「何回目なん?なんでないん?」
 豪雨。コンビニから出たらこれだ。ちょっと入っただけなのに。手には今晩のつまみと酒がぶら下がっている。
 夜8時頃。仕事に疲れて会社から出たら、豪雨。ケータイを確認したら元々雨予報だったらしい。ストレスでいっぱいいっぱいです。たまたま置き傘してたからいいものの、無かったら私はどうやって帰るつもりだったのか。なんだか得した気持ちで置き傘に手を伸ばした。伸ばした先にあるのは元カレが置いてった黒い傘。指先が傘の持ち手に触れる。これをまた私の家に持ち帰らないといけないのか。あいつに助けられたかのような、いやいや、そもそも会社に置いていた私が偉いのか。
「とても複雑ですっ」
 ぱっと持ち手を掴み、ばっと傘を開いた。途中でコンビニに寄ってお酒とつまみを買おう。んで、さっさと帰ろう。シャワーを浴びて、晩酌なんてしちゃおうかしら。最近テレビ観れてないし、なんの興味もないけど野球とか観ちゃおうかな。バケツをひっくり返したような雨の中、足をビチャビチャにしながら歩いていた。

 さて。コンビニの出入り口で途方に暮れているのは私です。
「なんで私の傘を持っていくんや」
 豪雨。もう足は濡れてるんです。確かに、今更変わらないかもしれないけど、スーツが濡れるのはちょっと、いやかなり嫌だ。
 そもそも沢山ビニール傘がある中で、黒の高そうな傘を持って行くか?普通。だるぅ。ため息が溢れた。まばらに人通りのある道をぼーっと眺めながら、取られてしまった傘を想う。
 突然いなくなった彼の傘。まるでアイツのようだ。良いものは、誰だか分からない奴に取られてしまう。気がついたらもう私の手から離れてしまっていた。私が選んだ私のものなのに。
 目の前が滲んで、街灯がぼやけて。
「……大丈夫、ですか?」
「大丈夫じゃないですぅ」
 もうギャン泣き。嫌だ嫌だ嫌だ、うわーん。中にいたコンビニの店員さんが心配して見に来るくらいには泣いていたようで、私の脇を通るお客さんも引き気味であった。
「これ、よかったら……」
 汚いですけど……と、金髪の若い店員さんがビニール傘を差し出してきた。誰かが置いていった傘。ぐしゃぐしゃの顔が店舗のガラスに映る。汚い。あまりにストレス。
「あ、ありがとうございます」
 袖で目をゴシゴシ拭った。鼻を啜る。まだまだ雨はまるで豪雨。ため息を吐いた。
「なんだかんだビニール傘置いていかれるんで、良ければ持っていってください」
 お兄さんは笑う。私は傘に手を伸ばした。私の選んだ私のものは良いものらしい。ビニール傘をありがたく貰うことにした。早く帰ろう。お酒とおつまみが入った袋を強く握った。雨の中、ビニール傘を開く。靴が更にビチョビチョになりながら私は歩いた。
 家はまだまだ先、雨はまるで豪雨。