7月20日金曜日~その4



(写真) 先月、24日に六音盤レーベルから発売された『河内家菊水丸 河内音頭傑作選 新録音』。収録は「祐天吉松」「乃木将軍 伊勢参り」「九代目横綱※ライブ」「ボーナストラック~河内家菊水丸の外題解説」。河内音頭記念館でもお取り寄せ販売中。ご一聴を頂ければ幸いです。 特典の解説文を此処に転載いたします。


『正真正銘の55歳の私です』
河内音頭とは大阪を代表する民謡であり盆踊り唄。上方芸能と云うジャンルに入れば、語り芸でもあるのです。さて、夏の櫓では、踊り手の皆さんと一体化になれるリズム感さえ有れば、及第点となりましょう。しかし、舞台音頭と呼ばれる語り芸としては、少年時代より数々の諸先輩方の高座を見る限り、及第点には及びません。盆踊りの櫓で口演する台本と変わらない物語の粗筋だけを追った内容だからです。また、強弱の無い太鼓とギターが喧しく余計に歌詞が聴衆に伝わり難いのです。
今回のアルバムでは、いわゆる舞台音頭を収録しました。登場人物の言葉のやり取りを櫓では歌ってしまう部分も、語りと啖呵(セリフ)で演っています。参考にしているのは、おこがましくも浪曲では名人広沢虎造師匠と先代京山幸枝若師匠。落語は桂米朝師匠、三遊亭円生師匠、立川談志師匠。講談が五代目寶井馬琴師匠。兎に角、硬い話、笑いの入る話の何れを聴いても判りやすい名人方です。百会派千人、或いは二百会派二千人とも言われる河内音頭取りで、此れらの偉大な先人の芸の研究を手掛けたのは私だけであろうと自負しております。少年期に先代幸枝若師のギター伴奏を務めた際、頂いた高額のギャラで昭和の名人達のレコードを買い漁って、朝から晩まで聴きまくったところ、芸の凄さに気がついてしまったのです。これは、ある意味不幸とも言えましょう。どれだけ修練しても、遥かなる名人の域には追い付く事は不可能なのですから…。まさに雲上人。知らぬが何んとやらで、そこいらの音頭取りみたいに、ドガチャカドガチャカと平気でやっていられる神経
なれば、極楽で楽しいでしょう。しかし、私は河内音頭を職業に選んだのです。此れで飯を喰っているのです。節と啖呵、語りを織り混ぜた菊水丸なりの河内音頭を世に問いたいとの気概だけは持っています。試行錯誤の末、何とか方向性が少し見えてきました。
最後に、私は大の相撲ファン。昭和平成を通じて正真正銘の大横綱貴乃花親方を尊敬しています。それゆえに、私のレコーディングは偽りなしの一発録音です。途中で間違えたら最初から演り直します。只今は技術の発達で、一言間違えても其の部分だけ差し替えたり、音程のあやふやな箇所の調整は意図も簡単に出来てしまうのです。即ち、実力以上の作品を世に出す事が可能となりました。私はそれらの行為は、八百長だと思っています。親方を見習って胸を張っていたい。そして、この音源は正真正銘の55歳の私です…と言いたい。

平成三十年六月十五日 南山城村にて
伝統河内音頭継承者 河内家菊水丸