カイエンヌのフラワーエッセンスを飲み始めて、
クララに出て来たもの、それは「欲望」だった。
クララは思った。
「お金が欲しい」と。
これがどんなどんなにすごいことか、わかる人はいないだろう。
クララが「お金が欲しい」と言った。
クララは何かを欲しがることなんてできなかった。
お金に限らず、仕事、恋人、服やアクセサリー、誰もが欲しがりそうなものを「欲しい」と言えなかった。
自分に素敵なものを得る価値がないと思っていたから。
そして、欲しいと思ってしまうと、「手に入らない」悲しさを思い出してしまうから。
だから、「欲しい」と言えることは、クララにはすごいことなのだ。
なんで「欲しい」と言えるようになったのか?
自分にその資格ができたと思っているわけではない。
運動したら落ち込まなくなったように、
そこに根拠はないのだ。
しかし、欲しいといったって手に入るわけでもなく、
クララはイライラし始めた。
クララは、アンネローゼ嬢、エイミーという2人の女性と働いている。
この2人は正社員だ。
私より給料が年収で100万は軽く多い。
でも、仕事はいっしょ。
むしろ、私の方がキャリアが長いので、クレーム処理や、あたらしい運用の打ち合わせなど、私が表に立つ場面も多い。
でも給料は違う。
なのに彼女たちは、毎日のように文句を言う。
給与が少ないとか、数百円の商品でも高くて買えないとか。
大好きなのはポイントカードの5倍デー。
自然食品屋で食品を買う私に「いいね~セレブで」と悪気なく言うこともある。
「お金の不安」で言いたかったのは、本当はこれ。
同じ仕事なのに、なんで私だけ??
むしろ私の方が大変なことだってあるのに。
なんで、なんで、なんで、なんで…………
ただの嫉妬、逆恨みである。
わかっていても止められない。
今までは、彼女たちは素晴らしい存在で、
私は、ダメな人間なんだから、
会社に置いてもらえるだけで感謝すべき存在であり、
給与が違うのは、ごくごく当然のことと思っていたのである。
でも、今はむかつく。
私だってお金が欲しい。
貯金というものをしてみたい。
リサイクルショップ以外で服を買いたい。
一つくらいアクセサリーを持ってみたい。
毎日同じ靴とバッグをやめたい。
旅行だってもう何年も行ってない。
なんで私だけ。
ここまで強く思うには理由がある。
実は、私は正社員への推薦の可能性があった。
もし、それが叶えば、クララは人生で初めて「人並みの給与」を手にすることになる。
今まで体験したことのない世界。
それが叶うかは微妙なところだった。
部長と経営者が変わり、会社からは、「経営の厳しさ」を再三にわたって言われていた。
別の部署では、正社員をゆくゆくは嘱託にする話も進んでいるという。
クララの中で、
「正社員になりたい」という気持ちと
「正社員にはなれないんじゃないか」って気持ちと
「正社員になってやっていけるのか?」って不安が渦巻いていた。
それでもとにかくお金が欲しくてたまらいクララは、
とりあえず、経営のおもわしくなさを理由に正社員の話を見送ろうとされたら、
他の2人と同一労働であることを理由に、ごねるつもりでいた。
社員の「お金がない」愚痴を複雑な気持ちで聞きながら、
クララは1人、胸の奥にどす黒い炎を抱えていた。
しかし、クララのそんな思いが吹き飛ぶような、すさまじい事件が起こるのである。
続く。