメラマンは、かつて自らこの時のアザミサンゴの傷を見ており、ダイバーのモラルに警鐘を鳴らしたいと考えて、4月10日に朝日新聞西部本社の村野記者と2人で、西表島に来た。
同11日、午前中にダイビングチーム「うなりざき」の下田一司氏のガイドで、アザミサンゴに潜り、3人で、傷を捜すために丹念に調べたにもかかわらず、作為的な傷らしい傷は見つけ出すことが出来なかった。ただ、今回問題になっているアザミサンゴとは別の、少し離れたところにある小さいアザミサンゴには「Y」らしき文字が確認された。
この潜水の後、本田カメラマンらは、「これじゃ写真にならない」と下田氏に話しており、傷が残っているかもしれないと思ってガイドした下田氏は自分の記憶違いをわびた。
アザミサンゴの傷の再生力についての話などをした後、白保港で、昼食とボートの燃料供給のために、約2時間の休憩をする。
この間に、本田カメラマンは、民宿に水中カメラのレンズを取りに帰る。
11日の午後、下田氏は、なにかしらの傷跡をなぞり、写真を撮りたいという彼らをもういちどアザミサンゴのポイントまで連れて行く。
このとき下田氏は、サンゴのポリプは軽く触れるだけでも一時的に白くなるので、その程度のことだろうと思っていた。
午後からのダイビングは、潮流も出てきており、カメラマンらは流されかけていたので、下田氏は、アザミサンゴまで一緒に潜り連れていったが、午前中にも一度一緒に潜っているので、先にボートに戻っていた。
潜水終了後、特に新たな傷の発見があったという話はなかった。
12日午前。この日は、コナラ水道に行く予定であったが、本田カメラマンらが急きょ、もう一度アザミサンゴに潜りたいというので、再び彼ら二人だけで潜り、下田氏は船上でワッチをしていた。
この潜水終了後も、新たな傷の発見及びそれを撮影したことについて、話はなかった。
このとき、ユースダイビングの関○○氏が、ダイバーを連れて潜っており、撮影中の本田、村野両記者を目撃している。そして撮影直後のアザミサンゴに近づくと、問題の「KY」の文字と削り取られたばかりの白いサンゴの破片が落ちていることも確認している。
そしてこの12日の午前のダイビングを最後に本田、村野両記者は西表島をたった。2日間で計3回のダイビングをした。
4月20日に矢野○○氏が、21日に笠井○○氏がそれぞれアザミサンゴの傷を確認。
と同時に、二人のもとに東京の知人らから、朝日新聞の記事についてつぎつぎと電話で連絡が入る。
4月26日、竹富町ダイビング組合として、事態の真相究明に動き出す。
ボートを使わなければ潜ることの出来ないポイントなので4月11日と12日の両日にこのポイントに行くこと出来る各サービスの動向を調べた。
というのも、11日の午前中に、傷を捜す目的で潜ったにもかかわらず、落書きが見つからなかったからである。
(中略=各ダイビングサービスの両日の行動)以上のような状況から、アザミサンゴの「KY」という文字は、朝日新聞社の本田、村野両記者による自作自演である疑いが非常に濃厚になったため、27日夕方、下田氏が東京本社の本田カメラマンに問い合わせの電話をするが、本人に笑って否定された。
同日夜、笠井氏がもう一度電話をしたが丁重に尋ねたにもかかわらず、窓口の人間が「朝日にかぎって絶対そんなことはない」と非常に乱暴な応対をした。 (5月15日付)
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カメラマン 退社処分 懲戒解雇相当
同行した西部本社写真部員 停職3ヶ月
専務取締役・編集担当中江利忠 減給
東京本社編集局次長兼企画報道室長桑島久男 減給
西部本社写真部長江口汎 減給
東京本社写真部次長福永友保 減給
西部本社編集局長松本知則 譴責
他のHPではこのほかに以下の処分が記載されていました。
東京本社編集局長 更迭
東京本社写真部長 更迭
東京本社社長 一柳東一郎社長 辞任
朝日新聞の言う退社処分とは何なのか引っかかりました。紙上では「本田に対する退社は、いわゆる懲戒解雇に当たる、もっとも厳しい処分です。」としています。それなら、「懲戒解雇」すれば良いと思うのですが、退社処分ということにしたようです。最初、朝日新聞には「懲戒解雇」がないのかとおもいました。しかし、ちゃんと朝日新聞にも懲戒解雇があるということが分かりました。 それは何かというと、
週刊朝日の編集長解任 朝日新聞が懲戒解雇処分
2013/10/9 1:42
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO60835690Z01C13A0CR8000/
朝日新聞出版は8日、朝日新聞から出向していた「週刊朝日」の小境郁也編集長(53)に重大な就業規則違反があったとして編集長を解任し、朝日新聞が懲戒解雇処分としたと発表した。
以下略
ちゃんと懲戒解雇しています。
では、このカメラマンの処分は何か?
とある弁護士のブログ
「解雇とは、使用者による労働契約の一方的な解約ですが、何を理由に解雇するか(解雇事由)によって、一般に「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の三つに分類されます。」(http://jinjibu.jp/keyword/detl/609/)
カメラマンの処分は、これからすると懲戒解雇の範疇になります。しかし、懲戒解雇にも種類があることがわかりました。それは、「諭旨解雇」です。
http://jinjibu.jp/keyword/detl/609/
「諭旨解雇」とは、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の一つで、最も重い処分である懲戒解雇に相当する程度の事由がありながら、会社の酌量で懲戒解雇より処分を若干軽減した解雇のことをいいます。「諭旨」は、趣旨や理由を諭し告げるという意味。労働者の責によって生じた業務上の支障や損害について、使用者が強制的に処分を下すのではなく、使用者と労働者が話し合い、あくまでも両者納得の上で解雇処分を受け入れるのが諭旨解雇の概念です。
(2013/11/25掲載)
「懲戒解雇」は労働者の責に帰すべき理由による解雇です。企業秩序を乱したり、法に抵触して逮捕・起訴されたりといった労働者の重大な違反行為に対する最も重い懲戒処分(責任追及・問責手段)として行われます。
この懲戒解雇に値する事案でありながら、処分をやや緩やかにした解雇が「諭旨解雇」です。懲戒解雇の場合は原則として退職金などが支給されない(ただし懲戒解雇になれば自動的に退職金が不支給になるのではなく、退職金支払規程にその旨の記載が必要)のに対し、諭旨解雇の場合は貢献度などによって、その全部あるいは一部が支給されるなど、懲戒解雇と比べると、処分によって労働者が被る不利益が軽減される傾向にあるようです。先日、有名芸能人の成人した息子が窃盗罪で逮捕され、勤務先のテレビ局から諭旨解雇された旨の報道がありましたが、これを受けて一部から「甘すぎる」などの批判が起こったのも、同じ“罰”でありながら、懲戒解雇と諭旨解雇とでは実質的な処分内容に少なからぬ差が生じるためでしょう。
とはいえ諭旨解雇も、一方的な制裁として労働契約を解除し従業員を失職させる点では懲戒解雇と同じです。労働者にとってはキャリアに傷がつき、再就職で不利になる可能性も少なくありません。したがってその手続きや有効性は、懲戒解雇と同様に、法律の規制を厳しく受けることになります。そもそも諭旨解雇は、本来なら懲戒解雇に処すべき従業員に対する一種の“温情処分”ですから、逆にいえば、従業員の行為に懲戒解雇を科しても重過ぎない程度の解雇事由がなければ有効性は認められません。また諭旨解雇処分を行うには、あらかじめ就業規則に諭旨解雇事由が明記されていることはもちろん、会社からの諭旨が行われ、従業員本人にも弁明の機会が与えられていることなどが必要です。
ここまで、http://jinjibu.jp/keyword/detl/609/
つづく