3月28日金曜日~その2



開口一番に御挨拶を申し上げる。親方のスピーチで乾杯!。私の右隣が千昇関で、硬軟取り混ぜた話に花が咲く。和気あいあいの宴も、お料理を食べ終わる頃には、そろそろお開き。手拍子アカペラバージョンで河内音頭をご披露する。ラストは恵光寺の先代住職が歌う「知床旅情」。



♪知床の岬に はまなすの咲くころ 思い出しておくれ 俺たちの事を 飲んで騒いで 丘にのぼれば はるかクナシリに 白夜は明ける
♪旅の情けか 飲むほどにさまよい 浜に出てみれば 月は照る波の上 今宵こそ君を 抱きしめんと 岩かげに寄れば ピリカが笑う
♪別れの日は来た ラウスの村にも 君はでてゆく 峠をこえて 忘れちゃいやだよ 気まぐれカラスさん 私を泣かすな 白いかもめよ 白いかもめよ



(写真)輪島、北の湖、貴ノ花、魁傑が全盛だった私の少年期、小雪の舞い散る2月下旬、大相撲一行が大阪入りしますと、学校の勉強どころでは有りませんでした。各部屋が天王寺区上本町周辺に密集しており、放課後は色紙とマジックを鞄に忍ばせて、花形力士にサインを貰ってまわりました。日曜日は、朝稽古を見学。府立体育会館の天井桟敷で序ノ口から弓取式まで観戦。やがて、15日間の熱戦が大詰めを迎える頃には春休み。直ぐに千秋楽。1週間の休養を経て、力士一行は上本町地上駅に集合。伊勢神宮奉納相撲に旅立ちます。ホームへ見送りに出掛けた後、名残惜しげに各部屋を訪ねますと、力士幟は既に無く、土俵も片付けられ、力士の姿は有りません。また来年かぁ…と云う寂しい気持ちを、春の陽気が助けてくれるのです。此が相撲ファンの千秋楽で御座います。昨年、恵光寺の住職、先代住職、檀家の皆様のご厚意で式秀部屋の宿舎を境内に受け入れて下さいました。僭越ながら、仲人役の私は、滞在中のさまざまな出来事に加えて、力士一行が離れる
時の気持ちを味わって頂ければ嬉しいなぁ…と思っていた次第です。今夜、「知床旅情」の歌い出しを聴いた瞬間、感激で胸が一杯となりました。はまなすは5月頃、式秀部屋が居を構える茨城県の海岸にも咲いている筈です。日常の生活に戻った夏場所の頃には、恵光寺で共に過ごした日々を思い出して欲しい…今夜の宴が終われば、一行が萱振を旅立つと云う寂しさ…を、約1か月半に渡って存在感の有る力士達と寝食を共にされた先代住職が、一ファンが抱く寂しさを超越した同志との一期一会の選曲と推察しました。