たっぷり塗った生クリーム、
たっぷり盛られたストロベリー、
とろっとかけられたチョコソース、
そんな甘い甘い食べ物が大好きだ。
小さい頃は親がケーキを買ってくれたり、一緒に食べに行ったりしたが、それも歳をとるごとになくなった。
友達とつるむようになってからは、家でしか食べなくなった。どの店を見ても、甘いものを食べているのは女で、店の中はカップルか女同士ばかり。
「理玖、口開いてる」
「!…匠、」
下校途中、いつのまにか横に並んでいた幼馴染の瀬戸匠に声をかけられる。立ち止まっていたのは、新しくできたカフェの前。
「なに、新しくできたの?」
「そうみたい」
小さくため息をつく。新しいその店はこじんまりとしながらお洒落で可愛らしい外装だ。窓から見える店内には男の客の姿はない。
「腹減ってんの?寄ってく?」
「い、いやいいよ。駅前のたい焼き、食べに行こう」
「たい焼きでいいのか?」
「いいの。たい焼き、食べたい気分」
「お前、あそこのたい焼き好きすぎるだろ」
「ははは」
たい焼きというより、あんこ。あんこというより、甘いもの。甘いものが食べたくなるとつい行く屋台のたい焼き屋。駅前に週3回ほどきていて、毎週一回は食べに寄る。匠はそれに付き合ってくれている。
匠とは幼馴染だが、家族の都合で匠は小学校卒業と同時に引っ越していった。そして三年後、高校入学と同時に戻ってきた。たまたま同じ高校に受かることができ、再会。
「今日、早めに帰らねぇと」
「手伝い?」
「おう。店番しろって朝に言われた。部活してないのをいいことに、暇だと思われてるから」
「部活しないの?」
「んーしたいのがない」
「中学では陸上したらしいじゃん」
「陸上より家で寝るほうがいいや」
「なんだそれ」
「それに陸上入ると、理玖とたい焼き食べに行けなくなるしな」
「なんだよそれ」
匠は笑って言った。匠が陸上をしていたのを知ったのはつい最近。その理由はすぐに察しがついた。彼の親は、高校で再会した時離婚しており、母親だけとなっていた。母さんと親父が話してるのを聞いた話だと、家庭内暴力があったとかで揉めたらしい。匠は、家にいるのが嫌で陸上にいたのだろう。今、匠と母親は仲は良いのが救いだ。
「ならたい焼き明日にする?」
「たい焼きくらい食べに寄っても怒られねぇだろう」
ほら行くぞ、と言わんばかりに腕を掴んで駅前へと小走りに行く。そのたい焼き屋はそこそこ繁盛しているため、下校時間の今頃は学生で列ができる。
「げ、出遅れた」
すでにできてる列を見て、匠は眉を寄せる。が、食べるらしく最後尾に並んだ。
ゲームの話やテレビの話をしているうちに列が短くなる。
「あんこ一つに、カスタード一つ」
匠は当たり前というように頼む。一つづつ受け取ってまた歩き出す。帰路を先ほどよりゆっくりと。
「匠はいつでもたい焼きはカスタードだね」
「お前こそ、絶対あんこだろ」
「たい焼きといったらあんこだろ?」
「固定概念」
「いいじゃん、美味しいんだもん」
「食べてみりゃいいじゃん。ほら」
「……貰っていいの?」
「当然」
差し出された食べかけのたい焼きと匠を見比べた後パクリと食いついた。とろっとカスタードが口に広がる。あんことは違った甘さ。
「んまい」
「だろ?カスタードのたい焼きもうまいんだって」
あぁ、いい笑顔だ。そして俺の食べた上から口をつける。
「…理玖、口開いてる」
「へ?」
「そんなにカスタードうまかった?」
気づけばじっと彼の口元を見てしまっていたようで。癖で口が開いていた。隠すようにたい焼きを頬張る。
「んぐぐ」
「何いってるかわかんねぇよ」
ハハッと笑う匠をみて、どうやら誤魔化せたようだった。
「じゃあ、店番してくりゃ」
「がんばくりゃ」
「それは無理あるだろ」
ハハッと笑いあって手を振って分かれた。とは言ってもT字路を挟んで15分の距離に家がある。曲がったふりをして、角から覗くと、カランとドアベルを鳴らしながら彼はケーキ屋に入って行く。母親が経営しだしたケーキ屋。その手伝いをしているらしい。らしいというのは、一度も入ったことがない。恥ずかしくて、言えずにいる。
「……いいな」
見て見たいと思う。入りたいと思う。甘いスイーツの並ぶショーケースに、焼き菓子が並ぶ棚。甘い匂いと香ばしい匂いの厨房。
「帰ろう」
行く勇気もなく、小さくため息をついて玄関のドアを開けた。