「好きなもんを怖いとか言ったら、それがもらえるらしいで」

 アホの雄大はどこからそんな情報を仕入れたのか分からない。が、ワクワクみたいなすごいだろうみたいな顔をしてくる。

「オレな、アイスが怖いんねん。チョコアイス」

「いやいや、無理やで」

 なんで!とか言ってるアホ。俺は無視して課題を鞄から出した。今日の課題はややこしい。

 現状、アホの部屋で課題をすることになっていた。アホはまだ、課題を出してもいない。全然諦めてないみたいだ。ガタガタと机を揺らしている。やめろや。

「なぁ、アイスが怖いって言ってるやろ」

「知らんて、元ネタ。早よ、課題終わらそうや」

 そんなん言うなって、なぁーとうるさい。

「ないんやから、仕方ないやろ。今から買いに行けっていうか」

 ほっぺたを膨らませても全く可愛くないアホを無視する。さっさと済ましてしまおう。ガタガタといまだに揺れるテーブルに俺は順応し始める。

「仕方ないな。じゃあ、お前の怖いもの何なん?」

「あー、今ならこの課題かな。終わらんと怒られるやろ」

 そう言うと雄大はニヤッと笑って自分の鞄を漁り、課題を取り出し俺の課題の上に乗っけた。

「やるわ」

「いらんわ」

 これが元ネタや、と雄大は言う。死ねばいいのにと思った。俺は自分の部屋に戻ろうと立ち上がる。「待て待て。ごめんて」焦ったように謝るアホ。俺は真顔でこう言った。

「今すぐ、俺のためにアイス買ってこい。んで、帰ってきたら俺が食べてる間、土下座しとけや。俺はそれが1番怖い」

 雄大はしょんぼりと財布を持って部屋から出ていった。そのあとは語る必要はないだろう。

 おしまい。