「いってきます」
玄関を出て、いつもの通学路を歩く。30分という少し長い通学路の間には、誘惑がたくさんある。
新店舗のお洒落なカフェ、仕込みの始まったケーキ屋、落ちたついた雰囲気の喫茶店、老舗の和菓子屋。
行きはどこも閉まっていたりするが、帰りが目移りしてしまう。窓際に座る人の頼んだメニューが気になりチラ見をして。ショーケースに並ぶケーキをチラ見して。30分の通学路は、帰りは45分ほどかかって帰る。
「おはよ」
「おはよう、匠」
歩いているといつも早足の匠が追いついてきた。陸上をしていただけあって、歩くのも自然と早い。素質はあったのだろう。反面、僕は歩くのは遅い。走るのも遅い。
「今日、二限体育何だっけ?」
「サッカーだったと思うけど」
「よし!」
やる気を見せる匠に対して、答えた僕はあまり乗り気ではない。なにせ運動全般微妙なのだ。できないというほどでもなく、できるかと言われれば否。対して楽しくもないのが体育。得意というほどでもないが、勉強の方がまだマシだと思う。
「昨日の[まじじんのそれどこ]みた?」
「あー…みてないや。お風呂はいってた」
嘘。まじじんという芸能人が世界のなにかを紹介する番組。その時間は丁度、ぶらり喫茶という各地のカフェや喫茶店を紹介する番組をしている。そこに行く機会があればと、ノートにメモまでしている。
「毎週、その時間風呂じゃねぇ?」
「そ、うかな?」
どきっとした。
「毎週聞いても、みたっていったことねぇもん」
なぜ覚えているのだろう。
「たまたまだよ」
「なら来週こそ見ろよ!来週はさ、」
次回予告を宣伝するように伝える。仕方ない、ぶらり喫茶は録画しようか。
「それどこでさ、やってたんだけど」
観てないと言っているのにもかかわらず、その番組の話をする。しかし、説明の上手な匠の話は楽しい。見てない番組も見ているかのように思えてくる。それになかなか楽しい番組なのだろうとも思えてくるのが不思議だ。世界なんて大して興味はないのに。
「じゃあ、また昼休みな」
「あ、うん」
クラスが違うため、教室前で分かれて入って行く。すぐに匠の入った教室から挨拶や笑い声が増える。匠はフレンドリーで人柄も良い。あっという間に友達も作っていた。反面、
「……」
教室に着くなり誰とも挨拶もせずに椅子に座る。対して友達もいず、やっとのことでできていた中学までの友達もなぜか誰一人受からず、この半年、1人で教室にいる。嫌われているわけではないから必要最低限は話をするが、特段仲の良い人もいずという悪循環。救いは、1年時に同じクラスだったため、習慣化してしまった昼休みの匠との屋上飯。それがなければぼっち飯だっただろう。
小さい頃から内気で、人前でうまく話ができず、言いたいことも言えない性格。
隣で僕の知っている話をしているにもかかわらず、話に入っていけない、いわゆるチキンな僕。
授業で答えを知っていても手をあげることも、当たった同級生を助けることもできずに黙々とノートを取る僕。
そしてそんな授業や休憩時間を繰り返して、やっと昼休みのチャイムが鳴った。
「……」
午前中はほぼ無言で、授業が終わると同時にお弁当を持って屋上へと向かう。隣のクラス、匠のクラスはまだ授業をしていたから。
「お待たせ、待ったか?」
「ううん。食べよう」
10分ほどして匠は屋上に来た。
「いつも凝ってるな」
「か、母さんが好きだから」
お弁当を覗き込まれてどきりとした。色合いを考えて作られたお弁当は実は自作。お弁当作りもお菓子作りもすき。
「これ、母さんが」
「また?楽しみなんだよな、食後のデザート」
母さんが作ったと言いながら、度々、作るおやつを持ってくる。今日はチーズケーキ。その時の匠の表情が好きで、つい何度も作って来てしまい、今や習慣化している。
「昨日はクッキーで、今日はチーズケーキか。また、手が凝ってるよな」
つまみ食い、といいながら一口四方に切られたチーズケーキを一つ口に入れる。
「んー、うまい」
パッと笑う匠が好きで。作って来て良かったと毎回思う。毎日見たい笑顔だけれど、飽きられたら困るので時々にしている。週に2.3回ほど。
お弁当を食べるときは大概黙ってしまうので、その間に次は何を作ろうかと思案する。匠は何が好きだろうかと。